福田 全次郎のブログ -13ページ目

福田 全次郎のブログ

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「ある古い家の、まっくらな天じょぅうらに、「ツェ」という名まえのねずみがすんでいました。ある日ツェねずみは、きょろきょろ四方を見まわしながら、床下
街道を歩いていますと、向こうからいたちが、なにかいいものを、たくさんもって、風のように走ってまいりました。そして「ツェ」ねずみを見て、ちょっとた ちどまって、早口にいいました。「おいツェねずみ。おまえとこの戸だなの穴から、こんぺいとうがばらばらこぼれているぜ。早く行ってひろいな。」ツェねず みは、もうひげもぴくぴくするくらいよろこんで、いたちにはお礼もいわずに、一さんにそっちへ走って行きました。ところが、戸だなの下まできたとき、いき なり足がチクリとしました。そして、「とまれ。だれかっ。」という小さなするどい声がします。ツェねずみはびっくりして、よく見ますと、それはありでし た。ありの兵隊は、もうこんぺいとうのまわりに四重の非常線をはって、みんな黒いまさかりをふりかざしています。二、三十ぴきは、こんぺいとうをかたっぱ しからくだいたり、とかしたりして、巣へはこぶしたくです。「ツェ」ねずみはぶるぶるふるえてしまいました。
「ここから内へはいってならん。はやく帰れ。帰れ。帰れ。」ありの特務曹長
(軍人の階級)が、ひくい太い声でいいました。ねずみはくるっと一つまわって、一もくさんに天じょぅうらへかけあがりました。そして巣のなかへはいって、 しばらくねころんでいましたが、どうもおもしろなくて、おもしろなくて、たまりません。ありはまあ兵隊だし、強いからしかたもないが、あのおとなしいいた ちめに教えられて、戸だなの下まで走って行ってありの曹長にけんつくをくうとは何たるしゃくにさわることだとツェねずみは考えました。そこでねずみは巣か らまたちょろちょろはいだして、木小屋の奥のいたちの家にやってまいりました。いたちは、ちょうど、とうもろこしのつぶを、歯でこつこつかんで粉にしてい ましたが、ツェねずみを見ていいました。「どうだ。こんぺいとうがなかったかい。」「いたちさん。ずいぶんおまえもひどい人だね、私のような弱いものをだ ますなんて。」「だましゃせん。たしかにあったのや。」「有るにはあってももうありがきてましたよ。」「ありが。へい。そうかい。早いやつらだね。」「み んなありがとってしまいましたよ。私のよ
うな弱いものをだますなんて、まどう(つぐなう、うめあわせること)てください。まどうてください。」「それはしかたない。おまえの行きょうが少しおそかったのや。」「
しらんしらん。私のような弱いものをだまして。まどうてください、まどうてください。」「こまったやつだな。ひとの親切をさかさまにうらむとは。よしよし。そんならおれのこんぺいとうをやろう。」
「まどうてください。まどうてください。「えい。それ。もって行け。てめいのもてるだけもってうせちまえ。てめいみたいな。ぐにゃぐにゃした、男らしくも ねいやつは、つらもみたくねい。早く持てるだけ持って、どこかへうせろ。」いたちはぷりぷりして、こんぺいとうをなげだしました。ツェねずみはそれを持て るだけたくさんひろって、おじぎをしました。いたちはいよいよおこって叫びました。「えい、早く行ってしまえ。てめいの取ったのこりなんかうじむしにでも くれてやらあ。」ツェねずみ、一もくさんにはしって、天じょぅぅらの巣へもどって、こんぺいとうをコチコチたべました。こんなぐあいですから、ツェねずみ は、だんだんきらわれて、だれもあまり相手にしなくなりました。そこでツェねずみは、しかたなしに、こんどは、はしらだの、こわれたちりとりだの、ばけつ だの、ほうきだのと交際をはじめました。なかでもはしらとは、一ばんなかよくしていました。はしらがある日、ツェねずみにいいました。「ツェねずみさんも うじき冬になるね。ぼくらはまたかわいてミリミリいわなくちゃならない。おまえさんもいまのうちに、いい夜具のしたくをしておいたほうがいいだろう。