「辻井伸行さんのすごさって、具体的に何なんだろう」と気になった方は多いのではないでしょうか。
演奏を聴いて感動したけれど、うまく言葉にできない。そんな方も多いはずです。
この記事では、辻井伸行さんのすごさについて、ふんわり整理していきます。
| 音色の評価 | 透明なものに例えられる |
| 最大の実績 | 世界的コンクールで日本人初の優勝 |
| 暗譜の方法 | 耳で聴いてパズルのように組み立てる |
| 原点 | わずか2歳での出来事 |
▶ 音色の秘密や暗譜の具体的な方法は こちらの記事 でまとめています。
辻井伸行のすごさは演奏そのものにある
まずは演奏の中身から見ていきましょう。
感覚的な話ではなく、ちゃんと具体的な理由がありました。
誰もが驚く音の美しさ
辻井伸行さんの演奏を語るうえで、絶対に外せないのが音の美しさです。
多くの音楽評論家やファンが、その音をある透明なものに例えます。聴いたことがある方なら「ああ、その感じ」と思うはずですよね。同じピアノ、同じ曲なのに、音そのものの質が違って聞こえる。
一体なぜ、あんなに綺麗な音が出るのでしょうか。
理由はいくつかあると言われています。まず、指先の感覚が非常に鋭いこと。鍵盤に触れるスピードや強さを、驚くほど細かくコントロールしているのだそうです。ピアノは押し方の違いがそのまま音色の違いになる楽器ですから、この差は決定的ですよね。
そして、余計な力みがないこと。視覚情報に頼らない分、体全体の感覚を研ぎ澄ませてリラックスした状態で弾いている。だから音が潰れないわけです。
面白いのは、これらがどれも「引き算」で説明できる点。派手なことをして音を作っているのではなく、雑味を削ぎ落とした結果があの音になっているんです。
見えないのに正確すぎる指
次は、もっと物理的な話です。音色は感性の問題だと片付けられても、こちらは誤魔化しが効きません。
ピアノには88個もの鍵盤が並んでいます。激しい曲になると、右から左へ手が大きく飛ぶ「跳躍」という動きが必要になりますよね。
辻井伸行さんは、これを目で見ることなく完璧な精度でこなします。
どれだけ異常なことか、想像してみてください。目を閉じたまま、1メートル以上離れた場所にある幅2センチほどの鍵盤を、一発で正確に叩く。しかも猛烈なスピードの曲の途中で、何度も。本番の舞台で、です。
これは練習の賜物だけでは説明がつきません。脳内に完璧な「ピアノの地図」ができあがっているのだと言われています。その仕組みには、いくつかの能力が関わっているそうですよ。
目で見て弾く人が、目で見ずに弾く人に精度で負ける。そんなことが実際に起きているわけです。
なかでも驚いたのが、空間の捉え方についての説明でした。音を使ってピアノ周辺を立体的に把握しているのではないか、というんです。
楽譜なしで難曲を覚える方法
個人的にいちばん驚いたのが、ここです。
クラシックの難曲は、何千、何万という音符が詰まった、何十ページにも及ぶ楽譜から成り立っています。通常のピアニストは、それを見ながら練習しますよね。ところが辻井伸行さんは、楽譜を見ることができません。
では、どうやってあの膨大な音符を覚えているのでしょうか。
その方法が、実に特殊なんです。ある特別な音源を使って、パズルのように組み立てて記憶していくのだとか。一度聴いた音の構成を完璧に理解する「超人的な耳」があってこそ成立する方法です。
さらにすごいのが、覚えているのが音だけではないという点。作曲家が伝えたかった感情まで含めて耳から吸収し、自分の中に「心の楽譜」を作り上げていると語られています。
楽譜って、本来はただの記号の羅列ですよね。そこから感情を読み取るのが演奏家の仕事ですが、辻井伸行さんの場合は記号を経由せず直接受け取っていることになります。もしかすると、楽譜を見ないほうが作曲家に近いのかもしれません。
辻井伸行のすごさを世界が認めた瞬間
ここまでの話は、すべてある出来事で証明されました。
そして、そこに至るまでの物語がまた胸を打ちます。
審査員が涙した歴史的快挙
2009年、辻井伸行さんの名が世界に轟きます。世界最高峰と呼ばれるピアノコンクールで、日本人として初めて優勝を果たしたのです。
クラシックは本場が欧米の音楽ですから、日本人が頂点に立つこと自体が容易ではありません。何十年もの間、誰も届かなかった場所だったわけですね。
審査員の一人が残した言葉が、あまりにも強烈でした。
ここで、大事なことを確認しておきたいと思います。この評価は、同情ではありません。ハンディキャップがあるからすごい、という話ではないんです。
一人のピアニストとして、他の誰よりも美しく、感動的な音楽を奏でた。それが認められた瞬間でした。コンクールは音だけで競う場です。事情を汲んでもらえる場所ではありませんよね。
しかも審査員というのは、毎日似た演奏を聴き続けて耳が肥えている人たちです。感動しにくくなっている状態の人たちを泣かせたわけです。その言葉の中身は、完全版で紹介しています。
恩師が黙って重ねた努力
この実力は、どこから来たのでしょうか。
始まりは、驚くほど早い時期でした。まだ言葉もおぼつかない年齢で、ある楽器を弾きこなしてしまったといいます。教わったわけでもないのに、です。
ただ、天才児というのは扱いを間違えると簡単に潰れますよね。ましてや辻井伸行さんの場合、楽譜を見て学ぶという一般的な道が使えません。答えを持っている人は、どこにもいませんでした。
そこに、一人の若い先生が現れます。しかも当時、その先生にとって辻井伸行さんが初めての生徒だったんです。
この先生は、教科書も前例もない状態から、独自のレッスンをゼロで編み出しました。
そして二人の関係は、6歳から19歳までの12年間続きます。プロを目指す人が1人の先生に長期間習うのは珍しいことなのだとか。
胸を打つのは、ここからです。先生が裏でどれだけの努力をしてくれていたのか、辻井伸行さん自身はずっと知らなかったといいます。それを知ったきっかけが、なんとも言えないんです。
そして世界一になった瞬間を、その先生はある場所から見ていました。会場ではありません。この距離感を知ると、少し切なくなります。
近年は名門レーベルとも日本人初の専属契約を結びました。前人未到の道を、二度歩いていることになりますね。
音色の秘密・暗譜の方法・審査員の言葉・恩師との12年を完全版でチェック