暑かった夏も終わり、さわやかな風と共に、葉っぱが紅く色づく短い秋も終わり、
風が冷たく感じる初冬がやってきました。
人々の服装も薄手のジャケットからダウンコートへと変わって行き、道行く人々の肩も少し寒そうに前かがみに歩いています。

ひらひら、ひらひら、一枚の枯れ葉が、風の勢いに負けて、木から落ちてしまいました。
「あっもうだめだ、地面に落ちたら痛いかな?神様どうかあまり痛くないように、落としてください」
ぱさっ!

「あれ?痛くない、しかもふんわりあったかい。ここはどこかな?」
少し振動があります。上を見上げると黒いものが、人間の髪の毛のようです。おそるおそる下を見下ろしてみると、地面がありました。
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どうやら、枯れ葉は地面には落ちずに、人間の男性のダウンコートのフードの端に降り立ったようです。

「わあ、これからどうなるんだろう?ここから地面に落ちても痛いよね・・・」
枯れ葉は不安で、緊張してドキドキしていました。
しかし、フードの端から見る景色は、木の上から見る景色とは違ったものでした。
それに、人間は木と違って歩けるので、景色が次から次へと変わって行きます。

「あっあんなところに人がたくさん並んでいる、何かな?」
ラーメンスープのいい香りがしています。
人気店で、ラーメンを食べるために人が並んでいるようです。
みんな寒そうですが、これから美味しいラーメンを食べられるというわくわくした顔で、楽しそうに並んでいました。

「そうか、美味しいものを食べるのも、ちょっとした苦労があるんだな」
枯れ葉は思いました。

しばらくすると、道の真ん中を、歩いているおばあさんがいました。おばあさんは転ばないように用心してゆっくり歩いているようです。
そこに、自転車に乗った若い男の子がやってきました。
男の子は急いでいたようで、自転車のスピードはかなり出ていました。
もう少しでゆっくり歩いているおばあさんにぶつかりそうになりました。

男の子は若いので、するりと身をかわし、何事もなかったように走り去りました。
おばあさんも無事、バス停にたどりつき、バスに乗り込んで行きました。

「ああよかった。人間の世界にはいろんな人々が暮らしているんだな。楽しそうなことだけじゃなく、、危険なこともたくさんあるようだな」
木の上からでもいろんな人々は見てきたし、いろんなことがあるだろうことは想像できたけど、実際この目で見るのは初めてだったので、枯れ葉にとって驚くことばかりでした。

じゃらじゃらじゃらじゃら、「何の音かな?うっゴホッゴホッ、煙草の煙?ここはどこかな?」男性はパチンコ店に来たようです。
「ここがうわさに聞くパチンコ店か、何だか賑やかだな」
みんな真剣な顔をして台の前に座っていました。

じゃらじゃらじゃらじゃら、男性の座った台から、銀色の玉が次から次へと出てきました。男性の顔も何だかニヤニヤ嬉しそうです。
ようやく終わり、銀色の玉を店の人に渡すと、たくさんの美味しそうなお菓子に変わりました。

「この男性、お菓子が好きなのかな?子供みたいだな。クスッ」
枯れ葉はおかしくなりました。
店を出て、男性は嬉しそうにお菓子がいっぱい詰まった袋を持ち、ぶらぶら歩きました。

しばらく歩くと、枯れ葉が、いつも見慣れている景色になりました。
近くにあるのはいつも見ていた団地、ジャングルジムもぶらんこの色もいつも見ていたものと同じです。
自分がいた木のある公園に戻ってきたのです。

「おーい健太お土産があるぞ」男性が叫ぶと、5歳くらいの男の子がにこにこしながら走ってきます。
「パパ、ありがとうこんなにたくさんお菓子買ってくれたの?」
そこに奥さんらしき人が現れました。
「あなた、またパチンコしてたのね」
「いいだろう、自分のこづかいで行ってるんだから、それに健太にもお土産できたし」
「まあ、今日はいいとしましょう。私もお菓子食べたい!」
「パパ、キャッチボールしよう」
「よし、やろう」
男性が、ダウンコートを脱ぎました。

すると、ひらりひらり枯れ葉が、地面に落ちました。
男性はゆっくりコートを脱いだので、振動はほとんどなく、落ち葉は地面にポンッと置かれたような形で、着地することができました。
そこには、木の上でも一緒に過ごした落ち葉たちが、何枚もいました。

「やあ、久しぶりじゃないか!どこに行ってたんだい?」
「ああ、ちょっと旅に出ていたのさ、旅は視野を広めていい経験ができるよ。自分はみんなより一回り大きくなって帰って来たよ」
とても得意気に話している枯れ葉に姿がありました。