この地球に棲むあらゆる生き物は、遺伝子という設計図によって身体が作られている。一般にはDNA(ディーエヌエー)と呼ばれることもある。著名なスポーツ選手の子供が、やはり優秀な身体能力を持つとき、「親のDNAを受け継いでいる」などと表現されることがある。DNAや遺伝子という言葉からは、おそらく「カエルの子はカエル」という例えのように、親から受け継いだ遺伝的な特徴は、親が優秀であれば子も優秀であり、親があまり優秀でなければ子も優秀ではない」という漠然としたイメージが持たれているかもしれない。

 

「両親はともに運動が苦手で走るのが遅かったから、子供である自分が走るのが遅くても仕方がない」。少し前までは、こんな言葉に対して違和感を持つ人はほとんどいなかっただろう。ところが、遺伝子の研究が進んでいるいま、親から受け継いだ遺伝的な特徴は、環境でいくらでも変えられるということが明らかになってきている。実際、凡庸な両親から頭脳明晰な偉人が生まれたという場合には、「トンビがタカを生んだ」と表現されることもある。親の特徴は必ずしも子供に受け継がれるわけではないことは、昔の人々も少しは理解していたようだ。

 

しかし、時代は大きく変わっている。いま遺伝子やDNAという言葉を使うとき、親から受け継いだ特徴とは関係なく、意図的に隠れた才能を芽吹かせ、伸ばすことが可能であると考えられているのだ。そんなことが本当に可能であれば、この世に生まれてきたすべての人間が、思い通りに幸せに生きることができるかもしれない。実際、私は自然農法によって作物を育てているが、遺伝子の最新研究を裏付けるような事実をいくつも見てきている。そのことも踏まえて、遺伝子の可能性についてお伝えしようと思う。

 

少し言葉を整理すると、DNAは遺伝子を構成する物質を表していて、DNAのうち遺伝情報を伝える部分を遺伝子と呼ぶことが多い。地球にはたくさんの種類の生き物がいる。微生物に始まり、魚介類などの海の生物、植物、昆虫や爬虫類、哺乳類、鳥類など。それぞれ固有の遺伝子を持ち、遺伝子がそれぞれに特徴的な身体を作っている。人間にも遺伝子があり、おもに医療面で研究が進んでいる。その研究の過程で、驚くべき事実が判明した。

(つづく)

 

横内 猛 

横内 猛

自然農法家、ジャーナリスト。1986年慶応大学経済学部卒業。読売新聞記者を経て、1998年フリージャーナリストに。さまざまな社会問題の中心に食と農の歪みがあると考え、2007年農業技術研究所歩屋(あゆみや)を設立、2011年から千葉県にて本格的な自然農法の研究を始める。肥料、農薬をまったく使わない完全自然農法の技術を考案し、2015年日本で初めての農法特許を取得(特許第5770897号)。ハル農法と名付け、実用化と普及に取り組んでいる。 ※寄稿文は執筆者の見解を示すものです。