菫の砂糖菓子 | 羊毛フェルトで紡ぐ不思議へんてこなものがたり♠︎アトリエ.バニラ

羊毛フェルトで紡ぐ不思議へんてこなものがたり♠︎アトリエ.バニラ

バニラのつくる、
不思議とヘンテコな世界。
羊毛フェルトや刺繍。
アンティークな素材でつくる、猫や動物、いろんなもの。
其々に
ひとつひとつの、
ものがたり。

今日はいつもの。

時々綴る

バニラの猫のものがたり。

2月にインスタで

少し載せたきりの猫の名です。






その前に、ちょこっと寄り道。


前回記事のように

「バニラの日常の一部」を

載せることがありますが。


“バニラさんって愉快な方なんですね。“

的なメッセージも

頂いたりします。



(ブログに来られない間に頂く事も

あり、遅くなって申し訳ない。)



「ものがたり」のような

記事の時にだけ、

たまたま目にして

読んで下さっている方々の

バニラのイメージは

違っていたのだろう。



裏切るようで悪いのだが

バニラは八兵衛並みの

「うっかり者」である。



先日などは

台所の床下収納に転げ落ちました。

(何故に)


最近

夫からの提案で採用してみた

「立ち飲み焼肉屋」設定。


自宅のフード下、店員バニラ。

ひたすら焼いて、

その場で飲みつつ、食べるという。

(夫が店員の日は、トラブルが多い)


彼はひととき、かりそめの

松岡修造&吉田類になれるのだ。




その後

やたらと周りの床板が滑るので

拭くのだけれど。

その「ついで」に

床下収納の米袋を出そうかな、と

思ってしまったバニラ。


よっこら蓋を開け、

さあ米袋〜、と

そのまま滑って穴に落ちた。


(先に床を拭くべきだったのだ)


収納庫はたいして深くもないが

穴の縁で背中を強打。

「痛い」の「い」しか発せず、

息も止まる。


ヒィヒィ這い出て


呻きながら服を脱ぎ捨て、

変な体勢でバンテリンを塗るわたし。


夫は

あの一瞬のうちに

どうしたらそんな事になるのか、

心配しつつも、困惑していた。




私が雨の日、コンビニでも

すっ転んだ記事はいつだったか。


油も水も、滑るのだ。

気をつけなくてはならない。











さて、と。

ここから本当に。

いつもの

バニラのものがたり。







『菫の砂糖菓子』





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バニラのメゾン・ド・ガトー。





ブラスの籠に美しく並んでいる。

クリスタリゼの

花びら粒が並んでいる。



ー僕の愛する人は、海の向こう。


いや、もうすぐ。

もうすぐ。


何度も願いながら、


何度も内ポケットに触れてみる。





僕は学者の端くれで、

研究分野の専門家と会う為

に出て、君に出会った。




石や花と話している方が、落ち着く。


そんな僕だから


周りの人からはいつも

遠巻きにされている。


コーヒーとミルクは

くるくると

美しく混ざり合うのに


僕の終わりはいつだって苦い。

もうあの苦味を思い出したくもない。


 


