先週ついに導入した幻玉と春桃玉を、それぞれ(もちろん)新型岩石鉢に植え付けた。いずれもまだ脱皮の進み具合が微妙なので、とりあえず腰水もせずに様子見をしている。

幻玉
まずは幻玉。ディンテランタスは、なにしろマイナーなメセンであるせいか、いい加減な品種名をつけられて流通していることも多いと聞くが、これは特徴から見て間違いなく幻玉だと思う。というのは、まだ幼苗である上に、この写真では写しそびれたのだが、上面の一部がオレンジ色がかってきているからだ。これは幻玉に特有の特徴で、今後問題なく育ってキールが立ってくれば、それぞれのエッジ部分(キール及び葉の合着部のライン)がはっきりしたオレンジ色になって、体色とのコントラストが際立つようになってくるはずである。この株は明らかに徒長気味だが、やはり、夏場に遮光する従来の栽培法で管理されてきたためだろう。無論、うちでは既に直射光をガンガン当てている。表土付近の砂利も、ディンテランタスの自生地をイメージして気持ち盛ってみた(笑)。

春桃玉
こちらが恐らく(「inexpectatus」という札が付いていたので)春桃玉。どうも春桃玉の学名は混乱しているようで、独立した種として扱う旧来の分類と、幻玉の(斑点やオレンジエッジのない)亜種として位置づける新分類(?)とが錯綜しているようだ。この件についてはいろいろ調べてみたのだが、私は多肉関係のアカデミックな組織に所属しているわけでもないので、結局のところよく分からなかった。まあ、学名については研究者の間でも意見が割れたりするものだから、私のような素人にとってはどうでもいいことだ。一方、品種としては、少なくともディンテランタスであるとするならば、このように、微細な点(←幻玉、妖玉、奇鳳玉)・シワ(←南蛮玉)・窓(←綾耀玉)がなくてツルンとしているのは春桃玉だけだから、そのように判断していいわけだが…。と、なんだか奥歯に物が挟まったような言い方をしているのはワケがある。この植物が、「ディンテランタスとしては」ちょっと顔色が良くないからなのだ。すなわち、グレー基調ではあるもののうっすらと緑がかっている。形も似ているから、詳しくない人が見たらアルギロデルマだと思ってしまうかもしれない(汗)。恐らくは先ほどの幻玉と同様、遮光管理されてきたためではないかと思うのだが、少なくともこれは春桃玉本来の体色ではない。これから直射光をガンガン当てて体色変化の様子を見守るが、もし、名札を間違えたとかとでアルギロデルマを買わされてしまったのだとしたら、とんだお笑いぐさだ(哀)。売り場には同じ学名の名札が差された株が3つ4つあったので、多分大丈夫だろうとは思うのだが…。
さて、ここで改めてディンテランタスの(正解と思われる)栽培法について調べ直してみたので、ちょっとまとめておく。
①あまたの指南書やHPには事実に反する説明が並べ立てられているが、まず大前提として、いわゆる冬型の多肉植物ではない。ディンテランタスは夏季降雨地帯産のメセンであり、海外のHPの多くには(→こういう区分は、個人的には好まないのだが)夏型種であると書かれている。したがって基本的に(自生地で降雨がある)温暖期に生育するわけだから、我が国において(断水・遮光による)夏季休眠をさせることは自殺行為に等しいと言っていい。遮光をしてはならないことに関する詳しい根拠は後述する。
②冬は水分をほとんど必要としないので、むしろ「乾燥状態を保つこと」とされている。我が国では多分、冬生育型であるという誤った情報に基づいて低温期に灌水してしまったりすることも、調子を崩す一因となっているのではないかと思う。
③ここが、以前から私が主張しているキモなのだが、ディンテランタスは真夏であっても絶対に遮光してはならないはずなのだ。それは何故かといえば、「白っぽい」からである。というのは、そもそも植物なのにどうして緑色でないのかといったら、自生地での強すぎる日光を弾き返すためだからである。ちなみに、これは海外の研究らしいが、リトープスの場合、表皮(いわゆる「窓」以外の大部分)にはタンニンが含まれていて、それによって光の通過を阻害したり紫外線を遮蔽しているのではないかと考えられているらしい。だとすれば、やはりリトープスの(窓以外の)一般にグレーっぽい表皮は日光をほとんど弾くような性質であり、それによって自生地の強烈な日差しから身を守っているのである(※光合成に関しては、限られた窓から入った光線が透明な内部構造内で拡散することにより、表皮の内側にある葉緑体に達することでおこなっている)。それでは、である。それでは、窓がないのに全体がグレーっぽい魔玉やディンテランタス(※窓がある綾耀玉は除く)の場合はどうなっているのか。といったらやはり、これらの場合は、防御力強化のために(※彼らの自生地は、南アフリカ国内でも特に日照の強い地域なのだ)植物体の全面を覆って太陽光線の大部分を弾き返している強力な耐光性の表皮を、それでも通過してくる「強光線の一部」を使うことによって光合成のバランスがとれるようになっている、と考えるべきだろう。