突然の出来事に、勇示は開いた口がふさがらない。
なにがどうなっているのかサッパリな勇示は混乱の中、無理やり声を発する。


「えーっと、どちら様ですか?」
勇示は引きつった顔のまま恐る恐る尋ねてみる。


「・・・・・・」
少女は無言のまま、真っ直ぐな瞳で勇示を見つめている。相変わらず少女はダンボールの中に足を突っ込んでいる。


「あのー。聞こえていますでしょうか?」
勇示は再びぎこちなく尋ねる。


「・・・・・・」
少女は無言のままだ。しかし、勇示の問いかけに応じるように少女の瞳にはうっすらと涙が浮かんだ。
少女はそんな涙を隠すように顔を下へ向ける。


勇示はそんな少女を見るなり
「えっと・・・、もしかして俺は何か気の障ることでも言いましたでしょうか?」
勇示の顔は引きつったまま+申し訳なさそうな顔だ。


「・・じ・・・の・・・カ」
少女は下を向きながら、ボソリと呟いた。余りにも小さな声のため、上手くは聞き取れない。


「いま、何とおっしゃいましたか?」
勇示はたどたどしく尋ねる。


すると少女は下を向いていた顔を上にあげ、潤んだ瞳を勇示の目と合わせるなり、今度はちゃんと聞こえるような声で


「ゆーじのバカ・・・」と言った。
バカと言うのが慣れていないせいか、どこか恥ずかしそうな感じで、発した言葉の語尾に行くにしたがって声がだんだん小さくなっていく。


・・・・・・・・・


勇示の頭の中は現状況を整理する事でいっぱいだ。そんな中、『初対面の人と仲良くなるためには』と言う本があるとすれば、その本には「初対面の人への挨拶は相手を見ながら罵倒しよう!」と言うアドバイスは絶対に載ってはいないはずであろう言葉を浴びせられた勇示は、聞き間違いかと思い、再び少女に尋ねてみる。


「もしかして俺は今、バカと言わたのですか?」


少女はコクリと頷く。


「ナンデ、バカなの?」勇示は何故かカタコトに言葉を発する。未だに頭の中では状況整理中のようだ。


「ずっと無視してた。」少女は小さな声で即答した。


勇示の頭の中は、
(なんで俺の名前知ってるんだ?一体、目の前の少女は誰なんだ?なんでダンボールに足を突っ込んでいる?なんで俺の部屋はきれいなんだ?そもそも、いつの間に俺の後ろにいた?)
などのように、疑問文でいっぱいだ。そしてその疑問のどれから尋ねればいいのかも整理が付かない。


勇示がどれから尋ねるか考えている少しの沈黙の後、勇示が少女に尋ねることを決め、口を開けたそのとき・・・


♪チャチャチャ♪ラララ~♪チャララ~♪


不意に勇示の携帯が鳴り出す。


勇示は気まずそうに少女を見る。


「でてもいいよ。」少女は優しく言う。


勇示は自分の左にある腰の高さ程のタンスの上に置いてある携帯を取ると、少女を見ながら携帯にでる。


声は一方的に聞こえてきた


『もしもし~ゆうちゃ~ん♪ダンボールの中身は見た~?♪母さん腕によりをかけて作ったんだよ~♪』
電話の相手は静香だった。聴きなれた声を聞いて少し落ち着く勇示。


「うん。ありがとう。」勇示は贈り物+この状況で電話を掛けて来てくれた母に感謝する。


『ね~ね~どれがおいしそうだった~?♪』
静香は電話越しでも分かるワクワクした様子で勇示に尋ねる。


「えーっと・・・」
勇示は贈り物(ダンボール)の中身を知らない。なぜならば、ダンボールの中身にはゴミしか入っておらず、その中に本当は静香の手作り料理が入っていたことも知らなかった。
しかし、正直にダンボールの中には何も無かったと言うと、電話越しからでも分かる静香のワクワク度を察するに、とてつもなく悪い気がする。
勇示は少女の足が突っ込んであるダンボールを見ながら、実家にいた時に食べていた静香の得意料理を考え、何が入っていたのかを考える。


「めかぶ汁かな?」勇示は自信なさ気に言う。


『・・・・・・・・・・・』
電話越からは何も反応がない。


(ヤベーどうしよう!母さん黙っちゃいましたよ。めかぶ汁じゃなかったの?てか、汁物を送ってくる訳ないよね?俺のバカーーーー!!!!)
勇示は心の中で叫びながら困った表情で再びダンボールを見ながら考え直す。


相変わらず少女の足はダンボールの中・・・・・のはずだった?


勇示はダンボールをずっと見ていた。静香の電話が掛かってきたときは少女の足はダンボールの中にあったはずだ。そこから移動するのであれば、足を一度ダンボールの中から出さなければならないはずだ。
しかし、少女はダンボールの横で床に正座しながら、どこから取り出したのか左手に筆のような物を持ち、右手に俳句を詠むときの短冊(たんざく)のような紙を構えて、何かを書いている。その様はまるで今にでも「ここで一句」と言わんばかりの俳人のようだ。


勇示は少女の足がダンボールから出る所を一度も見ていない・・・。
しかし少女はいつの間にかダンボールの横にいる。


勇示が頭の中で静香の得意料理を考えながら俳人のような少女を見ていると、一句でもできたのか、少女はスーっと滑らかに立ち上がった。


「!!!!!!!!!!!!」
勇示は片手に携帯電話を持ち、少女の足元を見るなり、あまりの驚きからその場で固まってしまった。携帯を持っている方の勇示の手が震える。


少女には足がなかった・・・・・・・。
スカートの様な白装束から覗かせる膝から下が、下に行くに従って徐々に消えており、普通の人間であれば足であろう部分が足首から下が全く見えないのである。


『ゆうちゃ~ん♪どうしたの~♪』
電話越しから、静香ののんびりとした声が聞こえてくる。


勇示が唖然として少女を見ていると、少女はまるで床から浮いている感じで、氷を滑るように勇示に近づいて来ると、勇
示に向けて右手を出した。その手には少女が先程何か書いたであろう短冊が握られていた。


