追憶小説 桜の花びらたち

追憶小説 桜の花びらたち

AKB48のマジすか学園、ドラマ無印よりも過去の話を書いています

意見、感想は、いつでもコメントの方へ宜しくお願いします

ちなみに、ドラマは無印とだけ繋げていますので

他のシリーズ作品との繋がりはありません

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「支えるべき相手」




※この小説は、ドラママジすか学園の過去の話となっています
無印とだけ繋がっており
他のシリーズとの関連はありません
ラッパッパ創設編の続きになっていますので
ラッパッパ創設編をまだ読んでない方は
そちらのチェックからお願いします
※まるっと全てがフィクションです




戸島花2年生春編 第33話



〜前回までのあらすじ〜


小嶋を目覚めさせる為


精神世界の奥へと踏み込んだ戸島達


そこはラッパッパメンバーの記憶が混じり合う


危険で不可思議な場所だった



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黒い何かが竜巻きのように渦を巻きながら、見覚えのある風景を形成していく。芹那が目覚めた時、目の前でそんな光景が広がっていた。それがなにかを確かめるより先に、芹那の目は辺りを見回す。

「花さん、いないか。周りに誰もいないところを見ると、それぞれ別の場所に飛ばされたっぽいな」

誰もいない為に、芹那は少し大きな声でぼやく。ため息をついてようやく、黒い何かが作り出したものを一瞥する。

「これは八木女の体育館。小嶋がここに来たって話は聞いたことがないが、だとすると私の記憶か。なるほど、記憶を操る小嶋の中だから、私の記憶が私の足を鈍らせるって訳か」

かつて芹那が訪れた八木女の体育館。それを見ただけで、なにが起きているのかを即座に理解した。その上で芹那は、口許を楽しむように緩ませた。

「にしても、意地悪な記憶だな。この場面を私に見せるのか」

眼前に広がるのは、八木女の入山杏奈に呼び出された場面だった。迷い仲間と戦い、誘惑に耳を傾けてしまった自分。その背中に目を向け、次に記憶の芹那と対峙する入山を見る。冷めた顔に冷徹な目が、その奥に燃えるような野望を隠している。

「あんたがいたから、私は強くなれた。ラッパッパの一員としてな。チッ、また入山の顔を拝むとはな」

悪態と共に舌打ちをして、芹那は頭を掻く。見続ければここから動けなくなると察知し、無理矢理目を逸らした。辺りにはなにも見えないのだが、なんとなく芹那は歩き出した。

「さて、と。花さんと早く合流してぇが、待つのは性に合わねぇな。歩いてりゃその内会えるかな」

いつもは冷静に周りを見て戸島の脇を支える芹那だが、1人になると戸島のように暢気な思考へと変わる。

踏めるかどうかも分からなかった地面だが、芹那の脚は容赦なく前へ前へと進んでいく。この世界に脚を踏み入れて、戸島を最初に包んだのは不安だったが、芹那の場合は好奇心だった。久しぶりの単独行動であり、見たことも経験したこともない世界。気がつくと芹那は、走り出していた。

「私と追いかけっこでもしたいのか?」

走る芹那を追うように、例の黒い何かが迫ってくる。しかし、それらはまるで困惑しているような動きをしていた。それもそのはず、芹那は今自分が出せる全力で駆けている。黒い何かの手など届きようがないスピード、芹那の好奇心は脚を止めさせない。

「おいこんなもんじゃないだろ、この世界はなにもないのか?もっと私を楽しませろよ!」

高鳴る胸の内を高らかに叫び、ようやく芹那は脚を止めた。追いかけてきていた黒い何かが、遂にその姿も見せなくなった為だ。その刹那、視界の彼方になにかが見えてきた。再び歩みを再開してそれに近づいて行くと、段々と明瞭に見えて来た。

「マジ女か。今度はなにが待ってんだ?・・あ?」

「うおおおおおらァァ!!」

マジ女の校庭、そこには芹那以外の人間がいた。力の限りに叫び、大きく拳を振るう。獅子の咆哮を纏わせた学ランが、次々と現れる見知った人物の影を相手にしていた。

「クソ、なんだっつうんだよ。もう、なんで芹那の偽物ばっか出てくんだバカ野郎がァ!」

怒鳴りながら前蹴りを突き込み、横から迫るもう1人には獅子の咆哮。

「ぐッ!」

放った獅子の咆哮を紙一重で躱し、凄まじい威力の芹那の前蹴りが学ランの腹を襲う。吹き飛びながらも、体制を直す。瞬時に前を向くと、既に芹那の影は地を蹴っていた。戸島を彷彿とさせる速度の拳、学ランには見えていた。

「やべぇ、クソ!」

見切れてはいるが、連戦の疲れと先程の一撃のダメージが大きく、すぐには脚が動かない。あの拳は、一瞬で意識を奪うには充分。そして意識を失ってしまえばこの世界ではなにが起きるのか分からない、それを理解している学ランの頬を冷や汗が伝う。

