伊藤甲美・妻に宛てた感謝と気持ち
昭和十九年五月三日 マリアナ島にて戦死 享年26歳
季代子 こう呼びかけるのも最後になりました。短かかったけど優しい妻でした。
有り難く御礼申し上げます。まことに奇しき縁でしたけど、初めて幸福が訪れた様な
気がして嬉しく思っていました。
折角永遠の誓いを致しながら最後になりますのは、何かしら心残りですけど、
陛下の御盾として果てる事は、私にとりましても光栄と存じます。
短い生活で、もう未亡人と呼ばれる身を偲ぶとき、申し訳なく死に切れない苦しみが
致しますが、すでに覚悟しての事、運命として諦めて頂きたいと思います。
若い身空で未亡人として果てる事は、決して幸福ではありませんから佳き同伴者を
求めて下さい。私は唯、幸福な生活をして頂きますれば、どんな方法を選ばれませうとも
決して悲しみません。
さようなら季代子、何一つの取り柄のない夫を持って、さぞ肩身の狭き思いでありませう。
至らない身、お詫びを致します。
いつの日か幸福な妻にさして上げたく思いながら、その機会もなく心残りでなりません。
どうぞ御健やかにお暮しくださいます様、お祈り致してます。
さようなら。