「これを読めって事なのか?」勇示は電話越しの静香に聞こえないように電話の話す所を指で押さえながら、少女に恐る恐る尋ねる。


少女はコクリと頷く。


勇示は少女から短冊を受け取ると、そこに書いてある文字を黙読する。


【すっぱいピンク、あまじょっぱいオレンジ、ぐるぐるミドリ、もちもちちゃいろ、ふさふさブラック】
と、可愛らしい字で書いてある。


(どこの5レンジャー?しかも弱そう・・・)と勇示は心の中で思う。


しかし、勇示はすぐに電話の向こうの静香に
「イカの寿司が美味しそうだね。あれ、婆ちゃんが作ってたやつだよね?母さんも作れたんだ。」
と言った。


『それに目を付けるとは~♪うれしいな~♪挑戦してみたんだ~♪』
静香はとても嬉しそうだ。


『それじゃ~♪食べたら感想きかせてね♪』
そう言うと静香は一方的に電話を切ってしまった。


勇示は何とか答えられてホットした。そして少女を見るなり
「助かったよありがとう」と言った。


少女は笑顔でコクリと頷いた。


そう。。。。少女が勇示に渡したものは静香の送ってくれた手作り料理の内容だったのだ。


勇示の推理だと、

酸っぱいピンク→イカの胴体にシソの葉と人参を入れ、酢につけたピンクのイカ

あまじょっぱいオレンジ→バターと鮭とキャベツをいっしょに炒めたシャケのちゃんちゃ焼き

ぐるぐるミドリ→ロールキャベツかハモの昆布巻き

もちもちちゃいろ→炊き込み御飯

ふさふさブラック→おやじの願望

我ながら素晴らしい推理だと頭の中で思う勇示だった・・・。
6月28日の朝7:00


「加賀ー、朝だぞー、起きろー。」
翼はワイシャツにネクタイを通し、寝ている勇示を見下ろしながら言う。


「・・・母さん、今日は学校ないよー。」


「おーい、起きなさいなー」
翼はそういうなり、寝ている勇示の腹の辺りを軽く踏みつける。


「ぐはっ!・・・・・おやすみなさい」
勇示は再び眠りにつく。


翼は呆れながらも、何回か勇示のお腹の辺りを踏んづけてみる。


「ぐっ、はっ、だっ、でっ・・・・・」
勇示は踏みつけに反応はするものの起きる気配を見せない。


(こいつを一発で起こした夢っていったい何なんだ?)
翼は呆れながらそう思った。


翼は再び勇示のお腹を踏みつけた。しかし、こんどは三三七拍子のリズムで踏みつけ始めた。


「が、が、が!ぐ、ぐ、ぐ!が、は、が、は、が、は!」

翼は三三七拍子の最後の7回を6回で止めた。


「って、そこは7回だろー!!」
勇示は突っ込みを入れながら、ズバッと目を開ける。


「お、起きたか?」微笑みながら、翼は勇示に尋ねる。


「あ、翼さんおはようございます。」
勇示は先ほどの素早い突っ込みが嘘のように、ボーっとしながら言う。どうやらまだ眠そうだ。


翼はそんな勇示をみると、勇示の目の前に手を置き、猫だましをするように「パン」と手を叩いた。


「は!朝だ!ノストラダムス!あ、翼さんおはようございます♪」
意味不明な文章を言いながらも勇示は目を覚ましたようだ。


「加賀、俺はもう出なくちゃいけないんだが、お前はどうするよ?まだ寝ていたいなら、鍵は置いて行くから、帰るときに家のポストに入れておいてくれるといいんよ。」
翼はスーツのボタンを掛けながら勇示に言う。


「いいえ、俺も一緒にでます。」
勇示はまだ寝たかったが、家主が不在の家に自分だけがいるのも悪いと思いそう応えた。


古い木造の床を通り、足で蹴っ飛ばせば壊れてしまいそうな玄関の扉を開け、2人は外へ出た。


外はすずめがチュンチュンと鳴き、太陽の優しい光は電柱に影を作っていた。


爽やかな朝だ。


2人は朝の清清しさを感じながら歩いていく。


「それじゃ、俺はこっちの道だから。家に帰って何か変なことがあったら連絡するんよ。」
翼はそういうと、角を曲がり駅の方へ歩いて行った。


「ありがとうございました。」勇示は駅へ歩いていく翼の後姿を見ながら言った。


(翼さんスーツ着ていたけど、どこへ行くのかな?就活かな?あんな派手な金髪で就活は大丈夫なのかな?)勇示はそんなことを思いながらも


(今は人の心配をしている暇じゃない。俺は家に帰って大丈夫なのかな?死ぬ目にあったりしないかな・・・・?)
と、常に最悪の考えしか浮かばない頭と戦いながらも家へ向かって歩いて行った。


・・・・・・


家の前に着いた。


勇示は鍵のかかっていない玄関の扉を少しだけ開けて中の様子を確認してみる。


「?」


「すいませんでした。」
そういうなり、勇二は反射的に扉を閉めた。


「俺、部屋間違えたかな?」
勇示はそう思い、辺りを見回してから扉の右上の壁にある名前を見てみる。
『加賀勇示』


「うん。確かに俺の部屋だ。」
そう確信した勇示は、扉を開けて玄関に入る。


玄関に入り部屋を確認すると、ゴミは一つも落ちてはいなく100%フローリングが見えた。以前?の勇示の部屋からは想像も出来ない光景である。


「どうなってるんだ?」
勇示は分けが分からないものの、清潔感溢れる部屋の中へ足を踏み入れる。


中へ入り部屋を見てみると、布団は律儀に4つ折になっており、脱ぎ捨ててあったはずの服も上と下に分けられて綺麗に畳まれていた。しかし、ふと横をみると、そこにはゴミ一つ落ちていない部屋には場違いのむしろゴミ寄りの愛媛みかんのダンボールが置いてあった。
昔の勇示の部屋に溶け込んでいたはずのこのダンボールも、いまのこの部屋の状況から考えると奇妙なものだ。


「なんでこれだけ片付いてないんだ?」
勇示はそう言うと、ダンボールを解体するためにダンボールに背を向け、カラーボックスの中にあるカッターナイフを探し始めた。



すると・・・・・それは来た


誰かの視線を感じる・・・・。


「寒い・・・・」
勇示は呟く。


後ろのダンボールの方から凄まじい冷気が流れてくる。


「一体、なんなんだよ。」
勇示の額からジワリと脂汗が出る。全身の毛が逆立ちゾワゾワとしてくる。


勇示はカッターを見つけると、震える手を左手で押さえつけながらカチカチと刃を出す。


カッターを持つ手に力が入る。


(このまま何もしないんじゃ何も解決しない!!)勇示は心の中で決意を固めると、


「ふざけんじゃねーよ!!!」


勇示はそう叫ぶなり、恐怖を振り払うかのように後ろを振り向く。


と、そこには、


銀髪の少女がダンボールに両足を突っ込んで立っていた。


身長は勇示よりも低くく、銀髪の髪は腰辺りまでの長いストレートで、それとは別に頭の両サイドから黒の不思議な刺繍のリボンで髪を束ねて垂らしている。肌は雪のように白く、服装は膝下まであるスカートのような白装束で肩の辺りに切れ込みがあり、そこから白い肌が見えている。
窓から入る光で、銀髪の髪は一本一本がキラキラと輝き、白い肌は真珠のようにつややかである。
全体的に可愛らしく、おとなしい感じを受ける女の子であった。


