FF(future fiction)

「日本消滅」ーー

そして 「倭(やまと)」創建へ (9)

 

登場人物(2025年現在)

神子 輝夫(かみこ てるお 1967年生まれ58歳)

神子 菫(すみれ 54歳)

神子 健二(輝夫の父)(2023年没享年81)

神子 小夜子(80歳健二の妻)

卓(すぐる 29歳 輝夫・菫の長男)

渚(なぎさ 26歳 卓の妻)

神子 健(たける 卓・渚の長男・当歳)

佐々木 千津子 小夜子の幼友達(近所に住む)

 

 

神々の集い「神諮り(かむはかり・かみはかり)の御席は

それはそれは清らかで 邪心の一かけらもございませ

んから 取材させていただいても まことに気持ち良く

文字どおり心が洗われましたが 今回はまた人間世界

へ戻って 首都が消滅した日本の再興への取り組みを

語らねばなりません。しばしお付き合いのほどを。

 

天照大御神様の御提案で神々は

昼食(ちゅうじき)から酒宴を始められた

そこにお邪魔するのは野暮なので

また一刻ほど人間世界に戻って…

 

こちらは 首都消滅後の日本をどうするかという一大事の最中である。

名古屋で開催した「新・国造り全国臨時代議員会(全臨会)」の第一回目

三日間の会合で 「全臨会」として全国民に提示する10項目に上る案が

まとまった。

その骨子は

① 新しい国の国会代表(代議員)は定数200とし 男女100名ずつと

  する。

② 代議員の年齢は18歳以上69歳とする。

  任期途中で70歳に達する予定の国民は代議員に立候補出来ない。

③ 新しい国の長は代議員の中から国民による直接選挙で選出する。

④ 新しい国の政党は

  民主党(英語表記:People's Party)

  平和党(英語表記:Peace Party)

  の2党に限定する。

  共産党を初め自民党等の既存政党は全て解党する。

⑤ 日本国憲法に於いて規定した平和主義 民主主義 及び自由主義思想

  に基づく政党上記2党を以て新しい国の政党とする。

  民主党・平和党の2党の名称等については国民の総意を確認して最終決

  定する。

⑥ 国会は二院制とし 名称は国民から募ることとする。

⑦ 代議員の任期は4年とし 中間(2年)で国民評価を行う。

   評価の方法は別途検討する。

⑧ 代議員への立候補者は 日本語(現代国語)及び日本史・世界史の

   筆記試験を受験し70点以上を獲得しなければならない。

   筆記試験の内容及び実施方法については別途検討する。

⑨ キャビネット(旧内閣)は「与野党に関係無く」適材適所でキャビネットメン

   バーを選ぶ。「閣僚」という呼称は廃止する。「大臣」という呼称も廃止す

   る。新呼称は新たな代議員が協議して決める。 

⑩ 議員の「不逮捕特権」は廃止する。 

⑪ 議員報酬は議会出席等の議員活動日数に応じて支払うこととし

  一日当たりの手当は最低賃金の3倍を超えてはならないこととする。

  列車の利用は普通指定席としグリーン車は認めない。 旅客機はエコ

  ノミークラスの料金を支給する。

⑫ 従来「国会議員」に支給されていた各種手当は全て廃止する。 

13 議員報酬及び各種手当等に関し議員提案等で改訂することは認めない。

  議員報酬等の改訂は国民投票を経なければならない。

14  「国会議事堂」に類する構築物は設けない。また 「議員宿舎」等も

  設けない。

  代議員は「代議員会」開催の都度 その開催場所へ出張し出席する。

  宿泊する旅館・ホテル等はビジネスホテルクラスとし詳細は別途定める。

15  ………

 

以上の各項は新しい国の基本法として 条文を精査した上で制定し

以後 変更を認めないこととする。

 

以上のような骨格案に絞られてきたが その内容は過去に例を見ない革新的な

または過激なものばかりと言っても良い。

それは 首都消滅する以前の日本の国会議員と称する輩が何もかも自分たちの

都合の良いように法改訂し さまざまな「議員特権」を設け あたかも殿上人のよ

うな驕りに陥り 議員一人当たり約7000万円もの国費を費やして それを当然の

ごとくに振る舞っていたことへの批判から生じたものであり 本来から言えば

「過激」でも何でもないことであった。

各臨時代議員は 全臨会自らが造り出した「極度の難題」を抱えてそれぞれの

地元へ帰ったが 次回までにどこまで自元の人々の了解を得られるか どこまで

意見を集約出来るか 全員が大きな宿題を抱えてしまったわけである。

しかし 過去に例のない大学生・高校生を全臨会の臨時代議員に選んだという

ことは それなりの果実を生まねばならないということでもある。

当然の如く これが国民の過半数または3分の2以上の賛同によって受け入れら

れるかどうか 臨時代議員たちは自らいばらの道を作ったと言えるかもしれない。

 