さい わい、ぼくのすぐ頭の上に、すずめが春もってきた鳥の毛やいろいろあたたかいものがたくさんあるから、いまのうちに、すこしおろしてはこんでおいたらどう だい。ぼくの頭は、まあ少し寒くなるけれど、僕はぼくでまたくふうをするから。」ツェねずみはもっともと思いましたので、さっそく、その日から運び方にか かりました。ところが、とちゅうに急な坂が一つありましたので、ねずみは3度目に、そこからストンところげ落ちました。はしらもびっくりして、「ねずみさ ん。けがはないかい。けがはないかい。」と一生けんめい、からだを曲げながらいいました。ねずみはやっとおきあがって、それから顔をひどくしかめながらい いました。「はしらさん。おまえもずいぶんひどい人だ。ぼくのような弱いものをこんな目にあわすなんて。」はしらはいかにも申しわげがないと思ったので、 「ねずみさん。すまなかった。ゆるしてください。」と一生けんめいわびました。ツエねずみは図にのって、「ゆるしてくれもないじゃないか。おまえさえあん なこしゃくなさしずをしなければ、私はこんな痛い目にもあわなかったんだよ。まどっておくれ。まどっておくれ。さあ、まどっておくれよ。」「そんなことを いったってこまるじゃ
ありまさんか。ゆるしてくださいよ。」「いいや。弱いものをいじめるのは私はきらいなんだから、まどっておくれ。まどっておくれ。さあ、まどっておく れ。」はしらはこまってしまって、おいおい泣きました。そこでねずみも、しかたなく、巣へかえりました。それからは、はしらはもうこわがって、ねずみに口 をききませんでした。さて、そののちのことですが、ちりとりは、ある日ツェねずみに半分になったもなかを一つやりました。するとちょうどその次の日、ツェ ねずみはおなかが痛くなりました。さあ、いつものとうりツェねずみは、まどっておくれを百ばかりもちりとりにいいました。ちりとりももうあきれてねずみと の交際はやめました。また、そののちのことですが、ある日、バケツはツェねずみに、せんたく ソー ダのかけらをすこしやって、「これで毎朝お顔をおあらいなさい。」といいましたら、ねずみはよろこんで、次の日から毎日、それで顔をあらっていましたが、 そのうちに、ねずみのおひげが十本ばかりぬけました。さあツェねずみは、さっそくバケツへやってきてまどっておくれを、二百五十ばかりいいました。しかし あいにくバケツにはおひげもありませんでしたし、まどうというわけにもいかず、すっかりまいってしまって泣いてあやまりました。そして、もうそれからは、 ちょっとも口をききませんでした。道具仲間は、みんな順ぐりに、こんなめにあって、こりてしまいましたので、ついにはだれもみんなツェねずみの顔を見る と、いそいでわきのほうを向いてしまうのでした。ところがその
道具仲間に、ただひとりだけ、まだツェねずみとつきあってみないものがありました。それは、はりがねをあんでこさえたねずみとりでした。ねずみとりは、全 体、人間の味方なはずですが、ちかごろは、どうも毎日の新聞にさえ、ねこといっしょにおはらい物というふだをつけた絵にまでして、広告されるのですし、そ うでなくても、がんらい、人間は、このはりがねのねずみとりを、一ぺんも優待したことはありませんでした。ええ、それはもうたしかにありませんとも。それ に、さもさわるのさえきたないようにみんなから思われています。それですから、実は、ねずみとりは、人間よりは、ねずみのほうに、よけい同情があるので す。けれども、たいていのねずみは、なかなかこわがって、そばへやってまいりません。ねずみとりは、毎日、やさしい声で、「ねずちゃん。おいで。今夜のご ちそうはあじのおつむだよ。おまえさんのたべる間わたしは、しっかりおさえておいてあげるから。ね、安心しておいで。入り口をパタンとしめるようなそんな ことをするもんかね。わたしも人間にはもうこりごりしているんだから。おいでよ。そら。」なんてねずみを呼びますが、ねずみはみんな、「へん、うまくいっ てらあ。」とか「へい、へい。よくわかりましてございます。