ふと立ち寄ったコーヒーショップや食事をしていたレストランなどで、思いがけず日本の曲や歌が聞こえてくる時がある。
経営者は明らかに日本人ではなく、日系やアジア系でもない。店も日本人客が目当てではないらしい。そんな時、私はいつも嬉しさと懐かしさがこみ上げてくるのだ。
ずいぶん前のことだ。マンハッタンにあるレストランで食事をしていた時、坂本九さんの『上を向いて歩こう』が聞こえてきた。思わず私は、やって来たウェイターを捕まえて、「これは日本の曲ですよ。アメリカでは『すき焼きソング』って呼ばれて、一時とても流行りました」と教えてあげたのだが、年若い彼は全く知らない様子で、ポカンとして「そうですか」と答えただけだった。
それでも私は、この土地で懐かしい日本の歌を耳にして、少々興奮するほど嬉しかった。
上を向いて歩こう、涙がこぼれないように。
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