(綺麗だ・・・)
勇示の中で、一瞬時間が止まったかのようだった。


少女は勇示をじっと見つめると、両手をちょこんと前に出し、手首から力が抜けたように手を垂らすと、頭を横に傾げながら


「ウラメシヤ」


と言った。



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「ここにいたらヤバイ!!」


心の中でそう思った勇示は全身に感じる寒気を振り払うように、寝起き早々とは思えない程の瞬発力を発揮して玄関へ向かうなり部屋の外へ飛び出した。


後ろを振り返る余裕すらない。


アパートの階段を駆け足で降りるなり、暗い夜道を全速力で走り出した。


足の裏にはアスファルトの冷たさを感じ、走る度にペタペタと音を立てる足の裏はヒリヒリと痛さを感じつつ麻痺していく。


体全身で夜風を切り、肺の中には冷たい空気が流れこんでくる。


勇示は息を切らしながらもガムシャラに走る・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・


勇示はガムシャラに走った末、木造のボロアパートの扉の前にたどり着いた。


そして、たどり着くやいなや、呼び鈴がないドアをドンドンドンと叩く。


「助けてください!!」 勇示は息を切らしながら言う。


「はい、はい、誰ですかねー。こんな真夜中に死にそうな声を出してるのは。」


中から男の声が聞こえ、木造の扉が軋みながら開かれる。


神城翼だ。


翼を見るなり勇示は多少の落ち着きと安心感を得る。


「朝・・ま・・で・・・置いて・・・下さい。」切れ切れの息で勇示は言う。


「誰かと思ったら、変態さんの御到着ですか。こんな真夜中にどんなプレイですかぁ?レスリングでもやっちゃう人ですかぁ?」翼は眠そうにあくびをしながら言うなり、勇示に指をさす。


翼から指をさされ、改めて自分の格好をみる。


そこには、上はTシャツに下はパンツ1丁で裸足の変態がいた。


「なぁぁぁぁぁーーー。俺はこんな格好で夜道を半泣きで疾走していたのか。」勇示は頭を両手で押さえ落胆した。


「まぁまぁ~。とり合えず部屋に入りなさいな。お前に真夜中パンツダッシュ略してMPDの趣味がある事は秘密にしといてやるから。」


「ないですよそんなの!!多少Mで公の場で羞恥を晒すことに快感めいたトキメキは感じるかもですけど、そんな趣味はありません!!ってかMPDってなんですか!!」勇示はキッパリと言う。


「加賀・・・変態って言うのは否定しないんだな・・・・・」翼は呆れたように言う。


そういって翼は勇示を部屋の中へ招き入れ、丸いちゃぶ台の前に座らせると、勇示の前に麦茶を置いた。


「で、加賀はなんで死にそうなツラを下げて俺の家へきたんよ。」


「はい。寝ていたら急に寒気がして起きたら、涙が止まらなくて、それでいて後ろのほうから視線を感じて怖くなって逃げてきたんです。」勇示は説明しながらも、恐怖で体を震わせていた。


「後ろには何がいたんよ?」翼は真面目に聞き返した。


「みてません。そんな余裕はありませんでした。」


「そっか。それでいて起きたら涙が止まらなかったと言うわけか。」そういうなり、翼は考え込む。


「もしかしたら、それは幽霊が加賀に何かを訴えたかったのかもしれんのよ。」翼は顎にてをあて考え込む姿勢のまま言う。


「訴えるってなにをですか?って言うか幽霊なら逃げても意味ないじゃないですか?」


「何を訴えているのかは俺もわからないけど、俺の家に逃げてきたのは正解かもな。そして意味なら加賀がMPDに目覚めたと言うメルヘンな意味があるんよ。」


「目覚めてないし、むしろメルヘンと言う意味も分かりません!!」勇示はキッパリと言う。


「そもそも幽霊なんて存在するんですか?」勇示は根本的な質問を翼にぶつけた。


「幽霊はいる」翼は即答した。


「ま、ここにいれば安心なのよ。」続けて翼は言った。


翼の言う安心の意味は分からなかったが、なぜだか翼が言うと説得力があり、幽霊がいるかどうかの前提は抜きにして、勇示は安心できた。


「取りあえず、原因を確かめるためにも加賀はもう一度家に戻ってみる必要があるんよ。でも、その正体が分からない以上、夜に戻るのは危険だから朝までここにいて、外が明るくなったら戻りなさいな。」翼は爽やかな笑顔で勇示にいった。


「ありがとうございます。それじゃ、朝になったら翼さんも一緒に・・・」勇示が言い終わるか終わらないかのうちに、


「ごめんな。明日は朝早くから用事があってそのための準備があるから、一緒には行けんのよ。」と翼は残念そうで寂しそうな顔で言った。


「そうですか。残念です。ってか一人だと怖いんですけど・・・・・」勇示は不安そうにいった。


「なんとかなるんよ。外は明るいし怖くない怖くない。」翼は勇示をなだめるように言う。


「わかりました。」勇示は残念そうにいった。


「とり合えず今日はもう遅いから寝るんよ。俺も明日は朝早いし、加賀も寝不足だと体が弱って幽霊に取り付かれやすくなるから、さっさっと寝るが一番。」


「おどかさないでくださいよ。早く寝ようとすると眠れなくなるもんなんですから。」


「わるいわるいww」


翼はそういうなり部屋の電気を消し、眠りについた。


勇示も翼から借りた布団に入り、とり合えず眠ることにした・・・・・・。




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塾したトマトの皮はワイシャツのようなシワを寄せ、ブヨブヨしている。握ると多少の硬さを感じるものの、ズルリと中身と皮がずれると同時にグチョリと音を立てて潰れる。そして指の隙間からはドロリとしたものが溢れてくる・・・・・・。


しかし・・・・トマトではあまりにも小さすぎる。


腐ったスイカは表面の硬さとは裏腹に、その中身は固体から液体に変わる。割ったとたんに赤くも黒い(グロい)液体がダラリと勢いよくふきだし、あたりをビシャビシャにする。


勇示の目の前に何かが落ちている。


それは、スイカのような大きさであり塾したトマトの中身をぶちまけている。


「・・・・・・なん・・・だ・・・これ?」


勇示はなにかを確かめるために近寄る。


「!!!!!!!!!!!!!!!!!」


勇示は驚くと同じに、反射のように喉の奥から吐き気を感じる。


そこにあったのは人の頭だ。なにかに殴られたのかパックリと割れて、そこからぐじゅぐじゅとしたミミズのようなものと腐ったスイカのような液体が大量にぶちまけられていた・・・・・。体は手足がありえない方向に曲げられて、まるでマリオネット(操り人形)を投げ捨てたようにカクカクさせて、目の前に倒れていた。
関節の節々は内出血でジワリと赤紫に変色している。


