Wild Flowers ~エミルクロニクルオンライン-ファンブログ~

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Wild Flowers Case1  ~ 剣と盾 ~


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  Wild Flowers
   Case1  ~ 剣と盾 ~

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場所は東アクロニア平原。
PT広場に1人のドミニオンの少女が座っている。

白の軍服に身を包み、青いブーツと腰に携えた鎧通しが
その少女がソードマンであることを認識させる。
周りには大規模なリングやPTなどがあふれかえっている中、独り
ぽつんと佇んでいる姿は、少し寂しげに見えるかもしれない。

???:「PTいいかしら?」

不意に少女に掛けられる声。
声の主は赤白い鎧とブーツを身に纏ったエミル族のブレイドマスター。

少女:「え??は、はいっ!よ、よよよ、喜んで!!」

あたふたと動揺する少女。
それもそのはず、その少女はそれなりの強さを持つ
剣士でありながら、PT経験はほぼゼロに近かった。

ドミニオンという種族柄、他の種族……エミルやタイタニアからは嫌悪の眼を
向けられることも数多い。特にタイタニアとはほぼ犬猿の仲とも言える程の仲
の悪さを誇るため、PTを組んで狩りに出るということを避けてきたのかもしれない。

そんな中、巡って来たPTでの狩りのチャンスだ。
自分のほうが経験や戦闘力では劣るかもしれないが、そこはそれ、
多少の差はカバーできるだろうと思い、たどたどしくも二つ返事でOKを出した少女だったが……

相手のブレイドマスターの冒険者ライセンスを見た時に、自分の認識が甘かったことを痛感した。


NAME:御剣 彩
BASELV:69
JOB:ブレイドマスター
JOBLV:35


少女:「あ、あの……とてもレ、レベルがお離れになってるようなんですが……。」

彩:「あら?いいのよ。剣士さんが一人欲しかったのだから。……それとも私と組むのが嫌になってしまったかしら?」

そんなことはない。
ただ、すこし……いや、かなり恐縮しただけだ。

彩:「問題ないならライセンスを見せていただけるかしら?PT登録を済ませてしまいましょう。」

そう言われ、ライセンスをおもむろに取り出し、彩に見せる少女。


NAME:荒垣 華維
BASELV:41
JOB:ソードマン
JOBLV:42


彩 :「荒垣はいいとして……これは……"かい"と読めば良いのかしら?」

華維:「はい。宜しくお願いします!」

彩 :「そんなに力まなくていいのよ?……改めてはじめまして。御剣 彩(みつるぎ さい)です。よろしくね。華維ちゃん。」

華維:「ちゃ、ちゃん……。」

彩 :「さあ、いきましょうか。胸アクセに憑依してね。華維ちゃん。」

そう言われ、はっと気付く。


そういえばどこに行くんだろう???


華維:「あ、あの御剣さん。」

彩 :「あら。彩でいいわよ?」

華維:「じゃあ……彩さん!あの……えと、どこに狩りにいくんですか?」

彩 :「あ!御免なさい。まだ行き先を言ってなかったわね。」

その後、彩はこう続けた。


"サウスD3Fへ行くわ"


華維:「いやいやいやいや!あの、私、ノーザンレベルでも少し辛いんですが……。」

場所はサウスD3F。

先ほどからひたすらに、ドミニオン背徳者と呼ばれる怪物を彩と華維は倒し続けている。
彩の目的はドミニオン背徳者が時折落とす「聖者の涙」を採取すること。

もちろん群がる怪物は全て手当たり次第に切り捨てている。

対する華維は胸アクセサリーの中からソードディレイキャンセルを彩に絶え間なく掛け続けている。
撃っても問題ない状況になった時だけ、居合いやスタンブロウ等を中からたまに放つ程度だ。

華維:「……なんか……役立たずっぽいね。……私。」

洗練された際の動きを見れば見るほど自分の力のなさを目の当たりにし、ひどく暗い気分になっていく。

彩の強さは身体能力や、スキル自体の強力さとはまた別の次元にあることが、中から見ているとよくわかるのだ。
力任せに降られる剣とは次元の違う技、周りを見渡す視野の広さ……そして、危機回避力。

華維:「回復SUなしでも……これだけ戦えるんだね……。」

華維は心の中でそっと呟いた。


華維:「(もっと……体裁きも……練習しないとな。)」


そうすればまた違う世界があるかもしれない……

彩はたまたま自分のリングのリングメンバーの都合が付かなかったから、
軽い気持ちで平原に座っていた華維を拾っただけだった。
それがサウスDで狩りをはじめた後は、宝くじの1等を引き当てたような嬉しさを味わっている。


彩:「(まさかここまでデキる子だとは思わなかったわね。)」


通常、憑依して戦うことの少ないF系というのは、憑依という状態になった時の対応に
慣れていないものなのだが、華維に限ってはそれは全く当てはまらなかった。

彩が使ってほしいと思うタイミングでしっかりディレイキャンセルを使ってくれるし、
複数の怪物達に囲まれている時には居合い、スタンブロウ等のスキルは言わなくてもきっちり止める。
当たり前のことに見えるが、本番に1発でキメるのはひどく難しい。
平原で見たときもかなり鍛えている印象を受けたが、恐らく根本的な頭の回転速度が周りと違うのだろう。


