地理が苦手でもサッカーファンなら知っている、ブエノス・アイレスのボカ地区。私が滞在しているプエルト・マデーロの隣にある観光名所地区であるが、夜中でもひとりで自由に歩き回れるプエルト・マデーロと違って、治安はまずまず。バスに乗って行こうと思ったが、家族のマウリシオが連れて行ってくれることになった。
ボカ地区は、言わずと知れたタンゴ発祥の地。通りの名前でもある、 Caminito(カミニート)は、カルロス・ガルベルの有名なタンゴ曲の名前である。今年の春に滞在していたフィンランドでもタンゴを何度も聞いたが、どちらにも共通して言えるのが、“メランコリック、切なさ”ではないだろうか。
移民者で溢れかえっていた1880年代。フラストレーションのはけ口として、男同士が激しく踊ったのが、タンゴの始まりだった。次第に娼婦を相手に踊るようになり、現在のように男女で踊るようになった。
カミニートを歩いていると、観光客のためにタンゴを踊るカップルとすれ違う。それにしても、このボカ地区は政府が随分力をいれているだけあり、以前とは見違えるように綺麗になっている。
「あと10年もしたら、きっとここの土地の価値は10倍以上になるよ」
マウリシオも久しぶりに来たボカ地区の改善ぶりに驚いているようだった。
カミニートの外れには、ギネスブックにのっている世界最長のウォールグラフィックがある。壁に描かれている人々は、実際にこの地区に住んでいる人たちだ。あまり治安のよい場所ではないので、車も警察がいる前に路駐して、さっと見て回った。
私がボカに来ると必ず立ち寄るのが、キンケラ・マルティンの美術館。港の目の前にある彼の自宅だった場所が美術館となっている。移民者で溢れかえっていた時代、彼はこの港が一望できる窓から、いくつのドラマを見送ってきただろう。
私はアルゼンチンの芸術が好きだ。絵画、歌、文学には、私たち日本人にはない、生きていくための強さと生に対する執着がある。その素直なエネルギーが投影された作品から、様々な問いを投げかけられる。
⭐︎今日のご飯⭐︎
ERIKO