土いじりをすると手が荒れる──。家庭菜園を楽しむ人にしろ、プロの農業者にしろ、なぜか土に直接触れると手が荒れる。そして、そのことは当たり前のこととして一般に受け止められている。子供たちに農業体験をしてもらう企画がテレビ番組で紹介される場面でも、畑で種播きしたり、苗を植えたり、あるいは収穫するとき、子供たちはビニール手袋をはめたうえ、さらに軍手をはめて参加する様子が映し出される。いま日本の農地は、素手で入ってはいけない危険地帯になっているのだ。

 

Ushico / PIXTA(ピクスタ)
 
 

ほぼ毎日、自然農法の畑の土に触れている筆者の手は、荒れることなくすべすべしている。すでに園芸経験があり、ずっと手荒れに悩まされていたという人も、この農園で野菜づくりを始めると、「手が荒れなくなった」と驚いている。両者の違いにどのような理由があるのだろうか。とくに手荒れについて検証したことはないが、考えられる一番の原因は「肥料」だと推測される。

 

 

農薬」という可能性もなくはないが、かつて有機農業の現場で1年近く学んでいたとき、生産担当のスタッフたちは、例外なく手荒れに悩まされているのを見てきた。瑞々しい肌を持つ若いスタッフたちの両手の爪と皮膚がボロボロになり、痛々しかった。有機農業は農薬を使わない。つまり、肥料を投入した畑の土に直接触れて手が荒れていたのだ。そして、おそらく手荒れの本当の原因は、肥料を投入したことによる悪玉菌(腐敗菌など)の増殖によるものだろう。

 

 

2011年、初めは「食糧生産の手段」として自然農法の研究の道に入ったが、途中で微生物の存在と働きがとても重要であることが判明した。そして、微生物について詳しく調べていくと、土壌微生物は、農作物の成長だけではなく、私たち人間の健康に深くかかわっていることも分かってきた。

 

星道 / PIXTA(ピクスタ)
 

目に見えない微生物について、あまり良くないイメージを持つ人が多いのではないだろうか。たとえば病原性大腸菌O157、コレラ菌、腸炎ビブリオ菌などなど。そのほかにもコロナウィルス、インフルエンザウィルス、ロタウィルスといったウィルスたち。

 

現代社会は、危険を訴える情報があふれている。実際、目に見えないだけに、一度不安を感じてしまうと、その負の感情を払拭するのは難しいかもしれない。このように書いている筆者自身も、研究を始める以前は、微生物に良いイメージはなく、せいぜい腸内環境を整える乳酸菌など「ごく一部に善玉菌と呼ばれる種類がある」くらいに思っていた。

 

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