彩:「(このまま成長していったら……どんな風に化けるのかしら……。)」


正直彩は今のアクロニア大陸の剣士の事情をあまり快く思ってはいない。
力任せの剣戟、回復まかせの特攻……。

自分たちの力は道を切り開く剣であると同時に、仲間を守る盾であるはずなのに……。
もしかしたらリングメンバーと都合が付かないのも、自分の溜まっているその不満がにじみ出ているからなのかもしれない。
そんな時、彩は自分のほぼ理想とすべきものを持った幼い剣士と先程出会った。

彩:「(こういう子もいるのなら……案外この先の未来も、捨てたものではないのかしら?)」

そう思いながら太刀を振るった刹那、"ガキンッッ!"という鈍い音と共に彩の得物が砕けた。

華維:「困りましたね……。」

流石に華維の片手剣では彩のもつ重厚な両手持ちの太刀の代用にはならない。

彩 :「聖者の涙も集まったし、そろそろ戻りましょうか。」

華維:「いいんですか?」」

彩 :「ええ。新しい剣を作るから……ちょうど良いかもしれないわ。」

華維:「はあい。」

太刀を収め、火場から闇場の方へ、足をすすめていく。
出来るだけ、戦闘は避け、やむを得ない場合のみ、華維のスタンブロウで
足止めした後、彩が折れた太刀の鋼鉄の鞘でなぎ払い殲滅していく。
正直2人とも辛いという感想なのだろう。
口数は極端に減り、一刻も早くここから去りたいと言う気持ちが募っていく。


闇場に足をすすめ、危険領域を脱したと感じたその瞬間、背後から背負い魔の
移動支援を受けながら爆走するアサシンが闇場につっこんできた。
そしてアサシンの走り去った後にはあらゆる怪物という怪物が二人の前に残された。


華維:「ど、どうしましょ??」

彩 :「はあ。……まったく、迷惑なアサシンね。」

華維:「とりあえず……外でますね。」

彩 :「え?ちょっと、華維!?」

彩の承諾も得ずに華維は憑依解除、近い場所にいる怪物にスタンブロウを掛けていく。

彩 :「華維!?ここには詠唱反応の怪物もいるのよ?」

華維:「もうここまで来たら、全部倒すしかないじゃないですか!倒せなきゃ死ぬだけですよ。」

彩も唖然とするようなことも平気で言ってのける華維。

華維:「とりあえず片っ端から殴っちゃってください。スタン切れちゃうんで!」

彩 :「わかったわ。」

彩の持つ鞘では相手を気絶(スタン)させることはできないため、華維が敵の足を止め、彩が戦うという役どころになった。

"いける"


華維はそう思った。
怪物の詠唱を開始する時の癖が手に取るようにわかる。
避けるコツは逃げるのではなく、怪物に対して間合いを詰め、相手の詠唱の機会をつぶすこと。
そして、密着状態で相手が上手く攻撃できないうちに、急所に攻撃を打ち込み、気絶させる。

先ほどまで憑依していたお陰で身体的な疲労は華維にはない。
限界以上に動き、避け、一撃を加える……それを繰り返していく。

綱渡りをするような動作だが、華麗に、そしてスムーズにこなしていく。
自分もお荷物じゃないと……そう誰かに訴えるような動きだ。


眼前の怪物の詠唱の動作を見た瞬間に怪物側に勢いよく飛び出す。
だが、飛び出した刹那、その怪物の後ろにいる羽つき(ドミニオン高位背徳者)の歪んだ笑みが華維の瞳に飛び込んだ。

華維:「(ああ。……マズったなあ。)」

そう思った瞬間、華維のいる空間を黒い棺が飲み込んだ。

彩 :「怪我は……ないかしら?」

再び光を取り戻した華維の瞳に最初に写ったのは血まみれになった彩の姿だった。

華維:「さ……いさん。彩さん!!なんで!!……なんで、そんな。
    ……私なんて庇う価値なんてないのに……。」

そう言う華維に寂しげに微笑みなが彩は口を開く。

彩 :「なぜかしら?……私には貴女が剣士の希望に見えたのよ。」

華維:「希望?」

彩 :「ええ。……貴女に価値がないなんてとんでもないわ。
    ……貴女に会えて本当によかった。……気持ちが少し救われたわ。」

華維:「そんな……そんな……。私は……彩さんが狩りをしてても何もできなくて……。
    こんな時だからお荷物じゃないって……ただそれだけで……。」

彩 :「最初から貴女はお荷物なんかじゃなかったわよ。だから、お行きなさい。」


自分を置いて逃げろというサイン。
華維にとって、それは承服しかねる提案。
自分を庇ってくれる人を置いて逃げるくらいなら、華維はここで死を選ぶ。


"私は剣士だ。"


