はすっかり年をとり、子どものように駄々をこねるようになった。電話では、いつもうれしそうに、「いつ実家に帰って来るの?」と聞いてくる。

 

 母の家は千里以上離れているうえ、3回も乗り継ぎをしなければならない。仕事や子どもの世話だけでも大変なのに、ましてや実家に帰るなんて・・・。耳が遠い母に私は根気良く説明するが、母は何度も聞いてくる。「いつ実家に帰れるの?」

 

 ついに我慢できず、私が大声を出すと、母は黙って電話を切った。何日か過ぎて、母はまた同じことを聞いてきた。しかし、今度はなぜか語調が沈んでいる。まるであきらめない子どものように、聞いてもだめだと分かっていても聞いてくる。私は心を落ち着けて、黙っていた。

 

 私が平静になると、母はうれしそうに実家のことを語り始める。「ねえ、裏庭のザクロはぜんぶ花が咲いているし、スイカも間もなく食べ頃なのよ。だから早く帰って来てね」

 

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