この先

誰かと暮らす「僕」なんて

想像もしていなかったし


仕事場での僕の存在は

さながら「透明人間」だ。


共同研究者の彼だけが

こんな僕を面白がってくれる。


「無神経な部分が

少しも無いやつは居ないよ」

彼はそう言う。


失態を思い出す時、

全く関係のない事柄について

独り言を言う癖がある。

苦味に耐えきれない僕の、

転位行動のようなもの。


「猫のような、あれだな」と

彼は言う。

大仰にせず、僕を軽くする。



今の僕にとっての唯一、

互いに友人だと言えるだろう。


それでいいのだ、と思っていた。




あの日、異国の地に降り

何か腹ごしらえを…と

頭を巡らせながら歩く僕は

思ったよりも疲れていた。


誘われたのは

そのせいだったのだろうか。



大通りの向こう、幾つかの路地。

そちらの方から

甘い糸を伸ばし、僕を捕える。


角のガラス窓。

細っそりとした手が、

まるで

指揮をしているようだった。

色とかたちを変え

伸びて、丸まる。


お伽噺の魔法使いのように。


僕が君に、

君は僕に気がついた。



それは風変わりなメゾン。

週ごと、週末と変わるお菓子。


ブラスの籠には、クリスタリゼ。


その日はシュクル・ダールの、

先週はカヌレの日、

週末はショコラ云々という具合に。




美しいものを作りだす、

その手に見惚れた。





『研究の為』だった筈なのに。

僕のアタマは

どうかしてしまったのだろうか。


調査メモを

とっていた筈の紙片には


の名前が。

あの魔法の手のカタチや

新しく覚えた菓子の名前が

そこかしこに踊っていて


現地で訪問した博士に

そんなメモを渡してしまうという

とんだ失態を演じた。





帰国の日。




「甘党」でもなかった僕が

滞在中に通ったメゾン。


君はどう思っているのだろう。

ある日突然現れた

「お菓子好き」の異国の学者を。



手先が冷たくなっている。

自然に、自然にだ。

「あれ」があれば、と。

ブラスの籠を見遣る。


それは果たして、あった。



美しいクリスタリゼ。

迷わずひとつ、手に取って

僕は彼女に差し出した。


「これを」


君の掌には『菫の砂糖菓子』


そうだ。いま。

花びら粒の結晶が

君の手の中に、それがあるうちに。


お代を置きながら、君の頬を窺う。


「そ、、。それを、あなたに」


額を伝うものが

僕の眼鏡を滑らせる。

声はうわずり、震えた気がする。


菫の花の色も知っている。

僕が言えない、短いことば。

きっと、君なら知っている筈。





張り詰めた、ピアノ線。

嗚呼、

ーこの沈黙を。僕はどうすれば。




こんな時に

どうしているのが正しいのか

何か言うべきなのか。



額を拭い、

眼鏡のブリッジを押し上げながら

もう一度、君の頬を窺う。


僕には薄すら、色づいて

見える、のだが、、。










あれから

僕の手紙も、僕の身体も、

何度も海を越えた。

遠い場所の蜜に焦がれ

君に甘く、絡めとられた僕。




それでも構わない。





[バニラのメゾン・ド・ガトー]

『菫の砂糖菓子』

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バニラの猫ブローチ。



猫本体はニードルフェルティング。

専用のニードルでチクチクする、

お馴染みの方法です。




そして…、「菫の花びら」




“クリスタリゼ” 


グラニュー糖をまぶした

クリスタリゼの結晶は

様々なアンティークビーズを使って。




飾りの花びらは「羊毛」と「布」。


チクチク刺す方法ではなく

水フェルトと言って、

石鹸温水でフェルト化させたもの。


チクチクしても作れます。

質感はこれよりももう少し

ふわふわ、モコモコと

少し厚みのある感じになります。


『どちらの質感にしたいか』で、

今回バニラは

水フェルトにしてみました。





◆作りたい物のイメージと質感

◆構造上のこと


これに合わせて

どの技法かを選択しています。


以前載せた記事の中の

「羊毛の立体きのこ」も

石鹸温水でフェルト化させたものです。

少し、書いたかな?あの時も。


「きのこ」で使った技法は

別の繊維(布)の上に羊毛を重ねて

一緒に縮絨させる

布フェルトというもの。

これを、通常よりも

かなり薄く薄く、作りました。




今回のものは

先ず、羊毛のみで

薄い花びら状の水フェルトを。


後から

薄い柄布を

裏地として縫い合わせました。


普通に布フェルトにすると…

「ワイヤーを使うこと」や

「裏地を縮絨させたくない」

作りたいイメージの

この花びらの構造上、都合が悪く。


今回はバニラ独自の方法をとりました。




小さな猫の飾りは様々でして。

この花びらは、

こんな風に出来ております。








今回は

そんな『菫の砂糖菓子』


学者とお菓子の、甘いものがたり。


では。


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