「何なんだよ・・・何なんだよ・・・・」


状況が理解できない。


勇示はそれを見下ろしながら、視野のなかの血溜まりの上にある自分の靴に目がいく。


靴は赤く染まっていて、膝あたりまで見るとそこも血で染まっている・・・・・


そしてそのまま血を追うように、目線を自分の膝から胸の当たりまで向けると・・・・・・・・・。




勇示は血だらけだった・・・・・・・・・。


片手にはなぜか木製のバットが握られている。
バットからはタチタチと血が垂れてその下には血溜まりができている。


「!?!?!?!?・・・・・・」


「こっ!・・・・・これは・・・・・・・お、俺がやったのか?」


勇示の唇は震え、呼吸が不規則に乱れていく。


その直後・・・・・・・


「うああああぁぁぁぁ!!!!!!」


勇示はパニックになり、握っていたバットを投げ捨てて、一歩後ろへ後ずさりしたあと、後ろを向いてその場から逃げるように走りだした。


・・・・・・・・・・・・・


走っても走ってもあたりは闇のなかで先が見えない。それでも勇示は走るのをやめない。走って走って走りまくる・・・・・・・・・・・・・・」



・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・勇示は闇の中で疲れのあまりに足を止める。


目をつぶり呼吸を整えようと前屈みになり荒く息をする。


そして呼吸も少し落ち着きだしたところで、前屈みのままゆっくりと目を開ける。


と、


そこには・・・・・・・・・・・・


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


走り出す前と全く同じ状況があった・・・・・・・


勇示が走って立ち止まったその少し前のほうに、先ほどの血の海に沈んだ頭がある。


「!!!!!!!」


「な、な、な、な、何なんだよこれは・・・・・!!」


勇示は息が切れるくらい走ったはずなのに、同じ所に戻ってきたのか、はたまた目の前の頭が動いてきたのか勇示には理解できない。ただそこにはスイカを割ったような頭があった。


勇示はあまりの恐怖に全身をガクガクと震わせる。


勇示は再びそこから逃げようとする。


しかし・・・・・・


・・・・・体が・・・動かない・・・・・・。


足をコンクリートで固められたように、その場から身動き一つ取れなくなる。


そのとき、目の前の『それ』がカタカタと音を立てる。


勇示の目は音のする方へ張り付けになる。


カタカタ・・・・・・カタカタ・カタカタ・・・


グルン!!


首だけを動かして『それ』は、勇示に顔であろう表面を向ける。


その直後、その表面から人の目であるだろうものがクワッと開かれる。


勇示と目が合う。


目に生気はない・・・・・。それはただ勇示の方を向いているだけだ・・・・


勇示は体が動かせない。例え動かせたとしても、目の前の恐怖から張り付けになり呆然とたち尽くすだろう。まるで蛇に睨まれた蛙とでも言うところか。


時間が永遠に感じる・・・・



すると、勇示と目が合ったそれはうっすらと涙を流しているように見える。


ぐじゅぐじゅになったその顔からでた涙はまるで真珠のようにキラキラ輝いている。


目から涙を流したそれは、ゆっくりと唇を動かしている。あまりの微少な動きのため、勇示の目がそれに張り付いていなければ、それが動いているかどうかもわからなかっただろ。


あまりにも小さな動きだ。


「・・・・・」



なにをしゃべろうとしているのかはわからない。ただただそれは涙を流して勇示を見ている。


その時・・・・


勇示はありえない寒気に教われた。



勇示の唇はみるみるうちに紫になっていく・・・・


勇示の唇が紫になっていく速度に合わせるようにして、勇示の周りが白い光りに満たされていく・・・



どこか暖かくも感じる光りだ。



勇示の体がだんだん感覚を取り戻していく。



勇示は目を覚ました。


勇示は夢を見ていたのである。


勇示の目の前に慣れ久しんだフローリングがみえる。



勇示は布団に横向きに寝ていたようだ。


なぜだか泣いている。


勇示の目には涙が溢れていて、それがゆっくりと頬を伝い布団を濡らしていた。


「なんだこれ?」


勇示には泣いた感覚がなかったばかりか、なぜ自分が涙を流しているのかもわからない。


ただただ悲しい気持ちだけが心の底から込み上げてきて涙は止まらない。


・・・・勇示には夢の記憶がない。



しかし、なぜかとてつもなく悲しい気分だけが残っている。



夢のなかの出来ごとは、全く思いだせないが、なぜだかとてつもなく悲しい・・・・・



「どう言うことだ?なにも思いだせない。」勇示はなにがなんだかさっぱり分からない。


あの恐怖すらも記憶に無い・・・・


とにかく今は真夜中であると勇示の体内時計が告げている。


勇示は分けが分からないまま、再び眠りにつこうと無理やりに目をつぶる・・・・・


と、

勇示が目をつぶった直後・・・・・


勇示はとてつもない寒気に襲われた。


それは外部的な寒さではない。勇示の体内の背中のほうか、まるで雪を背中に入れられたような鋭くもある寒気が勇示の体全体を凍えさせる。


勇示は唇を震るわせる・・・・・・


おかしい・・・明らかになにかがおかしい・・・・・


勇示は原因を探ろうと、横向けで寝ている反対側を確認しようとする。


「!!!!!!!!!!」


「確認しては駄目だ!」勇示は動物的感覚であろうか、何故か後ろを確認することに恐怖を感じた。


何か(?)誰か(?)の視線を背中から感じるのだ。


普段生活している中でこんなにも背中から視線を感じたことは無い。


確実に何かがこちらを見ている。しかも、それは見下ろす感じの視線を送っている。


勇示は恐怖で頭が溢れそうになりながらも、頭の中の少しのスペースで後ろにあるものを考える・・・


勇示の後ろにはいつもなら、部屋の白い壁があるだけのはずだ・・・・


いつもなら・・・・・・・そう、いつもなら・・・・





しかし、勇示は気がついた。



それは、いつもは部屋にない何か。赤の他人が勇示の部屋に来てそれを見ても、不自然に感じないなにかだ。


勇示は寝る前にそれを、部屋の隅においやっていた。


そう・・・・・・・・・


静香から送られてきた意味不明なダンボール(ハコ)だ。




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勇示は自宅の前に着いた。目の前には鉄製の灰色の扉がある。


勇示は右のポケットから家の鍵を取り出し、ため息をしながら鍵を回した。そして冷たくなっているドアノブに手をかけると、カチャリと言う音と共に扉を引いた。扉を引くと、その反動で扉が扇(おうぎ)の役割をして勇示の顔に室内の空気を伝えた。


