白いカーテンがゆらゆら揺れて
窓からは眩しい光が射し込んでて
半袖から白く細い腕をのばして
本棚に寄りかかるその人は
俺を見るとふわりと微笑んだ
顔は思い出せないけど
笑うとハートの形になる唇だけは覚えてる
目が覚めると彼の姿はなく、悲惨な状況が広がるだけ。
食べかけのポップコーンが入ったボールにクラッカーを鳴らした後の残骸、いくつかビール缶のゴミが床に散らばっていて、テーブルの上にひっくり返ったビール缶の先から漏れる中身で濡れた新品のカーペットはもう染みになってしまっている。
あ〜・・・・・・そういや、昨日サッカー観戦してめっちゃ盛り上がって・・・・・・・・・あれ?結局どっちが勝ったんだっけ?
末っ子のセフンはぶっ格好な姿で酔い潰れていて、髪の毛にポップコーンのカスが絡まってるとは知らずに夢の中。
「あれ?ルハニヒョン?」
見渡しても見えないヒョンを探す。
キッチン、寝室、バスルーム。
どこを捜しても見あたらない。
玄関を見るとヒョンの靴がひとつ無かった。
買い物にでも行ったのかな?
外に出たのだとわかり、水を飲んで一息つく。
セフンを起こす気力もなく片付ける気も起きなくて、陽射しが差し込む窓に誘われるようにテラスへ出る。
気持ちいいくらいの晴天に、あたり一面に広がる桜。
ぐうっと背伸びをして春の空気を肺いっぱいに吸い込み吐き出す。
朝は苦手な方だけどたまにこうして目覚めるのはすきだ。
「あ、、おはようございます」
声をかけられ振り向くと、隣人の男の人がフェンスに寄りかかり顔をちょこんと倒していた。
どうしてかはわからないけど、その人の雰囲気がどこか懐かしい気がする。
「はじめまして。隣の部屋のド・ギョンスです。これからよろしくお願いします」
ふわりと微笑んだその唇がハート型になって、ドキッとした。
あれ?俺ってまだ寝てるのか?
まだ夢の中?
「ふふ、眠そうですね。起きたばかりですか?」
その人の言葉によるとどうやら現実らしい。
「・・・すみません。朝は弱いんで。えっと、、昨日隣に引っ越してきたジョンインです」
「ジョンインさん。目覚めには珈琲がオススメですよ。実は兄が自分の喫茶店でバリスタをしてますので、家にはいろんな豆があるんです。よろしければ皆さんで召し上がってください」
そう言うとがさごそと音がして、隣のフェンスからひょっこりと紙袋を持った手が現れた。
受け取ると手は引っ込み、また同じようにギョンスさんの顔がちょんと出てきた。
・・・・首を傾げるのは彼の癖なのだろうか。
紙袋を開くと、同時にふんわりと豆の香りが広がる。
「いい匂い」
「今朝焚いたばかりなので美味しいですよ」
「ありがとうございます。いただきます」
「こちらこそ、ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
ギョンスさんはふんわりと微笑むと部屋の中へと消えてしまった。
俺は今朝の夢とギョンスさんの笑った唇が頭から離れなくて。
ただその場で立ちつくしていた。
何度も夢で見た彼は
今度は現実にも現れてきて
彼がくれた珈琲豆が証拠として
俺に渡された
・・・・・・ようなきがした。