このような植物を、光量自体や年間日照(=晴天)時間が遠く及ばない我が国で遮光などしたら、一体どういうことになるか…(自明)。ところで、ちょっと話がそれるが、自生地がほぼ重なっていて体色も似てはいるが、実は魔玉(ラピダリア属)とディンテランタス属には大きな違いがある。それは「葉が何対あるか」ということだ。魔玉は対生葉を何対も重ねるのが当たり前(うちの魔玉なんぞは現在5対ある)だが、ディンテランタスは基本的に1対のみである。葉が何対もあればそれだけ光を受ける部分も増えるわけで、ディンテランタスよりも日照に対する悪条件には強い性質があるのではないだろうか。だからこそ、ディンテランタスがあっけなく衰弱死してしまう我が国にあっても、魔玉は徒長する程度で済んで生き残る(=専門店でもよく売られている)ということもあるのではないか…。ラピダリアの話ではないので話を元に戻す。海外のHPにも、ディンテランタスにはとにかく日光をガンガン当てろ、と書いてある。もちろん、我が国の夏は湿度が高いし熱帯夜もあるので、それらに対する対策は必要である。しかし、基本的なエネルギー源であり、ただでさえ表皮を通過しにくいであろう光の量に関しては、絶対に削ってはならないということだ。
④今回の再挑戦に際し、改めて自生地でのディンテランタスの写真をあれこれ見ていてハッとしたことがある。昔の(今でもそうだろうか…)常識では、ディンテランタスが分頭することなどはまず「ない」とされていて、私もそういうものだと思っていた。ところが、自生地の写真を見るとごく普通に分頭しているではないか! たまたま見かけた写真1枚2枚の例外ではない。奇鳳玉も幻玉も妖玉も、自生地ではどれもこれも分頭して立派な群生株になっている。私が確認した中で一番頭数が多かったのは、9頭(!)になった幻玉だった。要するにディンテランタスは、本来は普通に分頭するメセンなのである。それが我が国では分頭しないものとされてきたのはなぜか。答えは簡単、しっかり成長して分頭に至るまでの体力がつかないからだ。ではなぜ体力がつかないのか。これまた単純な話で、本来の生育期である温暖期、特に夏に「休眠」と称してエネルギー源である光も水も与えない(遮光+断水)という、まるで断食修行か何かのような管理をしているからである(しかも前述のように、彼らはとりわけ光量不足の環境に弱いと思われる)。ディンテランタスは、リトープスと同様に元々休眠などしないメセンである(←季節的な変化で生育が止まることなどはあるが、それはコノフィツムやモニラリアのような意味での休眠ではない、という解釈で言っている)。我が国の夏場の高温多湿を恐れての措置が、むしろディンテランタスの体力を削いで衰弱死させてきた、という側面があるように思う。
⑤それでは、そもそも今まで夏季休眠をさせてきたのは何故かといえば、我が国の夏は「湿度が高く」「日中の最高気温が彼らの許容範囲を超えることがあり」「夜間の最低気温が下がりにくい」という、魔の三点セットがあるからである。最初の湿度の問題に関しては、エアコン完備の豪華温室でもない限り(苦笑)、最大限度の通風を図ることによって対処するしかないだろう。うちでは、透明ポリカーボネートの雨よけで覆っただけの吹きさらしの置き場でメセン類を育てている。次の最高気温高過ぎの問題については、うちでは(実際の効果のほどは定かでないが)水上栽培という独自手法と、特に高温に弱そうな種類については二重鉢による冷却をおこなっている(※これらの子細は別ページを参照されたい)。最後の最低気温が下がりきらない問題については、できることといったら、先ほどの水上栽培に加えて夕方から夜にかけてのシリンジくらいだけだが、うちのメセンたちは(全て直射光栽培しているが)どうにかそれでしのいできた。少なくとも「いわゆる日焼け(←メセンの場合は本当に日焼けなのかどうかは疑わしいと思う)」や「夏季休眠させないことによる衰弱」などでダメになったメセンは一つもない。
⑥最後に、これは我が家だけの特殊な要因になるが、独自考案の「岩石栽培」というものを導入して多肉植物を育てており、それは特にメセン類との相性がいいように実感している。詳しいことは別ページに書いてあるが、簡単に言うと、メセンも含めたうちの大部分の多肉植物の鉢の中身の7~8割くらいは、大きさ2~3センチ程度の石(軽石などではなく、吸水性のない本当の石)なのだ。これはまだ試行錯誤中の実験段階なので、皆さんにお勧めしているわけではないが、そういう要因もあるということで。
さて、こうしてスタートしたディンテランタス再チャレンジ。とりあえずは、無事に脱皮させることが最初のヤマか…(汗)。とはいえ、国内外を問わず「過保護にするから良くないのだ。リトープスと同じような扱いでいい」という先人たちの意見が多いことも心強い。