「様子がおかしい・・・・・」勇示は心の中で確信めいたものを感じた。


そう感じたのは扉を開けるなり部屋の中から冷たい空気が穏やかに勇示の顔を撫でたからだ。
今は6月27日なので7月に入ろうとしているこの時期にしてはおかしな温度である。むしろ、勇示を撫でたその風は団扇(うちわ)で送るどこか暖かみのある風とは違い、隙のないただ冷酷な感じの風だ。


部屋の中に目をやると、外よりも暗い闇が広がっている。勇示の部屋はワンルーム6畳で室内を区切る戸もないので玄関から見ると部屋全体が視野に納まるのに、目の前の暗い闇はまるで何処までも続く宇宙のようだ。そして、闇の中からはスースーと言う巨人の寝息のような音が聞こえてきた。


「あーーーーーーーーー!!!」


勇示は苦い(にがい)顔をしながら、またやってしまったと言う感じで声をあげた。


勇示は苦い顔のまま冷たい無限の宇宙へ足を踏み入れる。玄関を入ったすぐ横のキッチンを2歩で通り過ぎ、歩く動作の中で右の壁に付いている蛍光灯のスイッチを慣れた手つきで後ろ手にONにする。
室内はあっという間に宇宙から金魚鉢になった。そして、正面のベランダへ通じるガラス戸の左斜め上を見ると、スースーという一人ごとをたてながら室内を冷やし続ける冷房(クーラー)があった。


バイトに遅れると言う理由で慌てて出てきた勇示は冷房の電源を切るのを忘れていたのである。


「ん~この電気料金は痛いな・・・・」勇示はガッカリしながら呟く。


たった6時間程度の電気の無駄使いと思う人もいるだろうが、基本的にだらしの無い勇示はこういう事が多いのである。よって『散り積も方式』で勇示の電気料金は部屋にいる割合とを比較して考えると、普通の人の一人暮らしの電気料金よりは若干お高めになっているのである。
金が無いといいながら、このような無駄の多い生活をしていれば自業自得と言われても仕方がないように思える。それこそまさに美咲のような勇示の駄目人間度を諭してくれる人物が必要だと感じる。


勇示は左上のエアコンから目線を部屋の中央へと落とす。


「忘れてた・・・」勇示はボソっと疲れたように呟く。


そこには勇示の膝上ぐらいまでの高さのダンボールがあった。ただしそれはただのダンボールではなく『ゴミしか入っていなかった』という意味不明なダンボールである。しかしそれは勇示の散らかっている部屋にはゴミとしてちゃんと溶け込んでいる。赤の他人がこの部屋を見ると、おそらくこのダンボールの不思議さには気が付かないだろう。むしろ適材適所とも思えるかもしれない。


とりあえず静香にこの意味不明なダンボールのことを聞こうと勇示は思ったのだが、時刻は『23:40』。6月28日たった20分前である。
静香は夜更かしは美容に悪いといつも言っており、日付があと何分かで変わるこの時間にはとっくに寝てしまっているのである。


「せっかく寝ているところを起こして聞くことでもないだろう。」


そう思った勇示は、聞くのは明日にして床に着くことにした。


勇示は布団を敷くために、部屋の中央にあるダンボールをベランダに出るガラス戸の右側においやると、それとは反対側の隅にグジャっと丸まった感じで放置された布団を部屋の中央に広げる。
そして夜は汗ばむ程度に暑くなることを考え、ベランダの戸を開けて網戸にするとエアコンの電源を(忘れずに)OFにする。
その後で布団の上に立ち、蛍光灯から垂れる紐を下へ引っ張り暗闇を作ると仰向けになるように布団に体を沈めた。


バイトで疲れていたせいもあり、勇示は目を瞑るなりすぐに寝てしまった・・・・・・・・。



。。・・・・・オ・・*+`\ @>?+*=%・ヤ・・*+`)(>   ・・ス   ~=+* ミ・・`*+<、;*・ナ。。。*+`@{}*}$#サ・・・?>! ”#$%・・イ・・・ ・・・。。。。。。





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勇示は控室の扉を開け、厨房に入る。


「今日もよろしくお願いし…」


勇示が仕事をするさいに言う決まり文句を言い終わるか終わらないかのうちに、


「遅ーい!アンタはいっつもギリギリよね。5分前には仕事に入る!」


左手を厨房の銀色の作業台の上に置き、右手を腰にあてながら飽きれ顔でそう言い放ったのは、勇示と同い年(18)の千藤美咲(せんどうみさき)。


勇示よりは少し背が低く、胸のところまである長くて赤に近い茶髪をピンクのリボンでポニーテールにしており、全体的にほっそりとしている(スタイルがいいと言ったほうがいい)。そして、ここの制服と合間って、見た目美しいと言うよりかは可愛いかんじの女の子である。


「いーじゃねーかよ。別に遅れてる訳じゃねーし。」


勇示はうんざり顔で答える。


「なっ…、アンタ私に口答えするつもり!」


美咲は明らかに正論であったと自信のある注意言葉に勇示が突っ掛かってきたことにカチンときたが、


勇示を一瞬じっと見るなり


「まぁ…いいわ。今回だけはアンタに同情してあげる。」


美咲は片目をつぶり、腰にあてていた右手で顔を覆いながら視線を斜め下の床に向け、ため息をつくような感じで言った。


「同情って…」


勇示は美咲の言葉の意味が理解できなかったが、なんだか哀れみの目で見られた感じがしてこれ以上は言い返せなかった。


いつもであれば同情などされず、ギリギリでバイトに着いた下りから、勇示の私生活へのダメ出しをされるのである。


なぜだか今回はそれがない。


勇示にとってはダメ人間度をいちいち諭されるよりはむしろ今回の美咲の対応はありがたくも感じた。


「お前、今日はなんか優しいな。」


勇示は心の声を美咲に対してボソッと言う。


「なっ…、優しいなんて。」


美咲は勇示の思いもよらぬ言葉に多少顔を赤らめなが言った。そして、


「今回だけじゃなくいつも優しいわよ!」


そう言うなり照れを隠すかのように、語尾を強めにしながらプイッと後ろを向き、仕事に戻って行ってしまった。


勇示のバイト先は『ベントーヤ』と言う名前の弁当屋である。


なんのひねりもない超ストレートな名前の理由は、おそらくここがレストラン、喫茶店はたまたメイドカフェと勘違いしないようにだと思う。


そんなストレートな名前にもかかわらず、今だに喫茶店と勘違いしたのか、入店してすぐに出て行ってしまうお客さんもいる。


そう思わせるのも、オシャレなお店の外観、内装もそうであるが女性店員の服装の印象が強いのだろう。


ここの女性の制服は下は膝上までの白いソックス(ニーソ)と車(マシン)プリーツの付いた青と水色のチェック柄のミニスカートである。(ソックスとスカートの間の艶やかな肌色の太ももはなんとも魅力的である。)


