馴染みの店のカウンターで知人との待合せをしている間、サラリーマン風の二人が店内に入って来て、私以外にカウンターには誰も座っていないことを確認したのか席を二つ離して着席してきた。因みにカウンターの席は12席程ある。
二軒目らしくやたらと饒舌のサラリーマン二人。コラムの題材になればと聞き耳を立てていると、アベノミクスからはじまり橋本発言、今後の日本経済やら黒田日銀総裁の手腕がどうとか、領土問題、北朝鮮、中国、韓国とアジア圏をほぼ一周してやっと日本に帰ってきた。ふぅ~!
そして・・多分、今夜のハイライトとなる話がやっと出て来た。
サラリーマンA「そう言えば、乙武は大人気ないよなぁ~。あそこまで普通やるかぁ?」
サラリーマンB「そうですかねぇ~?同じ立場にはなれないけど、彼のとった行動はやり過ぎとは思えないけど」
サラリーマンA「だって、匿名ならまだしも直接店の名前まで出して攻撃はないだろう~、その後どんなことになるか・・分からない訳でもないだろうに。やっぱり大人気ないよ。あれじゃぁ2ちゃんねるとまるで一緒じぁないか。彼は稀にみる人格者だと思っていたのになぁ」
こんな内容の話題が永遠と続いていた・・・
この話は先日、五体不満足の乙武氏が銀座のビルの2階にあるイタリア料理のレンストランで車椅子入店を断られたことが経緯らしい。そのことをTwitterで店の実名をあげてつぶやいたためフォロワーからのさまざまな意見が飛び交った・・所謂、「大炎上」と言う奴だ。その波紋はいたるところに広がりを見せ、今もなお意見が交わされているらしい。
彼は交友関係が非常に広く、外食や旅行に頻繁に出かけるらしく、その日も女性の友人と二人で問題のそのレストランで夕食をとる予定だったらしい。銀座にあるイタリア料理が美味しいと評判の店で、予約は彼が自分で入れたとのこと。その店はビルの2階にありエレベーターはあるのだが、何故か2階には止まらないため車椅子では店まで上がれない状況だった。
友人の女性が2階に上がって店員に「車椅子の人が来ているのだが、上まで運んでくれないか?」と頼んだらしい。その店は店主とスタッフ二人で切り盛りしていて、その時間帯はお客で一杯だったため手を離せない状態だった。「手が空いたら行きますのでお待ち下さい。」と言われ待つこと15分。あまりに遅いので再び女性が2階に上がって行くと、店主から「あらかじめ車椅子であることを言ってくれなくては困るよ。エレベーターが2階に止まらないことは店のHPに書いてあるのでしょう」ときつい言葉で言われ、あまりのことに女性が泣き出してしまった。
店主の言葉にカッとなった乙武氏が、店の実名入りでTwitterに「こんなひどい扱いを受けたのは初めてだ」とつぶやいた。 それに対して「全くその通りだ。ひどい店だ。」という意見と「乙武さんのような有名人が実名で店を批判するとは何事だ!」という意見が真っ二つも分かれたらしい。
中には「イギリスやイタリアなら賠償問題だ。裁判で争ったら100%店が負ける」とのコメントが。翌朝にはテレビでも取り上げられ、「アメリカでは1990年以降できた建物ではいかなる障がい者も受け入れなければならず、違反すると営業停止になったり、1,000万円(2回目以降はもっと)の罰金を払わなければならない」などと解説していたのを見た。
ここから自論であるが・・・
いくら外国の例をあげて店を批判してもなんの解決にもならない筈だ。「それじゃあ、そう言うあなたはいますぐ日本の法律を外国のように変えてくれるのですか?」と私は問いて見たい。テレビのコメンテーターなどは大体において全てが他人事のように論じるか、終始、一般論で通し正義の味方側に立ちたがる傾向があるようだ。
それに比べると、その後、私の友人など実際に飲食店やホテルを経営している人の意見を聞いてみると、「もし自分の店で同じことが起こったら・・・」という現実に即した回答が出てくる。スタッフが足りず店が忙しい時に、突然車椅子の人が現われて「1階から2階まで運んで欲しい。」と言われたらできるだろうか?そしてご存知のように乙武氏は手足がない。
ここでフッと疑問が湧いてくる・・・
そういう人を運んだ経験がない人が、頼まれてすぐ運べるものかどうか?もし運んでいる途中に誤って落としてしまったら誰の責任になってしまうのか?私は以前、大きな会場のコンサートに行った時に、ホールのスタッフ数人が車椅子から座席に乙武氏とほぼ同じような状態の方を抱き上げて移動させているところを見たことがある。あのぐらい広いスペースならばできるかもしれない。しかし、問題は狭いビルの階段を1階から2階まで運ぶことはちょっと簡単には引き受けられないだろう。
ましてやスタッフ2名と店主1人である。お客も満員に近い状態。料理や飲み物のオーダーは引っ切り無しやってくる。まさにてんてこ舞いの状況だ。
乙武氏は「いままでこういう扱いを受けたことがなかったので、ショックだった。」と書いていた。レストランに行く時にHPで店の状態を確認したり、前もって車椅子であることを伝えなかったそうだ。それは今までが非常にラッキーだったとしか思えない。1階の広々とした店ならともかく、狭い階段を上がらなければならない2階の店なら絶対に伝えるべきであった筈。
例えばベビーカーで赤ちゃんを連れて行く場合、普通前もって店に確認する人が多いのではないだろうか。「赤ちゃんを連れて行っても大丈夫ですか?」「ベビーカーを置く場所がありますか?」「個室はありますか?」等々・・それは他の人に迷惑をかけないようにしたいという配慮と言う気持から来るものであろう。
他人に迷惑をかけてしまったら、せっかくの楽しみもぶち壊しになってしまう恐れがある。だから、乙武氏もあらかじめ伝えておけばよかったのだ。それともあまりにも有名人になってしまった故の・・(何チャラ)・・からだろうか?
そうすれば店主から「その時間帯はお客様が立て込んでいて手が離せないので、お手伝いができませんが、○○時頃お越しいただければ大丈夫です」などの提案があったであろうことは想像できる。忙しい時の突然の予期せぬ申し出は、店にとってはあまり歓迎されるものではない筈だ。
Twitter のコメントの中で、「一般に障がい者は弱い立場と見られがちだが、場合によっては店の方が立場が弱い場合もある。何故なら客は店を選べるが、店は客を選べないからだ」という名文句があった。実際、店側からしてみれば、どんなに頑張っても障がい者を受け入れられない状態やタイミングというものがある。
そこに予約は取っていたとしても、いきなり押しかけて「差別を受けた!」と世間に向かって訴えられたのでは、本当にいたたまれない(特に飲食店を経営している友人達の気持ちはここに集中していたようだ)それとも「乙武」と言う名前を伝えれば・・・店側が
自動的に察した配慮をしなければならないのか?
乙武氏のTwitterのフォロワーは61万人超を数えると言われている。今回の影響で「どんな店だ?」と突撃取材に訪れる人が後をたたないそうであるから「本当の弱者はどっちだったのだろう?」と考えずにはいられない夜であった。
今日はこの辺りでお別れしよう・・・








