ウンスの診療事件簿 15【幽霊編⑥】 | 壺中之天地 ~ シンイの世界にて

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韓国ドラマ【信義】の二次小説を書いています

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《2024年2月10日 改訂》

 

 

それから二日後、ウンスが屋敷でヨンを待っていると、テマンが帰ってきた。

 

「医仙さま、申し訳ありません。

大護軍がまだ帰れないそうで、先に向かうように言われました」

 

四年前よりずっと背も伸びて大人っぽくなったテマンだが、人懐っこい笑顔でニカッと笑う仕草は変わっていない。

相変わらずヨンの私兵として、そしてウンスの護衛としてチェ家と王宮を行ったり来たり飛び回っている。

 

「そうなの?

じゃあ先に行きましょうか」

 

一応テマンが護衛とはいえ、ウンスが黙って歩いているわけもなく、テマンに話しかけているうちに二人の距離はどんどん近くなっていく。

テマンも迂達赤での出来事を身振り手振りを加え話し始めるとますます会話は弾み、その姿はまるで仲のいい姉弟のようだ。

 

「今から行く文具屋の婆さん…迂達赤の中にも死んだおっかさんを見て貰ったと言ってる奴がいたんですけど、本当に幽霊が見えるんでしょうか?」

 

「さあ、どうかしら。

診てみないとまだわからないわね」

 

まだ幼い頃に一人きりになったというテマン。

テマンもまた会いたいと思っているのだろうか。

そう思ってウンスは隣に立つテマンの表情をそっと窺った。

 

「もしそうならあなたも視てもらいたい?」

 

テマンは少し首を傾げて考えていたが、大きく首を横に振った。

 

「オレ、大護軍に拾われてから、一回も寂しいと思ったことないんです。

迂達赤の奴らが家族みたいだし、医仙様も戻ってきてもっと嬉しくなりました。

どっちみち父ちゃんも母ちゃんも、顔あんまり覚えてないし…

だから、いいです」

 

「そうなの?」

 

テマンの目は澄んでいて、嘘を言っているようには見えない。

ウンスはテマンの肩に手を回した。

 

「テマン、ヨンと私もあなたのこと家族だと思ってるわ。

それはこの先もずっとそうよ。忘れないでね」

 

「…はい」

 

テマンは恥ずかしそうに笑って、頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

文具屋に到着すると、すでに主人が店の前に落ち着かない様子で待ち構えていた。

 

「医仙さま、こんなところまでお越し下さいまして、なんと申して良いか…。

医仙さまに診て頂けるなど、母は幸せものでございます。

どうぞよろしくお願いいたします」

 

「私から来たいと言ったのよ、そんなにかしこまらないで…

お母様はどこですか?」

 

早速ウンスは店の奥に案内された。

奥に白髪の婦人が座っている。

 

「ウンニョと申します。

医仙さまに来て頂けるなんて、もったいないことでございます」

 

「ユ・ウンスです。

ウンニョさん、楽にして下さいね」

 

受け答えはしっかりしているが、視点は落ち着かなく動いている。

 

「まず目を見せて下さい」

 

ウンスは部屋を暗くしてもらうと、手元に明かりを照らし診察する。

同時に見えなくなる前の見え方など質問をして、おそらく白内障の他に黄斑変性症もあるだろうと推測する。

 

「ウンニョさん、いくつか質問をしますので、答えて下さいね」

 

次に現代で行われていた神経心理学検査を参考にテストをする。

次に、動きを、そして息子である文具屋の主人やその妻にも、客観的な視点からの質問をした。

 

「ウンニョさん。目が見えなくなってからも、人や動物なんかが見えるって聞いたのですが、いつから見えるようになったんですか?」

 

「三月程前から少しずつでしょうか。

段々目が見えなくなってきてたのですが、時々はっきりと見える時がありまして、そのうち、人が話しかけてくるように思いはじめたのです」

 

「なるほど…」

 

ひとしきり、ウンスはウンニョの話す信じがたいような話を聞きながら、頭の中で考えを整理する。

 

ウンニョの認知に関する検査には問題がなかった。

動きもスムーズで、元々商人の妻だからか記憶力も計算能力も高い方だ。

つまり、認知症である可能性は少ない。

レビー小体型認知症から来るものではないだろう。

だったら…。

 

ウンスはふと、ウンニョがじっとこちらを見つめているのに気付いた。

 

「ウンニョさん、どうされました?」

 

「医仙さま、医仙さまの後ろにも女の人が見えます。

どうやらお母様のようなのですが…」

 

「えっ…?!私のお母さん?」

 

ウンスは思わず大きな声を上げた。