いずれ、おやじやせがれとも、相談の上で。」とかいってそろそろ逃げて行ってしまいます。そし て、朝になると、顔のまっかな下男がきてみて、「またはいらない。ねずみももう知ってるんだな。ねずみの学校で教えるんだな。しかしまあもう一日だけかけてみよう。」といいながら新しいえさととりかえるのでした。今夜もねずみとり は、叫びました。「おいでおいで。今夜のはやわらかな半ぺんだよ。えさだけあげるよ。だいじょうぶさ。はやくおいで。」ツェねずみが、ちょうど、とうりか かりました。そして、「おや、ねずみとりさん、ほんとうにえさだけをくださるんですか。」といいました。「おや、おまえはめずらしいねずみだね。そうだ よ。えさだけあげるんだよ。そら、はやくお食べ。」ツェねずみはプィッとなかへはいって、むちゃむちゃっと半ぺんをたべて、またプイッと外へでていいまし た。「おいしかったよ。ありがとう。」「そうかい。よかったね。またあすの晩おいで。」次の朝。下男がきてみておこっていいました。「えい。えさだけとっ て行きやがった。ずるいねずみだな。しかしとにかくなかへはいったというのは感心だ。そら、きょうはいわしだぞ。」そしていわしをはんぶんつけて行きまし た。ねずみとりは、いわしをひっかけて、せっかく(つとめて、せいぜい)ツェねずみのくるのを待っていました。夜になって、ツェねずみは、すぐでてきまし た。そうしていかにも恩にきせたように、「こんばんは、お約束どうりきてあげましたよ。」といいました。ねずみとりは少しむっとしましたが、むりにこらえ て、「さあ、たべなさい。」とだけいいました。ツェねずみはプイッとはいって、ビチャビチャッと食べて、またプイッとでてきて、それから大風にいいまし た。「じゃ、あした、また、きてたべてあげるからね。」「ブゥ。」とねずみとりはこたえました。次の朝、下男がきてみて、ますますおこっていいました。 「えい。ずるいねずみだ。しかし、毎晩、そんなにうまくえさだけ取られるはずがない。どうも、このねずみとりめは、ねずみからわいろをもらったらしい ぞ。」「もらわん。もらわん。あんまり人をみそこなうな。」とねずみとりはどなりましたが、もちろん、下男の耳には聞こえません。きょうもくさった半ぺん をくっつけて行きました。ねずみとりは、とんだ疑いをうけたので、一日ぷんぷんおこっていました。夜になりました。ツェねずみがでてきて、さもさもたいぎ らしく、いいました。「あああ、毎日ここまでやってくるのも、なみたいていのこっちゃない。それにごちそうといったら、せいぜい魚の頭だ。いやになっちま う。しかしまあ、せっかくきたんだからしかたない、食ってやるとしょうか。ねずみとりさん。こんばんは。」ねずみとりははりがねをぷりぷりさせておこって いましたので、ただひとこと、「おたべ。」といいました。ツェねずみはすぐブィッと飛びこみましたが、半ぺんのくさっているのを見て、おこって叫びまし た。「ねずみとりさん。あんまりひどいや。この半ぺんはくさってます。ぼくのような弱いものをだますなんて、あんまりだ。まどってください。まどってくだ さい。」ねずみとりは、思わず、はりがねをりゅうりゅうと鳴らすぐ らい、おこってしまいました。そのりゅうりゅうが悪かったのです。「ビシャッ。シインン。」えについていたかぎがはずれて、ねずみとりの入り口がとじてし まいました。さあもうたいへんです。ツェねずみはきちがいのようになって、「ねずみとりさん。ひどいや。ひどいや。うう、くやしい。ねずみとりさん。あん まりだ。」といいながら、はりがねをかじるやら、くるくるまわるやら、地団駄をふむやら、わめくやら、泣くやら、それはそれは大さわぎです。それでもま どってください、まどってくださいは、もういう力がありませんでした。ねずみとりのほうも、いたいやら、しゃくにさわるやら、ガタガタ、ブルブル、リュウ リュウとふるえました。ひと晩そうやってとうとう朝になりました。顔のまっかな下男がきてみて、こおどりしていいました。「しめた。しめた。とうとうか かった。意地の悪そうなねずみだな。さあ、でてこい。[小僧。]