~ユノside~
──────チャンミンを抱きたい。
あの日以来、強くこみあげる衝動。
それは、…日を追うごとに薄れるどころか、濃く俺の中に根づいていく。
────男を抱くって、なんだよ?
今までそんな感情持ったことなんかなくて、……女に不自由してるわけじゃない。
遊ぶだけの相手ならいくらでも。
なのに、───チャンミンがいい。
一度、男同士についてネットで調べたら、─────こりゃ、蹴飛ばされるな。って、ちょっと、引いちまうくらいの。
何とか感情をごまかして、やっぱり生意気な口をききながら、それでも俺の後ろをついて回るチャンミンにそれなりに接してきたのに。
その日は前の晩が遅くて、…起きたらもう昼過ぎ。
いつもなら一緒に寝てるか、腹が減って冷蔵庫を漁ってるかのチャンミンがいない。
「チャンミン?」
キッチンにも、洗面所にも。
「…おい!…チャンミン!」
チャンミンに貸してる部屋にも、風呂にも、……チャンミンがいない。
馬鹿みたいにうろうろと。
今さらながら、チャンミンのことをまったく知らない自分に気づく。
チャンミンのこと。
聞こうと思えばいつでも聞けた。
今までどこに住んでいたのか、とか。
学生なのか、フリーターなのか、とか。
俺のところに急に転がり込んで心配する人はいないのか、とか。
無意識に避けてたんだな、…俺。
詮索して、鬱陶しがられて、…目の前から消えてしまうような気がして。
「……チャンミン。」
呼んでも、……もちろん返事はない。
最初から持っていたバッグもなくて、ちょっと散歩、ってわけではなさそうだ。
「……チャンミン。」
スーッと肩の力が抜けていく感覚。
子供の頃、庭に居ついた猫が、…かわいがっていたのに、急に来なくなった時の気持ちを思い出して。
今日は特に予定もなかったから、チャンミンを連れてどこかに出掛けようと、勝手に思っていた。
面倒くさいとか、つまらないとか、…多分、ってか、絶対言うけど、…それでもいつもついて来るから。
「あーあ。…何だよ?…薄情な猫め。」
リビングで大の字に寝転んで、目を閉じれば。
ぐるぐるとあいつの顔が浮かんでは消えて。
────うん。良かったんだ、これで。
このままじゃ俺、マジであぶない奴になりそうだったし。
はは、…って、自嘲気味に笑って、────はぁ、とため息。
ふと気づけば、……もう夕暮れ。
俺、どんだけだよ?
一日、っていうか半日は無駄にした。
チッ、と舌打ちしつつ起き上がり、またぼんやりしていたら。
───カチャ。
玄関?
……そういえば、あいつに合鍵渡してる。
「………ユノ?いるの?」
───────おまえっ!!
「…あ、いたんだ。」
「明け方急に、絶対外せない試験があるのを思い出しちゃってさ。」
「卒業さえすればいいって言われてるのに、卒業も危うくなるところだった。」
へへ、…と笑う。
「…おまえ、なに?学生なの?」
───何も知らない。
「ん。…言ってなかった?大学院の1年。」
───何もきいてない。
「…疲れたぁ。腹減ったぁ。…ねぇ?シャワー浴びていい?」
クルッとシャワーへ向かう背中を捕まえる。
「…な、なんだよ?…痛っ!…んっ!!」
後ろから、無理やり顔を寄せて強引にその唇を奪った。
「…んっ!!…な、…いや、…っ!」
─────もう、なにも聞こえない。