今春から東京電力福島第一原子力発電所では構内にタンクで貯められている処理水の海洋放出が行われる予定だ。廃炉と復興を進める上で避けられない取り組みだ。それにもかかわらず、10年近く水が貯められ問題になってきた。

 

「少数意見に当事者が配慮しすぎて解決できない」。この問題を観察すると、日本で繰り返される状況が見えてくる。

 

  「海に流す」は10年前から提案

 

私は福島第一原発を3回取材し、最後の訪問は2016年だった。その際、敷地が処理水を入れたタンクで埋め尽くされていた。訪問当時のタンクの数は約700基だったが現在は約1000基に増えている。タンクは高さ8メートル前後の巨大なもので、東電は明らかにしていないが建設費用は1基数億円と推定される。

 

この処理水は人体には無害だ。事故直後の原子炉の冷却のために使った海水、またその後に流れ込んで地下に漏洩した放射性物質に触れてしまった汚染水などを取り出し、放射線多核種除去設備(advanced liquid processing system、ALPS)によって放射性物質を除去したものだ。処理水と切り離すことが難しい放射性物質のトリチウムが残っている。しかし、この物質は人体に影響はなく、これも海洋放出時には国の定めた安全基準の40分の1(WHOの飲料水基準の約7分の1)未満まで希釈する予定だ。

 

この処理水については、同原発に接する海に放出するのが、もっとも簡単な解決策だ。これは10年ほど前から関係者の間で言われていた。しかし、なかなか実現せずタンクを建設し続ける手間と費用がかかってしまった。

 

【続き】