大接心、一瞥を得る

 

老師、懸日を二度も殴りつける。そして三度目は? 

 

日々は早足で歩み去る。

 

 夏末に行われる大接心という専心修行の時であった。座禅が終わると、時を置かずに老師の部屋に出向いて、その境涯をお知らせする。日に何度も何度も、入れ替わり立ち替わりにである。

 

 作務も托鉢も雑用もなく、唯々それだけを繰り返す。全員が必死に公案だけに立ち向かうのだ。厳しい残暑にも関わらず、寺全体が、悟れ、悟れと大きくうねっていた。

 

 その日の、数えて三度目の入室だった。顕日はうなだれて廊下を渡っていた。殴られた頬が今もじんじん痛む。

 

 涙目になりながら頬をさする。一度目は見解を申し上げたとたん、無学老師に殴られた。二度目は見解を申し上げる前、敷居をまたいで老師に合掌した途端、老人とは思えない身のこなしの一撃を食らった。鳴きはじめたひぐらしの声が森を渡って、益々いたたまれなくなる。

 

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