イリアス』の中の様々な人物や神々のイメージは、どれも生き生きとしています。アガメムノーンの傲慢無礼さ、アキレウスの自負心、ヘクトルの国と民を愛する心、オデュッセウスの賢さなど、読者の印象に深く残るものばかりです。

 

妻子への別れの挨拶(アプリア赤絵式陶器)、紀元前370年から紀元前360年ごろ。(パブリックドメイン)

 

ヘクトルが戦場に赴く前に妻子に別れを告げる場面では、家族との別れを惜しむ優しい一面を見せながらも、国家と家族のどちらかを選ばなければならないという心の葛藤も描かれています。

 

他国の王妃と財宝を強奪しておきながら、国家が大難に遭っても返還しようともしないという自己中心的で下劣なパリス、己の怒りのためだけが重要で、盟友や自国の利益や民の生命を全く心に留めないアキレウス、些細な利益のために盟友間の信頼を失った愚かなアガメムノン。これらの者に比べれば、ヘクトルは本当の英雄らしさを表し、勇猛に戦っただけでなく、私利私欲のために他人を害することもしない道徳的な人間でした。

 

「兵が天下を征服し、王たる者が国を治める」ことは、人類の歴史において永遠の主題です。

 

【続き】

 

 

【関連記事】