それは僕がまだまだ幼くて
文字もきちんと書けなかった頃
お母さんは僕にいくつかの
レターセットを買ってくれた
どの便箋も封筒も僕には綺麗過ぎて
僕は僕の汚い字を書けなかった
だから未だにあるんだ
善きにつけ悪しきにつけ
僕は母からもらったレターセットを
大切に持っていた
便箋も封筒も残りわずか
僕はこのレターセットたちを
誰に宛てようか考えているところだ
いくら考えたって大切な人しか
浮かんでこないのだけれど
文字をきちんと書けるようになった
幼さが薄れてきた今の僕に
大切なことを大切な人に伝えられる
その方法は
幼い頃に母が教えてくれていた
最後の便箋と封筒に
緊張しながら気持ちを綴る
文字が震えていないか不安がりながら
そうやって何十年もかけて
ようやく完成した手紙
僕は郵便やさんに託すのではなく
今日これから自転車で漕いで
漕いで漕いで届けに行くのである
大切な人へ伝わるように
風を切って颯爽と漕いでゆく
早く届け
そう願って手紙を持って
僕はお母さんに手紙を届けに行く
(20120721)