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飛行機の中で引いた風邪がこじれて、先週はほとんど何もせず、病院へ行ってあとはひたすら寝込んでいた。アルゼンチンに着いた途端、気が緩んだのかもしれない。
ブエノスアイレスで滞在している家族のマウリシオがディレクターを務めるKhalko’s Espacio(カルコス・エスパシオス)で、日本の木版画のアートコースが開催され、2日間連日参加させてもらった。
「自分の夢を追う大切さに気づいて、会社を辞めたんだ」
マウリシオは長年、某通信会社に勤めていたが、何か思い立ったように現役を退いて、昔からの夢だった芸術家活動の道を歩いている。今年には自分のアトリエを設け、そこでセミナーや展覧会などを精力的に行っている。楽天的で、寛容的だがビジネスセンスが高く、自分の活動を通して、周りの人々を幸せにする能力を持っている。彼の周りにいる人はいつも幸せそうだ。
版画の歴史の説明からコースはスタートし、筆、バレンなどの道具を製作するところから始まる。普通は準備されたものを使用するのが一般的だと思うが、この面倒なプロセスは、物がどう作られるのか知ること、使う物へ心を捧げることを体感できる、大切な機会でもある。そしてそのプロセスの中にこそ、本当の楽しみがある。
木版画は確か、小学校の時に授業で習ったことがあるが、それ以来関わったことがない。アレハンドラ先生は、メキシコに長年住んで木版画を勉強したアーティスト。丁寧に、丁寧に教えてくれる。
飲み回すのが一般的なマテ茶が回ってくると少し手を休め、柔らかい光が美しく差し込む白壁のアトリエで、版画だけに集中するというなんとも贅沢な時間だった。
一緒に受講したみんな。真手前がマウリシオ、真奥がアレハンドラ先生
初めてマウリシオに会った時、私はまだスペイン語が話せなかったし、彼はまだ美大学生だった。それから、彼も私も色んなことをしてきたなと思う。そして少しずつ、人との出会いを重ね、その輪が広がっていっている。一人ではできないことが、人との縁を通して、夢が現実になっていくのをしみじみと彼のアトリエで感じた。