いずれにしても 名古屋での三日間にわたる第一回会合は終了し 第二回会合は

岐阜で開催ということで 岐阜選出の臨時代議員に設営をお願いすることになった。

 

(これは 未来物語=FFとして物語を進めているが 私の読者ーー数少ない読者の方々も

首都圏消滅というこういう状況下 新たな政府 新たな国会を立ち上げようとする時 自分

ならどう考え どう行動するかを考えてみていただきたい。近い将来 こういう事態が起こら

ないとは断言出来ないのだから)

 

「全臨会 第二回会合」は岐阜で開催された

 

岐阜でも 会場の手配等は大学生の臨時代議員たちに依頼する結果となった。

大学生たちはなぜか 迷うことなくJR岐阜駅隣接の「じゅうろくプラザ」内の会議室を

確保した。今回も三日間は必要であろうとの予想で三日分の予約を取った。

(ちなみに じゅうろくプラザという名称は 岐阜市がネーミングライツの募集をした際 

じゅうろく銀行が権利を落札した結果 同銀行が名付けたものである……な~るほど!)

 

岐阜の臨時代議員たちは 会場への交通は公用車を含め 車両での来場は原則禁止 

身体障害等の理由がある場合のみ 車両と介助者を認める というルールは前回同様

とした。宿泊は利便性第一に考え 岐阜駅前のホテル「D」に臨時代議員40人全員の

宿泊を予約した。今回は会議が深夜に及ぶ「可能性」もあるという予測からである。

一泊9900円という料金も魅力であった。

そして 岐阜の臨時代議員の中から「議長」「副議長」を選ぶので 岐阜の臨時代議員

たちは予めホテル「D」の喫茶室に集まり 議事進行の手順を打ち合わせた。

その一番は 現時点で予定される議事だけでも15項目に上るので 3日目は予備日と

見なし 2日間で時間を掛けてでも15項目を審議し 3日目は予備日にするという基本

を決めた。

一日目の進行具合によっては 2日目は午前8時からワーキング朝食とし 会議室に

モーニングのセットを用意してもらい 昼食も夕食も2日目は食事しながら という強行

スケジュールを立てた。

 

全臨会第二回会合の一日目が始まった

前回の第一回会合から3カ月が経過していた。

前回は春5月 今回は日本が最も暑い8月になった。

40人のメンバーは18歳から65歳までと年齢幅があった。男女比率は決めていなかった

せいもあり 前回も今回も女性は11人に止まった。

全員揃ったところで岐阜代表の議長から 第二回会合の議事進行について説明したとこ

ろで「案の定」異議が出た。「最初から強行スケジュールを予定するのはおかしいのでは

ないか」という意見である。

その発言は原子力発電所の立地町で特別交付税や各種寄附金で町財政が潤っている

某町の町長であった。相手を「若造」と見下したかのような発言であった。

「これは最初から難航しそうだな」と ほかの出席者は思った。

しかし その「異議」を予想していたかのように 岐阜代表の議長は笑顔で答えた。まだ

大学の法学部4年生である。

「ご意見はごもっともかと思います。私たちが事前にスケジュールの打ち合わせをした時

にも やはり異論がありました。『何でそんなに強行スケジュールにしなければいけない

のか』という意見です。しかし 私たちは今 平時の日本を代表してここに集まっているわ

けではありません。今 日本は ここでは直接感じることの出来ない危機状態にあると思

います。例えば大事故で緊急搬送された人の緊急救命手術をする医師たちは時計を見な

がら休憩したり食事をしたりは出来ません。処置がすべて完璧に終わるまで 汗は看護師

などに拭いてもらいながら トイレさえ我慢して手術をされるそうです。

私たち40名は ちょうどその医師たちのように 瀕死の状態の日本を今後どうするかという

場面に遭遇しているわけですから そのメンバーとして一日も早く 一刻も早くより良い解を

導き出すという使命があると思います。

どうか その点をご理解いただき 議事の進行にご協力をお願いしたいと思います。」

と言って立ち上がって深々と頭を下げた。

出席者は その言葉を聞いて一様に頷いた。知事会代表の一人が挙手して発言を求めた。

「これは 私たち年配者が若い大学生の議長さんに一本取られたと思います。今は日本の

最大の緊急事態です。非常事態なのです。ですから 議長さんの議事進行に最大限の協

力をして 私たちに一任してくださったそれぞれの道府県の人々のために 新しい日本国の

ために 強行スケジュールぐらい笑って突破しましょう。私も65を過ぎましたが この3日間

若い高校生や大学生の代表の皆さんに負けないように そして年齢や性別に関係無く み

んな一つの目標へ向かって手を繋いで登る仲間だと思って そう みんな同志だと思って

この3日間議論を進めませんか?」と

さすが知事だと思わせる発言をした。出席者からごく自然に拍手が湧いた。

大学生の議長は議長席で深々と頭を下げた。

それからの議事進行は 岐阜の代表たちが予想した以上に充実し 且つ円滑に推移した。

 

<つづく>