渋すぎる加藤さんのベースの独奏で始まるこの曲。
「ライブでベースのひずんだ音でイントロが始まった瞬間に
お客さんがウォーッてなったらうれしいですよね」(『FAB BOOK』)
そう志村君も語っている通り、この音が流れたとたん、
会場のテンションMAX間違いなしであろう名曲です。
(残念ながら私はライブでこの曲を聴いたことがないのですが)
そんなベースの音に続くのは、いくつもの音が重なる荘厳なイントロ。
旋律はといえば、ロックの曲のイントロにはありえないほどシンプルなのに、
めちゃくちゃ格好良くて、一気に心を持ってかれる。
これはもう、絶対にフジにしか作れない音。
「三日月さんが逆さになってしまった」という歌い出しは、
まさに名フレーズですよね。
最高に張りつめたテンションをふっと緩ませる力加減といい、
時の経過を月の形で表す感性の素敵さといい、
詩人、志村正彦の天才っぷりをひしひしと感じさせる言葉です。
ほとんどベース音だけのシンプルなアレンジで、
歌をじっくりと聴かせるAメロ、Bメロと続いて、
サビへと繋がる、あのうわーっとなるような盛り上がりは、
何度聴いてもトリハダが立ちます。
どんなときにも、思わず歌い出さずにはいられない。
タイトルになっている、この「Anthem」という言葉、
歌詞の中では雷の音や心の叫びなどの比喩として使われているのですが、
本来の「アンセム」の意味も、もちろん込められているのだと思います。
ファンなら誰もが歌える、ライブの時には自然と大合唱になる、
そんな歌を作りたかったのだと。
そうした意図で作られた歌は、
大仰なメッセージが語られがちなものなのですが、
志村君の場合、そうはならないのが、いかにも彼らしい。
この歌に限らず、アルバム『CHRONICLE』には、
個人的な孤独や寂しさといった感情が繰り返し出てくるのですが、
なぜ、そうなったかについて、当時のインタビューに、
興味深いやりとりが残されていました。
『音楽と人』2009年6月号掲載の、
当時発売されたばかりの『CHRONICLE』についてのインタビュー。
聞き手は、志村君の良き理解者であった樋口泰幸氏なのですが、
ちょっと引用させていただきます。
――今から2年ぐらい前のライヴの打ち上げで志村くんと話をしたのを
覚えてると思いますが……その時あなた、恋をしてましたね。
「そうですねえ……」
――頼んでもいないのに恋愛事情を全部聞かされまして。
「はい……」
――当時の恋愛モードだった志村くんがいて、あれからもう2年ほど経ちますが……。
「そうですねぇ……」
――あの時の志村の恋物語、今ここに完結、みたいな。
「行く末はこうなった、みたいな(笑)。結局ひとりぼっちになったんだよ、っていう」
――そういうアルバムだよね。
志村ファンとしては、「なんですって!!」と色めき立ってしまいそうな会話ですが、
それはさておき……。
その頃の志村君が、大きな喪失を体験していたことは間違いなさそう。
「そうした人生における失敗を、自分は歌にすることで消化し、心の均衡を保っている」
志村君は、この会話に続けてそんなことを語っていました。
さらには、
「自分と同じような人たちに歌を聴いてもらってこの気持ちを共有してほしい」とも。
そんな思いを知って、あらためてこの『Anthem』を聴くと、
なんとなく腑に落ちるものがあるような気がします。
この歌は、孤独を分かち合うための歌なのだな、と。
満たされない思いを歌にし、聴いてもらうだけでなく、
同じ思いを抱えた人たちと共に歌うことによって、互いに救われるような、
そのための「アンセム」なのかな、と。
うーん、一度でいいからこの歌を志村君と大合唱したかった……。
悔やまれます。
それにしても、志村君が恋をした相手って、いったい誰だったのでしょう。
そちらも非常に気になるところです。