僕は。


君がしようとしていることについて


実を言うと


知っていたんだ。


それでも


かまわないと思った。


それで


君が満たされるなら。


君の心が満たされるなら。


君が僕を許さなくても。


僕は、それでかまわなかった。


どんな罰でも受け入れよう。


それが唯一ぼくにできること。


僕の最後の愛の証として。


君が魂を抜いたから


僕はただの抜け殻になってしまったけれど


それでも君は


この抜け殻の体を


束縛したいと願っているんだね。


それとも君は


僕を抜け殻にすることが目的だったのかな。



答えは


すぐに聞ける。


永遠を生きる吸血鬼なら。


君の血しか求めないと


無意味に誓った僕は


いつも死にかけていて


蝋人形みたいだけれど


それでも君は


あの場所で笑うんだ。


あの時と


変わらない笑顔で


その笑顔の下に


醜い素顔を隠して。



それを厭うことすら


できないなんて


僕は本当に


抜け殻。


屍。


感情の無い、無意味なもの。


君のための僕が


そこにいれば


君はそれで満足なのかな。




あなたがいつか


真実にたどり着くのを


私は


心のどこかで


待ちわびていたのかもしれない。


嫌えばいい。


呪えばいい。


恨めばいい。


そうして負の感情だけを


私にぶつけてくれたらいい。


私は喜んで砕けて散るでしょう。




私は、偶然何代にもわたって生まれ変わる


あなたの恋人ではない。


私は、あなたを血に飢えた●●●に変えた張本人なのだから。


あなたが未来永劫


誰も愛せなくなるように


絶望することすらできないように


絶望なんて


あなたには似合わない。


それは『人間』が死に至る『病』だから。


私はあなたを


血も凍るような美しい


おぞましい動く屍にかえた。



だから、


私は、何度でも


あなたを忘れて


生まれ変わるように 


自分を変えた。


私は。


あなたと自分を使って


実験をしたのだ。


ただそれだけのこと。



あなたは


憂鬱と孤独と罪悪感を抱えた


憐れな吸血鬼。


私は何度でも


何も知らぬまま


生まれ変わり


あなたに焦がれ


絶望する。



私が、あなたを


人ではないものに変えたとき


私が愛した


人であるあなたは死んだ。


太陽に別れを告げるのを


私は、私への惜別と思った。


私は何がしたかったのだろう。


今となってはもう


わからない。


あなたの中で


ゆっくりと


確かに流れる


赤い水になれたはずなのに。


私は


私にかけた呪いから


逃れることはできない。


あなたが


私を忘れかけたころ


あの


想い出の


いつかの手紙が


朽ち果てるころ



あの場所でまた


会えるから。




あの墓標の下に眠るのは



あなたの骨の一部。


私の骨の一部。


私の秘密。


あなたの過去。



だからまた


いつか会える。



忘れていた古傷を


ひっかきまわすように


大切に抱えてきたアルバムを火の中にくべるように


そうして


自分を傷つけて


傷つけて


自分を罰したつもりになっているなんて


あまりにも愚かだ。


そしてその、愚かさに気付いたころには


もう


何もかもが手遅れで


残るのは


後悔。


残骸。


残滓。


古傷をえぐりだして


君の記憶を探ったところで


流れ出る醜い赤い液体には


何も刻まれてはいない。


君はもう


ここにはいない。


僕は。


確かに。


君の血を


一滴残さず


貪りつくした。


獣のように。


血に飢えた、化け物のように。


なのに。



君の美しい血は


僕の


汚れた血と混ざり合い


区別がつかない。



君を手に入れたはずなのに。


君を形作る根源を手に入れたのに。


それは、ただの愚かな過ちだった。


僕は。


この赤い、人の血なしには生きられない。


生きてくことになんの意味も見出せないまま。


生きているなんて


言えないような


無為の永遠を彷徨っているだけの


形あるだけの亡霊が


その時間を長らえるためだけに


君を


あの綺麗な君を


搾り滓にした。


僕の中に


君がいたのはほんの一瞬。


人間に戻りたいとは思わない。


人間に戻ることなど。


意味がない。


君がいないこの世界を


僕のこの灰色の世界にいた


唯一の光である君を


失った今の僕に。


思い出はなんの意味もない。


だからもう


常備薬はいらない。


全て


灰になればいい。


そうして。


僕はまた


何事もなかったように。


生きたフリをする屍でいる。


またきっと君に逢えると信じているから。


何度でも


何度でも


何度でも


君は僕の前に姿を現す。



そうして僕を試す。


面白い実験でも始めるように。


君を手にかけたのは初めてだったかな。


僕はいつも


どうしてた?


君を見送っていたのかな。


それすらも思い出せない。


頭の奥に焼き付いて離れない


君のおぼろげな姿と


甘い香り


そして


邪悪な笑顔。


赤い、戦慄の紅。