「このままじゃまずい。クソッ!あれをやるしかねぇか」

「おらァ!」

叫び、先程の偽物を遥かに凌駕する蹴りを舞わせる芹那。偽物はモロに喰らい、乱回転しながら黒い影に戻っていった。

「芹那、お前」

「立て学ラン、気を抜くんじゃねぇ。そんなんで花さんの横に立てるのか?小嶋を救えるのか?こっから先まだ花さんの戦いは続くんだぞ、その時には私らが横で支えるんだぞ」

「・・・ケッ。言われなくても、分かってるよ!」

芹那の分かりやすい檄に、分かっていながらも学ランは乗せられてしまう。大きく叫び、今までの痛みを無視して立ち上がる。芹那は横目で確認し、嬉しそうに頬を緩ませる。

「お前が不覚を取るってことは、ただの偽物じゃねぇってことか」

「あぁ、強さは本物に近いな。それに次から次へと湧いて出てきやがる、どうする芹那。こいつら無視してみんなを探しに行くか?

「いや、そんな余裕は無さそうだ」

芹那の言葉に学ランは視線を辿る。黒い影が周りから凄まじい数が集まり、芹那と学ランを揺らす程の陣風を起こす。一度その影の集まりは、天を突くように縦に伸びて、徐々に形を収縮させていく。そこから更に凝縮していき、1人の人物へと変わっていく。艶やかに揺れる黒髪に、背で笑う髑髏と荊棘。それを覆う、漆黒のスカジャン。

「よう、そういやお前ら2人とマジで戦ったことはなかったな。芹那、学ラン

「ッ!花さん」

「マジかよ」

暢気に腕のストレッチをしながら、こちらに歩み寄る戸島の偽物。その顔は本物のように微笑み、喋り方声音も全く同じ。そしていつもは向けられることのない、戸島の本気の士気。2人には、かつて当てられた穐田の士気を思い起こさせる。

「お前らは、ここまでだ」

戸島から目を逸らさなかった芹那だが、気がついたら姿は消えていた。代わりに、至近距離から声が聞こえ、戸島の手刀が首筋に迫る。

「バーカ!お前を支える為にこんなとこで潰れちゃいられねぇんだよ、例え相手が花でもな」

「学ラン、お前」

戸島の本気の士気に気圧されていた2人だったが、学ランはいち早くその圧から脱し、白虎の士気を身に纏っていた。芹那に向けられた本気の手刀を、横から掴んで止める。止められて尚余裕の顔の戸島に向け、牙の如く拳を飛ばす。空気を裂くそれを、僅かな動きで戸島は躱す。学ランの手からスルリと逃れ、大きく跳躍して距離を取る。

「流石にお前らを士気だけで抑えることは出来ないか。しかし、白虎の士気か。厄介だな」

「うるせぇ、余裕のツラしやがって。本物みたいに、楽しそうに笑いやがって」

学ランの言うように、本物がする様に好戦的な笑みを浮かべる戸島。しかし、そう言った学ランも笑んでいた。その横で芹那は、見たことのない学ランの士気に驚いていた。

「隠し玉か、その姿」

「あぁ、個人的には好きじゃねぇがな。ここじゃなるべく使いたくはなかったが、花が出てきたらそうも言ってられねぇ。行けるよな?芹那」

学ランの問いに、芹那の眼光が鋭く光る。戸島の士気にももう怯んではおらず、握る拳はいつも以上に力強く感じる。

「あぁ、やるぞ学ラン」

「マジで来いよお前ら、2人纏めて相手してやる」

『上等だ!!』

弾けるように地を蹴る戸島、その速度に負けず駆ける2人。先に学ランのタックルが戸島を捉え、不可視の風に見切られ流される。芹那の前蹴り、裏拳で落とされた。再び芹那は蹴りを舞わせる。

「遅い!」

「ガハッ!」

芹那の蹴りを難なく躱し、戸島の肘鉄が胸を打つ。潰されるような重たい痛みが襲うが、堪えて拳を振るう。それすら躱す戸島に、白虎の牙が襲い掛かる。避けるには距離が近過ぎた為に、風を纏う。

「へッ、そう何度も同じ手を喰らうかっての!」

「ッ!」

風に絡め取られる前に、急停止する学ラン。虚をついた動きに、流石の戸島も目を丸くする。再び拳を構え直し、至近距離で白虎の牙が戸島を捉えた。モロに腹部に入り、途方もない衝撃が走る。そこに芹那が大きく踏み込んだ。

「そおりゃァッ!」

「ぶッ!」

リーチのある蹴りが、戸島の頬を蹴り飛ばす。力を込め、地面に叩きつけた。確かな手応えを感じたが、戸島ならばまだ立ち上がる。それを察知し、2人はすぐに倒れる戸島から離れた。予想通り戸島は立ち上がり、拳を構えた。

