「わたし、帰る」
中山が後ろで何か言っている。でも、わたしは、そんな言葉に耳も傾けず、すたすたと出口へ歩いて行った。
気分が悪い。初めて会った人に、なんで自分を否定されなくちゃいけないの?
意味わかんないし。
カラオケボックスから出ると、ふっと車の排気ガスの臭いがした。
ああ、いつもと変わらない日常のにおいがする。
「逃げるの?」
わたしの背中に浴びせられた中山の言葉。
逃げじゃないもん。
あんな風に言われたら、誰だって気分を悪くする。
だいたい、あいつは何様のつもりなんだ?
『違いすぎるんだよ』
駅前のホコリっぽい空気にむせ返りそうになる。瞳の奥がきりきり痛んでいた。
