それは、私がまだ会社で働いていた頃の話である。

雑誌を眺めていた私は、あるページにくぎづけとなった。

それは、「試写会&すてきな出会い(ケーキ付き)」という、何がメインだかよくわからん企画の記事であった。

しかもそれは参加費無料であるという。

その当時、彼がいた私は「すてきな出会い」という項目には全く眼中に入らず、ただ試写会とケーキのみにひかれ、その「試写会&~」に申し込んでしまった。

私がすてきな出会いのある試写会に行くことが、彼の耳に入ったら面倒だと思い、1人で行くことにした。

私はもともと買い物や映画も1人で行っても平気なタイプであるので、その「試写会&~」に1人で行くことについても、特になんとも思わなかった。

 

そして、その「試写会&~」に行く日を迎えた。

私は会社を定時に退社して、会場のある新宿へと向かった。

 

たどり着いた会場は、西新宿の高層ビル内にある大広間であった。

そこには、結婚式の披露宴会場のように丸テーブルがいくつか並べられていた。

参加者は、来た順に前のテーブルから着席するようであった。

すでにほとんどのテーブルには、男女が座っている。

さて私の席は?と思い、係員に指定された自分の席を見た瞬間、私は思わず固まってしまった。

このテーブル、全員女だ…。

どうも参加人数が女性の方が多いらしく、時間ぎりぎりに行った私のテーブルはすべて女性になってしまったらしい。

ケーキにひかれてやって来たのは、女の方が多かったというわけだ。

別に私は「すてきな出会い」を期待してたわけではない。

それでも、これじゃあおもしろくないなあと思い、他の席の男を物色。

ところが、ここにいる男どもは、これじゃ女だけの席のがマシ、というレベルであった。(ひでー女だな、私って。)

 

気を取り直し、私はケーキと試写会に期待することにした。

テーブルのケーキを見て、また固まった私。

小さい…。

これじゃ、口のでかい私など、一口で食べ終わってしまう。

同じテーブルの女性は、

「何、このケーキ?私、バイキングみたいなケーキ食べ放題かと思ったのに。」

と言って怒っている。

こいつもかなりの勘違い女である。

ケーキは小さいが、紅茶はおかわり自由だったので、紅茶をおかわりしてがばがば飲みまくってやった。

次は試写会かと思いきや、そう簡単に映画は見せてもらえない。

 

次に、司会者は、

「皆様、次はゲームをして楽しみましょう。」

と予想もしなかったことを言い始めた。

「それでは男女ペアになって、このようにしてみましょう。」

そう言って始めたゲームらしきものは、どう見ても「おちゃらかほい」にしか見えない。

私のテーブルには女しかいないので、しかたなく隣の女性とペアを組み、その「おちゃらかほい」みたいなゲームをはじめた。

何が楽しいのか、全くわからない。

ペアの女性もそう思っていることは、容易に推測できる。

 

ふと他のテーブルに目をやると、オタクっぽい男が、

「イエ~イ!俺の勝ちだー!」

と言って、両手を振り上げている。

あいつとペアにならなくてよかった、と胸をなでおろしたのは言うまでもない。

 

つまらないゲームも終わり、やっと試写会の時間になった。

試写会もその丸テーブルで見るらしい。

結婚式の披露宴で、ビデオや幼少の写真をスクリーンに写すことがあるが、そんな感じである。

映画の題名は「ジャングル・ブック」(実写版)であった。

もうちょっとマシな映画にすればいいいと思うが、タダなので文句は言えない。

私は、「ジャングル・ブック」は、ディズニーのアニメで見たことがあるような気もするが、ストーリーは良く覚えていない。

 

そうしてようやく待望の映画が始まった。

映画の内容は、無料であることを考えれば、まあまあおもしろく、「来て正解。」と思ってしまうほどであった。

 

でもその会場、冷房が効きすぎて寒い。

何人かの女性が、寒いと係員に言っているにもかかわらず、冷房が弱くなる気配はない。

「すてきな出会い」で、熱気むんむんであるとでも思われているのだろうか?

「おちゃらかほい」で、熱気どころか、一気に冷めたというのに…。

 

映画の最中、会場が異常に寒かった為か、私はトイレに行きたくなってきてしまった。

それもすべて、意地汚く、おかわり自由の紅茶をがばがば飲んだせいだ。

トイレ行こうかなと思うものの、出入り口には係員が立ってるし、この場で席を立つと非常に目立つ。

どうもその場にはトイレに行きにくい雰囲気が充満していた。

そんな風にトイレのことばかり考えてたので、途中から映画のストーリーも頭に入らなくなった。

トイレ行きたきゃ、さっさと行けばいいのに、うじうじ悩んでいるうちに、そろそろ映画も佳境に入ってきたようであった。

 

もう少しで終わりだ。

我慢できそう。

と思ったのもつかの間、もうすぐ終わると思っていた映画はなかなか終わらない。

相変わらず冷房はがんがん効いているし、私の膀胱も限界が近づいてきている。

映画の主人公がどうなろうとかまわない、もうラストはどうでもいいから、早く終わってほしい。

そのとき、私の願いはトイレに行くこと、ただ1つであった。

 

そして、とうとうクライマックスかという瞬間、私の我慢は限界に達した。

もうじっとしていることもできないほど、私の膀胱は切羽詰まった状況であった。

カバンを抱え、猛ダッシュで出口から廊下に出てトイレへ直行。

もう頭の中はおしっこのことしかない。

やっとたどり着いたトイレで、おしっこを放出。

ああ、助かった。

 

…と安心した私、さっきの会場に戻る気がすっかり失せてしまったのである。

今から戻っても、映画は終わってるかもしれない。

それに、そんなタイミングで戻ったら、その場にいる観衆に、

「あいつ、肝心のラストシーン、見れなかったでやんの。バカだー。」

と思われてしまうかもしれない。

恥を覚悟で会場に戻っても、最後にヘンな資料とかカタログを配られる危険性もある。

それどころか、また何か始まったら嫌だなと思った私、そのままトンズラして帰ってしまったのである。

 

「すてきな出会い」はないし、ケーキは小さいし、映画はラストが見れなかった。

この「試写会&すてきな出会い(ケーキ付き)」、何一つ収穫がなかったように思う。

膀胱は破裂寸前になるしさ。

もう2度とこんなの行くもんか。

…とすっかり惨めな気分になった私。

 

そんな私に、西新宿のネオンと夜風は優しかった。

 

 

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