かつて、遠い山あいの小さな国に、キイチという名の若い王がいた。彼は熱心で情熱的な性格で、国をより良くするために日々新しい政策を考えていた。しかし、その熱意が災いし、彼の政策は頻繁に変わることが多かった。

「これからは農業に力を入れよう!」と朝の会議で宣言すると、その日のうちに農業改革を実施する法令を発布した。ところが、翌朝になると「いや、商業こそが国の発展の鍵だ」と考えを変え、農業改革を中断して商業振興策に切り替える。こんなことが日常茶飯事だった。

国民たちは初めのうちは新しい王の熱意を喜んでいたが、次第に困惑し始めた。毎日のように変わる政策に翻弄され、農民たちは作物の収穫に集中できず、商人たちは安定した取引ができない。国中が混乱に陥り、経済も停滞してしまった。

ある日、賢者と称される老臣、セイジュが王に進言した。「陛下、このままでは国が混乱し、民が苦しむばかりです。政策を頻繁に変えることは、民の生活を不安定にするだけです。」

キイチ王は驚いた顔をして、「しかし、私は国のために最善を尽くそうとしているのだ。どうすれば良いのだろうか?」と問い返した。

セイジュは静かに答えた。「陛下、重要なのは一貫性と安定です。一度決めた政策をしっかりと実行し、その結果を見極めてから次の手を考えることが大切です。『朝令暮改』という言葉をご存知でしょうか? 朝に発令した命令を夕方には変えるようでは、民の信頼を失い、国は安定しません。」

キイチ王は深く考え込み、ようやく理解した。「確かに、私は急ぎすぎていたのかもしれない。これからは一つの政策をじっくりと実行し、その結果を見て次の一手を考えるようにしよう。」

その日から、キイチ王は政策を慎重に決定し、実行することに努めた。彼は農業改革に力を入れ、農民たちの意見を聞きながら、少しずつ改善を加えていった。その結果、農業生産が安定し、国の経済は徐々に回復していった。

キイチ王の努力は実を結び、国は再び繁栄を取り戻した。国民たちは王の誠実な姿勢に感謝し、彼を信頼するようになった。キイチ王もまた、セイジュの教えを心に刻み、一貫した政策の重要性を理解するようになった。

そして、国の発展が確実なものとなったある日、キイチ王はセイジュに感謝の言葉を伝えた。「セイジュ、お前の教えが私を導いてくれた。『朝令暮改』の言葉の意味を理解し、国を安定させることができた。」

セイジュは微笑み、「陛下が学び、成長されたことが何よりも喜ばしいです。これからも一貫した政策を心がけ、民のために尽くしていってください」と答えた。

キイチ王はその後も、セイジュの教えを胸に刻みながら国を治め、国民たちと共に平和で繁栄した時代を築いていった。


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