小泉八雲作の怪談に『』がある。遠江の国・無間山の僧たちが、梵鐘を造ることになった。檀家の女たちに頼んで、釣鐘の地金となる唐銅(からがね)の鏡の寄進をお願いした。鏡は姿を映すだけでなく、使用している本人の魂をも移し捕る。八雲もそのことに触れて記す。「昔のことわざにも、鏡は女の魂としてある」。それで古い青銅の鏡の裏面には、たいてい「魂」の一字が掘り込まれたのである。

 

寄進された鏡を鋳物師たちが溶かして一つにするとき、どうしても溶けない鏡が一面あった。無間に住む百姓の、年若き女房が奉納した鏡であった。このうわさは、村中に知れ渡った。件の鏡は女の本心から寄進されたものではなく、女の執念が固く凍り付いて溶鉱炉の燃え盛る火を拒んでいた。祖先から代々受け継ぎ亡き母の形見でもあった鏡は、百姓女の魂の思い出の一部となって、さ迷っているのだった。

 

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