人を守る盾であり、道を切り開く剣たる者。
たとえここで彩を見捨てて命は助かり生きながらえたとしても、
確実に剣士としてのココロは砕け、折れ、冒険者として死に至る。

華維:「いけません。」

彩 :「……。仕方のない子ね。命を落としたいなんて。」

華維:「仕方ないのはお互い様です!」

2人の生存を確認して怪物たちが再び標的を2人に絞り襲い始める。

彩:「ここに残る以上、死んだら承知しないわよ?」

華維:「こっちの台詞です。」

憎まれ口を叩きながら、背中合わせに伝わる安心感。

お互いに、もうここから出れないことは感じ取っている。
彩は先ほどの闇魔法の被弾で体力が限界に達しているし、
華維もスタミナ切れでもはやスキルを放つこともままならない。

それでも……諦め顔で死ぬくらいなら最期までもがく。
それが彼女たちの選択だった。

再び剣を振り、2人が怪物たちと戦い始めた瞬間、凛とした声が辺りに響き渡った。



"アレス"

???:「大体ですね~。彩さんはいちいち細かいこと気にしすぎなんですよ!ペガサスの
ネームプレート買いにいくから待っててって言ったのに、拗ねて先にサウスD行っちゃうし!」

彩 :「別に拗ねているわけではないわ。」

???:「いいえ~!絶対拗ねてます!このソードマンの……華維さんが戦える剣士さんだったから、
奇跡的に生き残ってただけじゃないですか!両手剣持ちで盾持ってないんだからそこらへんをもっとですね……。」


ガミガミガミガミ!


先ほどの危機から脱した彩と華維は、ドルイドに助けられ、アイアンシティー上層階の酒場に来ていた。

そして彩はその助けてもらったドルイドに延々と30分ほど説教を食らっている。
そのドルイドは彩のリングのリングメンバーで、名前を累(るい)と言った。

華維:「あ、あの累さん。もうそのへんで。ホントにもう平気ですから。」

累 :「む。華維さん、気をつけてくださいね。うちのマスターって……なんというか、その……バイセクシャルですから。」

彩 :「ご、誤解を招く発言はやめていただきたいわ。……ちょっと可愛い女の子を見ると手を伸ばしちゃうだけよ。」

華維:「あはは……。」

苦笑いの華維

累 :「(彩さんには渡しませんよ?華維さんは。)」

彩 :「(あら、私が目を付けて来たのに、随分じゃないかしら。)」

累 :「(だって、滅茶苦茶可愛いですよ。華維さん。プロポーションもいいし、あと2年くらいすれば、きっとものすごい美人になって競争激しくなりますよ!)」

彩 :「(じゃあ貴女もこの件に関しては同意ということでいいのかしら?)」

累 :「(ええ!今入れましょう!すぐ入れましょう!!)」

華維:「あの~」

彩 :「あ、な、何かしら?」

累とのバトルに熱くなっていた彩は華維の声を聞きはっと我に返った。

華維:「今日はありがとうございました。今度会うまでには私、きっともっと強くなってますから!」

彩 :「そう。……なら私も追い抜かれないように頑張らないといけないわね。」

華維:「追い抜くなんてそんな。……それで……あの……連絡先を教えてもらっても良いですか!?」

彩 :「ええ。もちろんいいわよ。……ライセンスに書いちゃえばいいかしら?」

華維:「はい!お、お願いします!!」

嬉々として冒険者ライセンスのフレンドリストを開く華維。

累 :「(ちょっと!!彩さん!ずるいですよ!!なに自分だけ華維さんとフレ録しちゃってるんですか!!)」

彩 :「(あら?悔しかったら貴女も自分の力で友達になればいいんじゃないかしら?クスクス)」

累 :「(クッ!)」


彩 :「はい。書けたわ。ところで華維。」


累 :「(ちょっ!異議あり!!なに呼び捨てとか羨ましいことしてるんですか!!訴えますよ!!!!)」

彩 :「(いいから黙ってなさい。)」


華維:「はい?なんですか?彩さん。」

彩 :「まだ所属リングがないみたいなのだけれど……あてはあるのかしら?」

華維:「いえ……。実はまだ連絡先をお聞きしたのも彩さんがはじめてで……。」


彩 :「(聞いた?ねえ聞いた?私が友達第一号だそうよ!)」

累 :「(クッ!彩さんが調子に乗れるのも今だけですよ!)」

彩 :「(負け犬はいつだって良い声でほえるものね。フフフ)」


彩 :「よかったら……私のリングに入ってもらえないかしら?歓迎するわ。」

華維:「え!?……えと、良いんですか?私なんかが入ってしまって。」

彩 :「もちろんよ。どうかしら?」

華維:「よ、喜んで入らせていただきます!!宜しくお願いします!!!」

彩 :「ええ。改めてよろしくね。華維。」



彩、累:「"Wild Flowersへようこそ!"」