白い家に伸びるふたつの影
昼間とは違う雰囲気のその家は
なぜだかただの建物ではなく感じた
扉に手をかけると簡単に開き、古びた音を鳴らす
中は白を基調としたシンプルなリビングルームで奥にはキッチンダイニングが続く
廊下を少し進むと本に沢山囲まれた書斎がある
床や机の周りには積み重なった本が広がり、机の上にはたくさんの書類が投げ出されていた
「?だれもいない・・・」
ヒトの気配は感じるはずなのに、物音ひとつせず静まりかえった家の中
2階へ上がると部屋がいくつもあり、扉の前にはそれぞれ誰の部屋か刻まれていた
階段を上がってすぐの部屋の扉には「sister」と刻まれており、あの夢の女の子の部屋だとわかり、扉を開く
夢で見たとおりのピンク色に包まれた部屋
けれど、どこか哀しい部屋
「うわっ?!」
後ろでジョンインが驚く声に飛び上がり振り返ると、扉近くに小さなドレッサーがあり、その上には玩具のメイク道具と一緒にいくつもの人形の首が混ざって散らばっていた
「なんだ、驚かせないでよ」
「だって、首があるんだよ?!」
「夢で見たままじゃない」
「俺の夢には出てこなかった」
「え?それってどういう・・・」
ドン!ドドン!ダン!
ギョンスが言い終わらない間に壁がものすごい音で鳴り響く
何かを打ち付けたり、殴ったり蹴ったりするような音が続く
「隣の部屋だ!」
勢いよくジョンインが部屋を飛び出し、ギョンスは慌てて追いかける
「お願い!やめて!」
すると、なぜか女の人の悲鳴に似た叫び声が聞こえて子どもの激しい鳴き声が響いていた
部屋を覗くと、下で見たリビングルームと瓜二つの部屋で、父親らしき男が小さな子どもに暴力を振るい、母親が必死に止めに入るが男は母親にも手を挙げる
「何コレ、、」
ギョンスは自分が視たのとは違うできごとに戸惑う
ジョンインはというと、自分の手を眺めて驚いた顔をしていた
「ジョンイナ!どうしたの?もしかしてどこか痛めたの?!」
ふるふると頭を横に振るジョンインは、ゆっくりギョンスに振り返る
「ジョンイナ、眼が・・」
振り返ったジョンインは、片目が赤色に変わっていて"もう一人の彼"が出てこようとしていた
「ギョンス・・・俺、止めに入ったはずなのに・・・あの子を殴ってた。何度も、何度も・・・」
「え?」
「体が自分のじゃない感覚になって・・・・・・どうなってんだよ?」
ジョンインの言ってることがわからず、もう一度名前を呼ぶがジョンインもよくわかっていない様子で混乱していた
「あの子ってあそこにいる・・・・え?」
ジョンインから先ほどの3人の方へ視線を変えると、彼らはもうそこには居らず静かになっていた
更には先ほどの部屋とは違い、自分が夢で見た女の子の"兄"が居た部屋になっていた
冷たく深い青色の部屋
カーテンは閉め切っており、部屋に合わない植物がいくつもあった
急いで部屋の扉を確認すると、廊下側の面には「brother」と刻まれていた
「どうなってるの?」
いったい全体何が起こっているのかわからず混乱するギョンス
「痛っ!」
左眼が突然痛みだすと、どこからか声がギョンスを呼ぶ
「ギョンス。ギョンス」
「だれ?ッ・・・どこにいるの?」
痛みに唸りながらも見えているもう片方で正体を探す
「彼から離れるな。喰われるぞ」
「彼?喰われる?」
見えない相手の声はなんだか警告しているようで、何かに対する警戒心が一層膨らむ
「ギョ、ンス?」
唸り声に似たジョンインの声に呼ばれて手を取り合うと、痛みは収まり、気づくとジョンインの腕の中に包まれていた
「ジョンイナ、」
「カイが・・・・・」
ジョンインの口からもうひとりの彼の名前が出るとは思いもせず、ギョンスは驚き、勢いでジョンインの顔を確認する
瞳の色は元に戻って、優しく真っ直ぐなジョンインの瞳の色が自分を映す
「カイは、なんて?」
「ギョンスから離れるなって」
先程の声と同じセリフにギョンスは胸がざわめいた
--それじゃあ、今のは・・・・・・
「ギョンス!扉が!!」
ジョンインに言われて扉の方を向くと、扉が勝手に閉まり出していた
「ジョンイナ!立って!行かなきゃ!」
--喰われる!