「ふぅー。やっぱ強いな、お前らは」

「結構強いのを叩き込んだつもりだったが、偽物でも戸島花には変わりないか」

芹那の言葉に戸島は答えず、代わりに黒い雷を拳に込めた。周りの空気を焼き焦がすように、戸島は駆けた。

「まだ、終わるなよ!」

言いながら、雷が舞う。その拳は雷鳴と共に、学ランの頬に迫った。それを的確に見極め、芹那が横から蹴りで軌道を逸らす。不発の拳の雷はまだ終わらず、また戸島は学ラン目掛け裏拳を放つ。白虎の牙で受け止めたが、衝撃が大きい。それを無視し拳を放つが、戸島には反応出来る速度。躱されたが、そこから間髪入れずに芹那が拳を飛ばす。当たりはしたが、戸島は余裕の表情。アイコンタクトを交わし、芹那と学ランは互いの位置を確認しながら戸島へと拳を飛ばす。

「おっと。コンビネーションか、想定外だッ」

学ランの拳が流されると、芹那が蹴りを飛ばす。それを受けられても、学ランのフックが迫る。入れ替わり立ち替わり、嵐の如く猛攻を繰り出す。流石の戸島も、捌き躱し流す防御に手一杯だ。再び雷を振り回されると、2人に対処出来る保証がない。それを互いに察知しており、戸島に拳を振るわさずに終わらせようとしていた。

『まだだ、まだ止まるな学ラン。攻め続ければいつかは崩れる!』

胸の内で叫び、学ランと呼吸を合わせ攻める芹那。必死な攻撃の間にも空気で察していた、学ランの白虎の士気が少しずつ弱まっていることを。それでも芹那と変わらぬ勢いで押す学ランの横顔は、攻撃をしている側にも関わらず苦しそうだ。

「ぐッ!クソ」

完璧に流していた戸島に、一瞬の綻びが見えた。そこを見逃さず、渾身の拳を腹に打ち込む。下がってきた戸島の頬を、一際鋭く研ぎ澄ました学ランの牙が打ち抜いた。

「おらァッ!!」

そこで終わらず、芹那は追撃の前蹴りを顎に喰らわせた。戸島の体は吹き飛び、校庭に崩れ落ちた。鮮血を口から吐き出し、胸を上下させて荒い呼吸をしている。

「流石に、効いたか」

同じく息も絶え絶えな学ランが、唸るように言う。睨みの鋭さを落とさない芹那は、横目で学ランを確認した。もうほとんど、白虎の士気を感じ取れない。ユラリと燃え上がる炎のように、戸島の体は起き上がった。

「あぁー、効いた効いた。やっぱ強い奴らと戦うのは楽しいもんだな。だが、お前らにゃ悪いがまだ倒れる程じゃないな」

いつもの笑顔の、戸島。芹那の眉間に、深く皺が刻まれる。

「クソ。味方なら頼もしいが、敵にまわすと死ぬほど厄介なことを今さら思い出したぜ。まだ行けるか?学ラン」

「正直、さっきのでほぼ全力出しきったぜ。分かってはいたけど、普通ならあれで倒れるはずだろ」

「文句言うんじゃねぇよ学ラン。あれでこそ、私らが支える戸島花だろうが」

漏れ出た芹那の言葉に、思わず笑う学ラン。

「それもそうか。限界超えて、初めて花をぶっ飛ばせるかもな。よっしゃ、もうちょい頑張るか!芹那!」

「おう!」

気合いを入れた2人を、戸島は優しく見つめた。戦うのが楽しくて仕方がないという風に、拳を握り構える。

「行くぞテメェら!!」

雄叫びをあげ、戸島は再び黒い雷を纏う。いつも以上にバチバチと音を立て、本気の戸島の拳は2人目掛けて放たれる。最早2人の目にも、こちらに突っ込んでくる戸島の動きは追いきれない程のスピードだ。

「畜生がァ!!」

思わず芹那は叫ぶが、それをかき消すように一筋の風が吹いた。

「あッ?」

見えなくとも反応しようと構えていた2人の前に、翡翠のスカジャンが揺らめいていた。

「あー、よく頑張ったなお前ら。後は先輩に任せなさい

「野呂先輩!」

黒い雷を、余裕の表情で野呂は掴む。誰にも囚われぬラッパッパの浮雲、記憶の世界にも風は吹き雲は揺蕩う。

「いつかは、マジのお前と闘り合いたいと思ってたよ戸島。退屈しそうにないからな







続く





〜次回予告〜


いつになくやる気の野呂


芹那、学ランのコンビと渡り合う


偽物の戸島を相手に


翡翠の風が吹き荒れる