上は半袖の白のワイシャツに胸より少し高い位置に大きめの蝶々結び型のリボンが付いている(リボンの色は何色かあり、ちなみに美咲は青)。


そしてその上からは、薄いピンク色の肩掛けエプロン。背中で一旦クロスして両腰のピンを通して結ぶタイプのものである。エプロンの胸元は蝶々リボンが覗かせるようにあいており、丈はミニスカートよりほんの少し短かく、腰の後ろで結んであるリボンは大きいものである。そしてエプロンの肩や淵には白のフリルがついている。


頭には三角巾みたいなものを付けており、飲食を扱うお店でありながら前髪を出すことになっている。


とにもかくにも機能性よりも見た目を重視した制服で、一言で言うと『萌え』を重視した感じのものである。


そんな感じなので、制服を見るついでにお弁当を買って行くお客さんもいる。


一方、男性の制服はというと下は黒の長いパンツ、上は体の左の胸元から縦に等間隔で3つのボタンが並ぶ長袖の白衣で、首襟から緑のスカーフを巻き、正面に垂らしている。そして頭には三角巾を付けるという感じである。


女性の制服は着替えるのに15分ぐらいはかかる(いちいち鏡で見た目をチェックしているからであろう)のに対して、男性の制服は勇示がそうであるように3分で着替え終わる(チェックする部分も少ないし勇示はいちいち鏡を見ないからであろう)。


そんなこともあり、バイト先には30分も前から来ている美咲にとって、仕事時間ギリギリに来ていつも間に合う勇示が鼻につくのも当たり前のような気がする。


と、厨房のコンロの前から声が聞こえてきた


「加賀、手を洗い終わったら鮭とタラコとツナのおにぎりを3個づつ作ってくれ。そのあと米を浸水しておいてくれないか。」


勇示に指示を出したのは勇示より3歳年上(21)の神城翼だ。今はフライパンを振りながら、注文のホイコーロ弁当を作っている。


翼は金髪で短い髪に鼻筋がしっかり通っており、整った顔つきをしている。勇示より背が高くすらっとしていて、世間一般に言うであろうイケメン属性である。ちなみに勇示と同じ大学の3年生でそろそろ就職活動でもしようと考えている。


そんな翼からだされた指示に「はい。」と二つ返事をし、勇示は翼の後ろを通り、奥にあるもう一つの作業台でおにぎりを作り始めた。


勇示はおにぎりを作るのはあまり上手ではない。綺麗な三角形になるように努力はしているものの不格好な形になってしまう。結局今日も例外はなく、いびつな形のおにぎりになってしまった。


こんなとき、勇示は心のなかで「まぁ、一生懸命に作ったわけだし、愛情はこもってるよな?なんかこんな感じのおにぎりでも、そうやって見るとなんだかこれはこれで成功な気がしないでもない。」と、なんの意味のない自己暗示をかけると、なんだかこのおにぎり達も可愛いく見えてくる。例えを上げるなら、幼稚園児が頑張って作った形はいびつだが可愛いおにぎりと言ったところか。そんな根拠のない自信を身にまといながら、ホールに並べてもらうために美咲のもとへ行く。


ここのお店は原則としてホールやレジの仕事は全て女の子にやってもらうことになっている。(可愛い制服をうりにするという経営戦略でもある)よって、厨房で作ったお弁当やお惣菜は女の子に全て出してもらうのである。当然、おにぎりも例外ではない。


勇示は自分の作った愛情入りキュートな(?)おにぎりをお店に並べてもらうため、レジに立っている美咲のもとへ持っていく。


「美咲、俺の愛情入りおにぎり達だ受けとってくれ!」


勇示はおにぎりを乗せたお盆を差し出しながら、なぜか変なオーラをだしながらいう。


「なによこれ。不格好なおにぎりね。」


美咲はためらうこともせず、あっけらかんと勇示の言葉に間髪入れずに答える。


勇示の根拠のない自信が一瞬にして崩れ落ちる。


「なっ…お前、俺の愛情入りおにぎり軍団達を………。」


勇示は子犬のような目をしながらいう。


「愛情ってなによ。野郎の愛情入りおにぎりに需要があると思ってんの?」


またもや勇示を一刀両断するストレートな言葉が返ってきた。勇示の後ろには『ガーン』と言う文字が似合いそうだ。


「お前っ。言い過ぎじゃねーのか!今まではお前に多少のツンデレ属性があるかもと期待をしてきたが、そんなツンツンじゃ需要なんてねーぞ!!お前はツンツンじゃーーー!!!」


勇示は悔しさのあまり、意味不明な文句を美咲に言う。


「なによそれ!だいたいね、このおにぎりを並べるのは私なのよ!この意味がわかる? つまり、途中で来たお客さんにはこれが私の作ったものと思われるのよ!」


美咲は勇示の変な言葉にカチンときたのか、多少強めの言葉でいう。


「そこのお二人さん。痴話喧嘩はやめなさいな。」


2人の言い合いを後ろで聞いていたのか、翼が呆れたように言う。


「痴話って…!だいたいこいつが…!」


美咲は顔を多少赤くしながら、人差し指を勇示に差し上下に振りながらいう。


傍から見ればこれは美咲のデレの部分なのでは?と思うだろうが、なぜだか勇示は「何なんだコイツは?」と言うジトーっとした目を美咲に向けている。


「おい、加賀。お前が一番ツンデレを理解してないんじゃないか?」


翼は爽やかな笑みを浮かべながらいう。


「翼さんまでそんなこと言わないでください!」


美咲はそういうなり下唇を噛みながら翼を見る。


「わるい、わるい。ただな、一生懸命作った加賀のこともちょっとは汲んでやりなさいな。」


翼がそう言うなり、勇示はキラキラとした目を翼に向ける。


それから翼は


「千藤は理解できないかもしれないが、不格好なおにぎりでも、可愛い女の子が頑張ってそれを作ったとなれば自然と需要は出るもんよ。ちなみに不格好であるという所がポイントな。」


翼は美咲を説得するような口調でいう。実際はどうなのかはわからないが、翼が言うと、不思議とだいたいのことは筋が通っているように聞こえる。それはまるで翼の鼻筋のようだ。


「そーだ。そーだ。」


そんな翼の説得にボケーっとしたアホズラで乗っかって、合いの手を入れたのは勇示だ。


「はぁ、しょうがないわね。今度はもっと上手に作りなさいよ。」


美咲はため息をつきながら言った。


「お前ももっとデレを身につけろよ。」


勇示はなんとなく言う。


「ドカッ!」美咲は勇示の左スネに蹴りを入れると、レジの横の扉を開けてホールへおにぎりを並べに行った。


「いってー(痛)!!」


と言うなり勇示は両手で左のスネを摩りだした。


出だし30分で三咲にスネを蹴られながらも、勇示はその後の仕事を淡々と真面目にこなした。
多少の忙しい時間はあったものの、翼の的確な指示のもと順調に時間が過ぎていった。


