カトマンズの空港


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 早朝4時に起床。朝の目覚めはいつも、自分が何のために早く起きているのか、すぐに把握できない。皆さんにはそんなことはないだろうか。たまに予定を書いたメモを枕物に置いて寝る時もあるほどだ。

 ホテルのロービーにはヒマラヤ観光のニナさんがすでに待っていてくれている。空港に着くと、今日からガイドをしてくれる、ラクパさんを紹介してくれた。しっかり日焼けした肌に細身の体、テキパキとしていて、日本語を話せる。空港は人でごった返していて、朝の静けさなどどこにもない。荷物もチャックインも彼に全部任せた。

「セスナに乗ったら、左側に座って下さい」ラクパさんがこっそりと教えてくれた左の後部座席からは、ヒマラヤの山々が見える。雲かと思って眺めていた部分が、高い山の連なりだったと気づいた時は、ハッと驚いた。
 大きな尻餅をつくように、ドンと音を立てたセスナ機は、カトマンズを出て40分後にルクラに到着した。

 歩き出す前に、近くのロッジらしき所で、カトマンズのホテルの人が持たせてくれた朝食を食べる。ゆで卵2つにナンとパイナップルジュース。昨日の夕食にもゆで卵が出て来たが、ネパールの人はよく食べるのだろうか。



                    ルクラの空港


 ラクパさんは、タマン族と呼ばれる民族。ネパールには数え切れないほどたくさんの民族が住む、言わずと知れた多民国家である。
 ラクパさんは、以前は登山ポーターとして働いていた。数年前バイク事故に遭い、膝を傷めてからは、トレッキングのガイドに従事している。事故で怪我を負ってしまったことは本当に残念だが、高山での仕事は常に死との隣り合わせというリスクもある。どちらが良かったなんて誰にも分からない。



                 エベレスト街道の地図



 8時にロッジを出発。ゾッキョやロバが体を揺らす度に鳴る鈴の音をいくつも通り過ぎながら、エベレスト街道を進む。ここが何度も耳にしていたエベレストへ続く道だ。
 風は冷たいが、太陽が体を温めてくれる。松の木が風に揺れて、葉が擦れる音がまるで川の流れのような音に聞こえる。大自然の中にぽつり佇む感覚。2日前まで都会の喧騒の中にいたことが、随分と前のことのようだ。






 時にどうしても、空にため息をつくような青空が見たくなる。そしたら、雲のことや太陽のことをもっと好きになるかも知れないから。そういう思いに突き動かされて、そっと遠くへ出かけるのだ。

 特急列車のようにすれ違う私たちの心は、いつもどこかに置き忘れているのかもしれない。体と心のスピードを整えなければ、いつまで経っても忘れ物がどこにあるのかさえ気づかないのだ。せめてもヒマラヤにいる時だけは、一つ一つに心を置くことを大切にしたいと思う。





 歩き始めて2時間、足が竦んでしまうような大きな吊り橋を渡り、小さな村でラクパさんの甥っ子の家を訪ねた。5ヶ月になる赤ちゃんを抱きながら、釜戸で魚を揚げている。薪で火を焼べながら揚げる油の音は随分と食欲をそそられる。コーヒーをごちそうになった。静かな時間だった。

 左手に、乳白色のドィドゥコシィー川が見え始めた。ドゥドゥはネパール語でミルクという意味。移り変わる景色は、体の疲れを忘れさせてくれる。

 午後11時半、今日宿泊するパクディン村のロッジに到着した。
 昼ご飯を食べていると隣で聞き慣れたスペイン語が。コスタリカから来ているカップルだった。コスタリカで登ったチリポ山の話しに花が咲き、何とも言えない嬉しいひとときだった。
 彼らのグループとは、エベレスト
BCまで同じ道のりを辿る。

 夕方、カルパさんの携帯に彼の弟からエベレストで雪崩があり、10人位が亡くなったと連絡があった。美しい山の姿の中には、脅威とも言える力が渦巻いている。



☆今日のご飯☆


モモと呼ばれるネパールの餃子 揚げたものと蒸したものがある


ERIKO