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 イナリでのすべての予定は、天候や自然環境に左右される。私はヨウニさんが漁へ出るのに同行させてもらう予定なのだが、なかなか出発の気配はない。
「漁にはいつからでるの?」と聞くと、「なんでそんなことが気になるの?行くときは行くし、行かない時は行かないんだから、その時わかればいいじゃない」と家族に言われてしまう。
 すべての行動が突発的な彼らの行動は、予定に慣れてしまった私からすると、まだまだ彼らのペースをつかむことができない。昨日は風が強く、イナリ湖は白波が立っていた。雨も降ったり止んだり。

 ここへきて、とても嬉しいことの一つに、天気雨がよく降るということがある。太陽の光に雨粒が反射して、光と水がいっぺんに降り注ぎ、贅沢な気分になる。

 日曜日、ここに来てから一番美しい日となった。気温は20度まで上がり、みんな半袖を着て「夏がきた」と喜んでいる。家族の日課とも言えるイナリの村での買い物を済ませ、再び墓地を訪れた。
「天気がいいときはこうやって散歩をしにくるのよ」ヨウニさんの両親の墓石に
2羽の白鳥が描かれていることに気がついた。

「白鳥を見た後に、人が亡くなることが多いの。ヨウニの両親も亡くなる直前に真っ白い白鳥を見たわ。たまに湖に来たりすると必死で追い払うの」

 確かに白鳥はその姿こそ美しいが、あまりにも白く、不気味な感じがすることもある。

 今日のイナリ湖は水が透き通っている。私はこの庭とも言えるイナリ湖のほとりにある岩の上に座って波を見ている時間が好きだ。波が岩に当たる優しい音が心を慰撫する。冬になったらこの湖がすべて凍ってしまうなんて信じられない。毎日特別な場所へ出かけるわけなでもなく、ただ彼らと一緒の時を過ごすだけの時間、それが人の人生を知っていくことなんだろう。

ERIKO