paddling days

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漕ぎ続ける日々の行方 。

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「わたし、帰る」




中山が後ろで何か言っている。でも、わたしは、そんな言葉に耳も傾けず、すたすたと出口へ歩いて行った。





気分が悪い。初めて会った人に、なんで自分を否定されなくちゃいけないの?





意味わかんないし。





カラオケボックスから出ると、ふっと車の排気ガスの臭いがした。





ああ、いつもと変わらない日常のにおいがする。









「逃げるの?」








わたしの背中に浴びせられた中山の言葉。









逃げじゃないもん。









あんな風に言われたら、誰だって気分を悪くする。









だいたい、あいつは何様のつもりなんだ?











『違いすぎるんだよ』










駅前のホコリっぽい空気にむせ返りそうになる。瞳の奥がきりきり痛んでいた。

「洋一、どうよ、近頃。」



「どうよ、って言われてもなぁ・・・。」




「俺には、近頃、世界の二分の一の悩みが取り付いているな。」




「二分の一の悩み?」








「世界中で悩まれ、ある人は『喜び、楽しみ』に変える。そして、ある人は『怒り、哀しみ』に変える。その悩みこそ、世界を変える。精神の上においても、現実の上でも。」





茂木は少し興奮気味に、言葉を続ける。




「ある人は生きる実感を得るもので、ある人は生きる実感を失くす。悩みのはずなのに、それを捨てる気にもなれない。悩みのはずなのに、失うことが怖い。」




その温かみはあるが、どこか冷たさの残るイメージに心を動かされて、

洋一は茂木の言葉を促すように口を開いた。





「その名は・・・・」














茂木は、ゆっくりとその名を口にした。





「愛する悩み」





「だから、




あんたって、




かわいくないって言ってんだよ」







中山の、少し怒ったような顔をみて、






ますます頭の中が混乱する。





なんだって? かわいくない?





しかも何で怒ってるの。






「ブラウスにアイロンかけるか?」



「形状記憶のヤツ買ってるから大丈夫だもん」






「髪の毛トリートメントしてるか?」



「シャンプーとリンス、ビダルだから大丈夫だもん」






「爪磨いてるか?」



「ネイルチップ貼ってるもん」







「それ100均だろ」







なんだか言いたい放題だ。






今日初めて会ったんだよ。





なんでいきなり追いつめてくるのよ。








「違いすぎるんだよ」