結局、勇示のおにぎりは翼の言った需要があったのかは定かではないが、ツナとタラコを一つずつ残し全部売れた。鮭に至っては完売したあと再び作りなおした4個も全て売れたのである。


この結果を見るなり、勇示は腕組みをしながら首を頷くように縦に振っている。


おそらくこの様子を見るかぎり、勇示のおにぎりは一生いびつな形のままだろう・・・・。ただしそれは、勇示の弁慶の泣き所が再び泣くことを意味している。


そんなこんなで、時刻は『23:00』


お店の閉店時間になり、勇示はそそくさと帰りの準備をして今度来るバイトのシフトを確認してから、翼と美咲にお疲れ様でしたと言うと店の正面の自動ドアから出て行く。


外はすっかり暗くなっており、空を見上げると少しばかりの星がしずかに輝いていたが、道路を行きかう車のヘッドライトは騒がしく光っていた。


勇示は自分のお腹の空腹感と車の音を感じながら、帰り道の途中にある2つの手動感知式信号機のボタンを押して、ひんやりとした夜風と共にゴミだらけの自宅に帰っていく・・・・・・・・


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ビリッ、ビリビリリ・・・


勇示は片手でダンボールを押さえつけ、もう片方の手でゆっくりとガムテープを剥がしていく。こうしなければ(押さえつけなければ)、あまりにも軽いこの荷物はガムテープの粘着力に負け、剥がすと同時にそれ自体が一緒に浮いてしまうのである。


ゆっくりとガムテープを剥がし終え、両開きの扉のようなダンボールの口を開き中身を確認する。


「・・・・・・、・・・・・・」


勇示の目の前には、何か入っていたであろう数枚の真空パックとインスタントラーメンの袋と、様々なレトルト食品の袋だけが入っていた。


いずれも中身だけが無い・・・


それは勇示の部屋のあちこちに散らばって捨ててあるゴミとなんら変わらない、いはば『ただのゴミ』であった。


「んだよこれ・・・・、食えるかよ」勇示は思わず、ボソッと小さな声でツッコミをいれた。


勇示にはこの中身の意味が全く分からない。むしろこの状況を理解できるものがいれば、そいつはサイコメトリーが使える者だけであろう。ただ一つ分かることは、これは静香の言った「とびっきり美味しいもの」とは真逆のただのゴミであると言うことだけだ。


当然、ただの大学生の勇示にはサイコメトリーは使えない。そこで取りあえず静香にこのとんでもな中身の理由を聞こうと、フローリングの上に置いてある(捨ててあるといったほうが正しい)携帯電話に手をかける。


ふと、サブディスプレイに目をやる『17:20』


勇示の顔からサーっと血の気が引く・・・。一瞬、勇示の時間が止まる・・・。


「ヤベーーーーーバイトの時間だ!!!!」勇示はあわてて叫ぶ。


勇示のバイト(弁当屋)は17時30分からである。普段はバイト先まで歩いて15分かかるので、17時10分に家を出て25分頃にバイト先につく。そこからバイトの制服に着替えをして28分と言うギリギリの時間帯でタイムカードを切るのである。この、家から仕事までのペース配分が勇示にとってのジャストタイムなのである。


しかし、今はそれを10分も遅れる時間である。勇示には静香に電話をする時間すらもったいない。


とにかく今は目の前の意味不明な問題よりも、リアルな目の前のタイムリミットの方が重大である。


勇示はそんなことを思いながらも、体の中から沸々と湧き上がるものがあった。


「このギリギリ感は!自分との戦いか!!」勇示は心の中で、わりとゲーム感覚に近い闘争心を燃やした。


なぜか楽しそうだ(?)


ゲーム的に言うと、勇示のステータスには『ピンチ○(まる)』だとか『ピンチになると強くなる』というスキルが付きそうだ。


しかし、ウラを返せばM(マゾ)ではないのか?勇示の反応はむしろ後者の方であると言ったほうが正しいように思える。


そんなM男は勢い良く部屋の中央から玄関まで行き、スニーカーのカカトを踏んづけたまま玄関のドアを押し開けドアの鍵をかけながら、トントンとスニーカー使用率100%(カカトを直す)にする。


M男の部屋はマンションの2階の3つ並んだ部屋のうちの角部屋(階段から遠いほう)であるため、鍵をかけ終わるとダッシュで階段の前まで行き、階段を1段飛ばしで下りて行く。


急いでマンションを出ると、50m走8秒後半ぐらいのわりと本気モードの走りでバイト先へ向かう。


勇示の家からバイト先までは3つの信号があり、わりと車の行きかいが多い。1つ目と3つ目の信号は車が多いわりに人通りが少ないため、歩行者用の信号は今では珍しい手動ボタン感知式の信号である。


普段、勇示が歩いてバイトに行くにはこの2つの手動感知式の信号のボタンを押す必要がある。たまに先にボタンを押して待っていたりする人がいるが、その人と同じタイミングで横断歩道を渡るにはあまりにも信号の青の時間は短かく、その人の青に便乗して渡れるのは稀なことである。


そんなことから、勇示はこの信号のボタンを押すたびに、もしこの信号が普通の自動のものであればバイト先まで15分もかからないであろうと思うのである。


しかし今回は幸運なことに、ボタンを押さずとも勇示が歩道を渡るときの信号はオールグリーンであった。



そんなラッキーも重なり、多分時間には間に合ったであろうバイト先である弁当屋の前に着くと自動ドアが開く。


ここで息を切らし不規則な呼吸を整えるため、一呼吸おいた勇示は店へ入るなり正面奥にあるレジカウンターの横の厨房へ続く扉まで早歩きで近づいていく。途中のガラスケースに入っているお惣菜やテーブルに置いてあるおにぎりには目もくれない。


勇示は「おはようございます。」と言う声と同時に厨房への扉を開けると、さらに奥にある控え室に向かい歩き出す。バイト仲間の挨拶の返答は勇示の耳には届かない。


控え室に入るなり急いで制服に着替えると、控え室の扉の横に置いてあるテーブルの上のタイムカードを切る。


ここで改めてタイムカードをスラッシュする為の機械のディスプレイにある時計をみる・・・・・『17時29分28秒』


「間に合った・・・・」勇示は安堵のため息をつく。勇示の息使いもだんだんいつも通りのリズムを取り戻していくと同時に、心の中で「急げば家から10分で仕事までありつけるんだな」と割とのんきなことを思った。


