

「どや、捨てるもん決まったんかいな」
突然、いか様が何の前触れもなく私の前に現れた。今日も特別やることがない私は、昼間からパソコンで趣味に興じていのだが、あまりの急な登場に不覚にもあたふたと慌てた様子で画面を閉じた。
「い、いか様、なんやねん。普通は登場するときって何かの予兆か予告音でも鳴らすもんやろ」
「あほう。魚群予告でも出したらええんかい!・・・ん?ちょっと待てよ。なんか今えらい慌てとったな」
私は一瞬パソコンの方に不自然と目をやった。
「お、おう・・・ちょっとパソコンで調べもんしとっただけやん」
さすが神様、私の不振な動きを感じ取ったと思えば、何本あるか分からない粘着質の足を引きずりながら体をくねらせ歩み寄ってきた。
「なんやなんや。調べもんやったら続けとったらええやないか」
「いやいや、別に大したもん調べとらんし・・・」
「おうおう、なんか怪しいのう。さては・・・」
いか様は不敵な笑みを浮かべ私に詰め寄った。
「さては・・・」
「な、なんやねん」
「さてはイカがわしい動画でも観てたな、この中年おやじ。ガハハ」
いか様は、右端と左端の足をまるで両腕のように腹を押さえて大笑いし始めた。さすがの神様も私がしていたことまでは水槽からは見えていなかったようだ。
「は?違うわ」
なぜか私は強がった。その強がりがいか様の表情を険しくさせた。
「ん?じゃあ何やっとってん」
「だから、ええっちゅうねん」
いか様の前足2本(どれが前足かは定かではないが・・・)が私の体を押さえつけ、別の前足でパソコンの画面をこじ開け、強めの口調でこう聞いてきた。
「おい!何やっててん」
「別にええやろ」
「何やねんこれ・・・水遊びの映像か?」
私は2秒ほど言葉に詰まったが、「水遊び」の一言で、もしかしたらいか様は人間界の遊びを知らないかもしれないと良いように勝手に解釈し、粘着質の足を振り払い得意げにこう言った。
「そうや。こうやって水を眺めるんが気持ちを落ち着かせる効果があるんや」
「ふーん・・・」
妙に納得した表情に変わったいか様。
だが次の瞬間、鬼のようなイカれた顔つきに変化してこう言い放った。

「競艇やっとったんやろがーーー!!」
「な、なんや・・・知っとったんかいな。引っ張らんと早よ言うてや」
「この、イカれ野郎が!!」
どうしても「イカ」のワードを絡ませたいようだ。
「いやいや、これは唯一の趣味で・・・。ほんま数千円ほど遊んでるだけやから」
いか様の表情がまるでタコのように真っ赤に変化する。
「おどれ、何様や。ギャンブルしてる立場かいなお前はっ!!」
罵声とともに私の顔にいか様のツバが飛び散る。ん?これはツバなのか・・・なにやら黒く生臭い液体だ。
(やばい・・・スミだ。こんな所でイカスミなんか吐かれたらたまったもんじゃない・・・)
そう思った私は慌てて、
「いか様、すんませんでした。本当にすみません」
「・・・」
「いや、本当に、ちょっと魔が差しただけで・・・」
「・・・」
「だから、あの、その・・・あっそうや!捨てるもの決めたんで、その話しましょ」
「あかん。ワシも色々とは話すこと考えとったんや。でもな、お前がイカのスミにも置けん奴やとよう分かったわ。何を捨てるだと?まずはギャンブルやる習慣を捨てい!」
「ギャンブル言うてもホンマにちょこっとしか賭けてないねん。パチンコも1パチしか最近やらへんし・・・」
駄目だ。いか様の表情がタコの赤色を超え、赤紫色へと変わっていく。
「あほんだら!金額の問題ちゃうねん。ギャンブルは金よりももっと大切な物を失う。何か分かるか?」
「分かりませんっ!」
「そ、即答やな。ちょっとは考え!ええか、ギャンブルで失う大切な物、それは『時間』や」
「はあ・・・」
「人間の寿命は昔と比べて延びた言うても、日本の男の平均寿命は81歳や。お前、ちょうど折り返しの年齢やろ。人間の時間はお金には変えられへんのや。人が死ぬ前に一番悔やむものは何か知ってるか?『ああ、金残してもうたわ。もっと使っときゃよかった・・・』なんて思わんからな。皆が悔やむのは『あの時、もっとこうしておけばよかった・・・』時間を悔やむんや」
いか様は、アゴをさすりながら続けてこう言った。
「ところでお前、本田宗一郎は知ってるやろ」
「はい。世界のHONDAの本田宗一郎ですよね」
「そうや。Mr.本田はな、時間についてこう言ったんや」

「分かるか?お前、この前、成功したいって言うとったやんなあ。俺の聞き間違いか?」
「いや、確かに言いました」
「ほならなんで時間を大切にせんのや。時間を有効に使うどころか、ギャンブルは時間をドブに捨ててるだけや。住之江の池に捨ててるだけや」
「確かにギャンブルはやめようとしたことは何度もあるんです。でもなかなかギャンブルから足・・・ゲソを洗えなくて」
ちらっといか様の顔を見た・・・少し笑いをこらえているようだ。そしてこう話した。
「わしもな、金も時間も余ってる奴がギャンブルするのには何の文句もあらへん。それと本気でパチンコをビジネスと考えて取り組んでる奴もまあまあ良しとしよう。でもな、今まで見てきた成功者の中で日々ギャンブルで時間と金を無駄にしてきた奴はおらんのや。」
「はい。そうだと思います。俺の周りでも競艇やパチンコにはまるのは大がい金のない奴らばかりです。」
「そやろ。ギャンブルは自分の大切な物を捨てる行為なんや。ヒロユキもこんなこと言うてるぞ」
ひろゆき「パチンコやる人ってバカなんですか?」 メディアが報じない、パチンコ業界のリアル
「いか様・・・!!」
私は、いか様の前に思わずひざまずいた。いか様は、無言で私をそっと見下ろしている。
「・・・・・・・・・・」
「俺・・・ギャンブルやめたいです・・・」

いか様は、私に優しく語るようにこう話しかけた。
「そうや。たった今からやめるんや。ただな、俺も今までバカとまでは言わんけど色んなアホを見てきて、やめる言うてやめられへんかった輩がぎょうさんおるんや。だからな、ギャンブルとはいかに金と時間を失う愚かな行為だってことをしっかり理解せなあかん。」
「そうですね。それが理解できればキッパリやめれかもしれません」
「その為には、ギャンブルがいかに馬鹿らしいかをお前に分からせなあかんな。・・・にしても、なんでこんな当たり前の事をレクチャーせなあかんねん。ホンマはもっと他の話せなあかんなと思うとったのに・・・」
いか様は呆れ顔で深くため息をついて、私の顔を蔑んだように見下ろした。
「すんません・・・よろしくお願いします」
「しょうがないな。じゃあ、今から説明するわ」