シュレーディンガー著「生命とは何か 物理的にみた生細胞」を読んだ。とても面白かった。抽象的な話をいい具合の具体例で展開している。「分子生物学と呼ばれるものは、1953年にワトソンとクリックが遺伝物質DNAの分子構造模型を提出したのを決定的な転機にして生まれたというべきですが、その約10年前に出た本書は、分子生物学的な生物像の骨組みを今日なお古びてない仕方で示しています。」(p184;岩波新書版への訳者あとがきより)と評されているのもうなずけるくらい含蓄のある内容であった。

 この本を手に取ったのは、生物という学問にモティベーションを個人的に与えるにはどうすればいいのかと考えて、何か都合のいい本は無いかと探していたところで出会ったからである。これまで、生物学というのは場当たり的な、それこそ「図鑑に載っている生物一つ一つに名前を付けて、特徴を観察する」というようなイメージが強く、たくさんの「○○種学」や「○○部位学」があるようで勉強するとなるとペンを握っただけで疲れてしまっていた。読み終わってからも、その感を捨てきれないのはあるが、それでも「生物学」という一つの学問としてのモティベーションが見えてくるような気がしてきた。(あくまでも物理学者的な視点からの享受になっているが)。

 物理学者が生物を考察するときどういう観点で始めるのか、これを突き詰めるとやはり、自然法則と人間の意志みたいなものに行きつくのは想像できる。シュレーディンガーという巷でも有名な物理学者がこの議題にどのように思考を巡らすのか、これが気になる方は是非ご一読を勧める。