長安の南に、終南山という山がある。
その山の麓に、炭売りのじいさんがいた。山の木を切り出して炭を焼き、じいさんと同じくらい歳を重ねた老いぼれ牛に荷車を引かせて、長安の街へ炭を売りにくる。
もう何十年、こんな暮らしをしているのだろう。深い皺の刻まれた顔は、炭焼きの煙と灰で煤けており、頭も、両手の指も木炭で真っ黒になっている。
「人から見れば、何でこんなに苦労して炭焼きをやり日銭を稼いでいるのか、と思うだろう」と、当人である炭焼きじいさんは思っている。だが、そこは慣れたもので、じいさんにはこの稼業が合っているらしい。どうせ身に着けるだけの粗末な衣服と、口に入れる喰い物を買うだけの銭だ。それ以上、望みはしないし、望もうとも思わない。
ただ、日々の商売が無事にできればいい。無欲な炭売りじいさんは、そう思っていた。
季節は、まだ寒い冬。長安の冬は長く、厳しい。ところが、炭売りじいさんの着ているものといえば、夏に着るような単衣が一枚だけである。人が見れば、まったく気の毒な老人にしか見えないが、じいさんはそれを悲しいとも辛いとも思っていない。むしろ、もっと寒くなることを願っている。温かくなれば、炭の値段が下がってしまうからだ。
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