必死に手を引いて扉へと走る
ギリギリで間に合ったものの、真っ白い光に視界を遮られ思わず目を瞑るふたり
ふたりは白い光に包まれ
そして
消えてしまった
翌朝、ふたりが消えたことに気づいたメンバー
「ったく!勝手に行動しやがって!」
心配から悪態をつくべっきょん
「人のこと言えないでしょ」
「うるせぇ!」
さらりと言うチャニョルにベッキョンは顔を赤くしながら八つ当たり、チャニョルを蹴る
「ん〜普段規律は守るふたりだから余計心配だなぁ」
そこなんだよなぁ〜とスホの言葉に全員が頷く
「ふたりが行きそうなところといったら、やっぱりカイが最初に俺たちをとばしたあの家だけだし、居場所は特定できてよかったよ」
「でもさ、どうすればいいの?この街の人たちには俺たちは見えないんでしょ?」
深刻な表情で眉を寄せるスホ
そこで疑問を問うチャニョル
「見えないなら好都合だ。勝手ができる。ただ危険なのは何も策がないままあの家に入ることだ」
「え?どゆこと?」
シウミンの言う意味がわからずチャニョルが?マークを浮かべる
「対象があの家ならあの家で起きてることを解決しないといけない。そのためにはあの家に入らなければ、何もわからないままで何もできない」
「つまり、何の策もないまま敵さんの腹の中に入らなきゃならないってこと」
シウミンにルハンが続きふたりとも険しい顔つきになる
「しかも、ギョンスとジョンインがいないままだ。とても危険すぎる」
スホのその一言に皆が曇った表情になる
「ジョンインとギョンスはまだ"ふたり"と抑制状態の関係だ。抑えこむ力が強い側が"表"に出ている今、"あちら"のふたりが出てきた場合、助かる確率は五分五分といったところかな」
ディオとカイは互いに惹かれあっているもののふたりが出会ったのは今までで二回だけ
他方が出ても、もう片方は抑えられてしまうため"あちら"のふたりが他の青年たちは危害を加える敵ではないと判断されにくい
そのために、下手をすれば彼らは敵陣の中で"あちら"のふたりに殺られてしまうのだ
「なんというか、簡単に言うと"もうひとり"の彼らは"子ども"なんだ。だから力の制御もままならないし敵と味方の区別もできないんだ」
クリスの説明にスホが補足する
「・・・そのふたりが今回の件で表に出やすくなってるというのに、どうしてアイツらは俺たちを置いて行っちまったんだよ・・・」
ため息交じりに呟くチャニョル
「・・・・・・俺たちを置いて行くほど危険な相手ってことなんじゃないのか?もしも俺がギョンスとジョンインの立場だったとしても、同じことをしたな。みんなを巻き込みたくないから」
「ミンソガ!」
シウミンの放った言葉に珍しくルハンが声を荒らげる
もちろん、普段と呼び名が違うことは、ここにいる全員が気づいてる
だからこそ、ルハンが本気だということもだれもがわかった
「・・・・大丈夫だよ、ルハニ。やらないから。怒るなよ」
「・・・・・・べつに怒ってるんじゃない、」
シウミンはルハンがその先なんて言うのか、最初からわかっているようで静かに微笑む
その顔にルハンは何も言わず、思わずシウミンの腕を握りしめた手を、ゆっくりと放す
けれど、その手をすぐにシウミンは握り直す
ルハンは驚くけれど、もう自分に向いていないシウミンの真っ直ぐな瞳を見てそのままに、自分も握り返す
「何はともあれ、元凶はあの家だ。きっと答えは全部あの家にある」
ルハンの強い瞳に全員が頷く
「では、行こう!」
スホのその一言を合図に、青年たちは仲間を迎えに、教会を出た
最尾に出る前にチャニョルは振り返り、がらんと静かになった教壇に祈った
その祈りが届くのかは
きっと「あの家次第」だということを
彼らはまだ知らない
……To be continued