遠い記憶の二月。詳しく言えば36年前の二月である。

 

あと少しで卒業する小学校教室に、西日が深く差し込んでいた。放課後の、かなり遅い時間だったので、廊下にも、教室にも生徒の気配がない。本当に誰もいないのだ。

 

そのためか、この記憶からは、一つの例外を除いて音が全く聞こえない。自分の足音さえ無音なのだが、確かにその中で、36年前の私が、誰もいない廊下を歩いてきて自分の教室に入った。何の用で教室に来たかは忘れた。机の中の物でも取りに来たのだろう。

誰もいないと思って入った教室に、自分以外の人がいた。

 

同じ学級の女子が一人。ただ、彼女の方は、入ってきた私にほとんど気づいていない。

 

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