どうか勇示のこの心の声を聞けるものがいれば、是非ともこの男にその考えの駄目さぶりを諭してほしい。こういった人間はまた(どうせ10分前に家を出れば間に合うと言う考えのもと)同じようなをミスを犯すのだから。


信号が全て青であったことも忘れて・・・・・・・。


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勇示は玄関の扉を開けた。
そこには、片手では持ちきれない大きさのダンボールを両手で支えている宅配員がいた。


「ここにサインお願いします。」
宅配員は両手がダンボールでふさがっているため、首を前に出しながらサインの場所を指示する。


「お疲れ様です。」
勇示はそういいながら、サインをするため配達員の両手からダンボールを受け取る。


「え???」
荷物を受け取った勇示の第一声は疑問の言葉だった。


勇示の受け取ったダンボールが、フワっと勇示の手をダンボールにつけたまま数センチ上へ動いたのだ。それは不思議な力が働いたというよりか、予想外の重さに勇示の反射神経が混乱させられたかんじだ。つまり、荷物であるからには多少の重さがあると無意識のうちに覚悟しながら荷物を受け取ったのだが、あまりの軽さにその覚悟が空回りしたのである。
ちょうど、2人の人が綱引きをして片方が急に力を抜いたため、もう片方がふらつくかんじだ。


そう・・・あまりにも・・・軽すぎる。


ダンボール自体の重さしか感じられないのである。これに重さがある中身が入っているとはとうてい考えられない。入っているとしたら、それは物理法則を無視した何かである。


とりあえず床にそれを置き、サインをしてダンボールからサインをした紙をはがし宅配員へ渡すと、ありがとうございましたと言って宅配員は帰っていった。
玄関のドアがカチャリと言う音をたてて閉まる。


勇示はひんやりとした(クールで送ってきたため)空であろうダンボールを床から持ち上げると、かるく振ってみる。すると、カサカサっとダンボールの内側をこするような音が複数聞こえてきた。


とりあえずダンボールを持ったまま部屋の中央まで行くと、立ったまま足で万年床とでもいえる敷布団を蹴り、ダンボールを置く為のスペースを作る。敷布団の下から久しぶりな感じのフローリングが顔を出す。勇示はそこにダンボールを置いた。


そして改めてダンボールの外観に目をやると、張ってある紙には差出人『加賀静香』〒034-○○○○青森県十和田市・・・・・。分類『食品』と書いてある。
ダンボールには愛媛みかんと書いてある。おそらく静香がスーパーから貰ってきたダンボールがこれだったのだろう。


ザッと外観を見た勇示は中身を確認するために、ダンボールの口のガムテープに手をかけた。


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「金がないーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


そんな叫び声をあげながらアパートの扉を開けるなり、万年床とも言われるような敷布団の上に大の字になり、いまにでも我が一生に悔いはなしという昇天しそうなうつろな目で、天井の蛍光灯から垂れる紐を見つめているのは、大学1年生の加賀勇示(かがゆうじ)である。


勇示が金がないというのも、(月末になればいつものことだが・・・)ただの大学生がアパート代(6万8000円)と公共料金(5000円)をバイト代から払うとなるとキツイものがあり、なおかつこれから携帯代(約1万)を払うことを考えるとお金が底をつきはじめるのも当然のことである。


今日は6月27日。あと18日後の7月15日が勇示の給料日であることを考えると、残り18日間の食生活を保つ自信はまずない。一応あと約2万円はあるものの、サークルの飲み会や遊びのことを考えると、日ごろの食生活を削っていくしかないのである。


あまり綺麗ではない(むしろ汚いと言ったほうが近い)部屋で、そんな次の給料日までの大雑把な生活計画をかんがえていると・・・・・・


♪チャチャチャ♪ラララ~♪チャラララ~♪


と不意に、勇示の気分とは裏腹にテンポのよい携帯の着信音が鳴った。


勇示は仰向けにねっころがったまま、手だけを動かし右ポケットにある携帯を取り出し、目線の先までもってきて誰からの電話かを確かめる。


携帯のサブディスプレイには『静香』と表示されていた。携帯を広げ耳もとに押し付ける。


「母さんどうしたの?」勇示はそのままの姿勢で、どうでもいいような声で電話に出る。


『ゆうちゃ~ん♪さっき金がないーーーって叫んでたでしょ~♪』静香(勇示の母)はのんびりとした口調で、どこか気品をも感じられるような声で答えた。


「あんたはエスパーでも使えるのかよ」勇示は飽きれたように言う。


『またそんな他人行儀で呼んで~。母親っていうのはね~子供の心のさけびが聞こえるものなのよ~♪』ふんふん♪と静香は得意そうに言う。


勇示のアパートは東京にあり静香の家は青森にある。よって、勇示のさけんだ言葉を一字一句言い当て、しかもタイミングもぴったりと電話をしてきたことに普通の人間であれば驚くか、奇妙に思うのが当然である。しかし、勇示にとっては静香のそういうところは慣れているのであまり驚きはしないし、彼女の人間性をしる限りそれは奇妙でも不気味とも感じられないのである。


「で、なんの用なの?」


『うんとね~。ゆうちゃんが食費に困ってると思ってね~、昨日そっちに食べ物をダンボールに詰めて送っといたから、この電話が切れるころにちょうど届くと思うんだよね~♪ね、ね!助かるでしょ~』



「昨日送ったって・・・・・。あんたは予言もできるのか?」


『出来ないよ~。だってゆうちゃんは大体月末になるとお金がなくなるでしょ~。予言するまでもないよ~♪』


「う・・・・。それを言われると言い返せない・・・。」


『それじゃ~。この電話を切らないと荷物が届かないから、そろそろきるね~♪なかにはとびっきり美味しいのを入れておいたから期待しててね~♪もちろんクールで送ったから♪』


そういって静香は一方的に電話を切ってしまた。受話器にはツーツーという音がなっていた。


勇示は多少笑いながら、「それにしても電話を切らないと荷物が届かないとか、なんか言い方のニュアンスが微妙だよなー。そもそもそんなピッタリに荷物がくるなんてことがあるわけが・・・・」と、呟きが終わるか終わらないかというところで、


<ピーーーン、ポーーーーーん>  宅配でーす。


「ウソぉぉーーーーーーん!!!!!!!」


思わず一人でツッコミを入れてしまった。このときばかりは静香に未来予言でもできるのではないかとゾクっとしてしまった。


「それにしても・・・とびっきり美味しい物ってなんだろう?」


そんなことを考えながら、仰向けのしせいからグッと腹筋をつかい体を起こし、荷物を受け取るためにいくつかのゴミを踏みつけないように(実際にはあまり気にもせず)、玄関へ向かった。



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