大野シェフによるデモンストレーション

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 「アルゼンチンで有名な日本人は?」と聞かれて、「大野剛浩さん」と答えるアルゼンチン人は少なくない。
 今回、料理人の大野さんが外務大臣表彰を受賞されるとのことで、大使公邸で行われる和食イベントに呼んで頂いた。大野さんは、スペインでバスク料理を学んだ後、裸一貫でアルゼンチンへやってきた。今では国営
TVで日本の家庭料理を教える番組を持ち、有名になった料理人である。



         右:福嶌大使 左:家族のマウリシオ

 

 両国の国歌が流れ、在アルゼンチン 福嶌教輝大使と大野さんの挨拶、そして受賞式が行われた。

 特別に設置されたキッチンブースで、大野さんによる和食のデモンストレーションが始まる。手際よく作業し、時にはジョークを言いながら、和食や料理を通じた日本文化を紹介する姿は、もはや料理人を超えたエンターテイナーだ。
 

 私たち日本人が当たり前で気づきもしない点を丁寧に解説する。箸と菜箸の違い、簡単に覚えられる箸の持ち方、照り焼きの漢字の意味、大野さんの日本食へのまなざしは、彼が過ごした海外生活の時間と、外国人に幾度となく伝えてきたことで培われた、究極に客観的なものだと思った。

 

 日本を出ると、日本を知らない人たちにいろんなことを聞かれる。外国語を話せても、自国のものを現地の言葉で説明できるようになるのは、どれだけの客観性を持って自分の文化をみることができるかどうかだと思う。

 




 来ていた多くのアルゼンチン人は、和食は食べたことはあると思うが、生で作っている過程を目にするのは初めての人がほとんどだっただろう。

彼の親近感の湧くデモンストレーションは、日本食という謎に満ちた繊細なイメージを、自分たちにもできるかもと思わせる魔法がその魅力である。

 大野さんが料理をしている間、たまたま私の隣にいた大野さんの娘さんと話をした。まだ中学生くらいだろうか、終始照れ臭そうにしていた。

 デモンストレーションが終わると、大野さんの周りには彼に温かい言葉をかける人々でいっぱいになった。日本から離れた異国の地で、みんなに愛されながら、自国の文化と向きあう人生。大野さんの笑顔は本当に輝いていた。



左:大野さん 中央右:マウリシオ 右:マウリシオの彼女フーサ


ERIKO