それはよくいくゴルフ練習場での出来事。
その日も、22時に営業を終了し
遅番で入っていた副支配人は、スタッフと一緒に
練習場の後片付けを始めた。
ボール集めとか、ネットのチェックとか、打席の整備。
何事もなく、いつものように23時には全てが終わり
スタッフ達は帰っていった。
事務処理や売上計算のため、副支配人は一人事務室に。
小高い山の中腹にある練習場は
施設の照明を落としてしまえば、全体が暗闇に包まれる。
周辺には住居もなく、車の走行音すら聞こえない。
唯一明かりが漏れる事務室で
副支配人の打つキーボード音だけが、カチャカチャと響く。
そして23時20分、PCをおとして本日の業務は終了。
灰皿を片付け、事務室の電気を消した。
副支配人は、受付カウンターの裏にある事務室を出て
ロビーを横切り、非常口マークの薄明かりを頼りに
通路を裏出口へと向かった。
あと数歩で裏出口のドア、というトコで
ピロリロ ピロリロ ピロリロ
突然、携帯の着信音が。
ドッキィッ!!
副支配人は、おもわず立ち止まってしまった。
それはいつもの、聞き慣れた自分の携帯の着信音では・・・・・
ナイ。
ほんの数コールで切れた着信音。
身動きせず、ジィッと耳を澄ます。
ナニも聞こえない。
でも、このままじゃ 帰れナイ。
走って事務所に戻り、電気のスイッチをONに。
チカチカッと、蛍光灯が点灯した。
それでどうしよ、副支配人は考えた。
やっぱ、建物内を見て回るべき、なんだろうと彼は思った。
そこでふと
アレッ、確か、裏出口、鍵、閉めたよな。
そう、いつもはスタッフ達が帰ったら、裏出口には
中から鍵をかけるようにしている。
深夜こんなトコに一人のとき、よからぬ者にでも入って
こられたら、たまったモンじゃない。
でも、今日はどうだったっけ。
思い出せない、今までぜんぜん意識してなかったから。
副支配人は、ドアを確かめに行こうかとも思ったらしい。
でも、今さら意味はナイ。
もし誰かが入ってきてて、鍵をかけたとしたら。
副支配人は、壁際に立ててあるバッグからクラブを
1本引き抜いた。
彼の場合、けっこう手荒な青春時代を送ったせいで
中年となったいまでも、多少ウデには自信がある。
ヨシッ、行こう。
意を決めて、事務室からロビーへと踏み出したそのとき
ピロリロ ピロリロ ピロリロ
着信音。
うなじが総毛立ち、背中がズンッと冷え、鳥肌が・・・・・。
誰かいる?
ホント誰かいるのか?
彼はその場に立ち尽くし、大声で怒鳴った。
「誰かいんのかッ!!」
静寂。
ナニも聞こえない。
彼は迷った、どうしよ、事務所に戻って電話しようか
警備会社か警察に。
でも、ナンもなかったら。
とりあえず、彼はそっと身体をすべらせ
受付カウンターの背後の壁にある証明スイッチに
手を伸ばした。
建物内に明かりが点いた。
クラブをギュッと握り締め、カウンターの内側から
身を乗り出し、あたりを見回した。
ナニも変わりはない、誰も見当たらない。
彼はしばらく様子を伺った。
そして、そっとカウンターからロビーへと歩み出た。
意外と長文になってしまったんで、次回につづく。