屋上の部屋


7/11

 初めての屋上部屋は、開放的過ぎて夜中には突風によって霧雨を顔に受け、眠りについたのは嵐が止んだ朝方の4時になった頃だった。こんなことがあれど、居心地の良さはホテルよりはるかに良い。きっと明日には慣れるだろう。

 ディマール・クラウディアさん一家は旦那のリカルドさんと、
2才になる娘のシャダニちゃんの3人家族。
クラウディアさんは
25歳から6年間、世界中を旅していた旅人で、ミュージシャンであった旦那のリカルドさんとはモロッコを旅行中に知り合ったのだとか。

 「ヨーロッパは特殊な方法を使って滞在先を確保しながら
1年ほど。アジアや南米は各地でペンキ塗りや掃除などの日雇いの仕事を探しながら生活して、旅を続けて・・・インドではアクセサリーの作り方を覚えて、それを売り歩いて旅したわ。なんせ行きの航空券代しか持ってなかったから」

 彼女は話すとき口を横に広げて笑顔で話し、「悪い→良くない、汚い→綺麗でない」といったように否定的な言葉は直接発しない。言葉が水に与える影響が存在するなら、彼女は体内の
60%が水分でできている我々の体に及ぼす言葉の影響は必ずあるということを、証明してくれるような美しさを持っている。




                   シャダニちゃん



 娘のシャダニちゃんは2歳だと言うのに、私の名前をすぐに覚えてくれた。「“エリコ”の発音を、スペイン語のQue rico!! (ケ・リコ)なんて美味しいの!」と繰り返して私の名前を呼ぶ。


 シャダニという名前は、オアハカ州に住む先住民、サポテコ族の言葉で、“舞い降りた花”を意味する、素敵な名前である。

 彼女は
2歳にしてすでにオムツが外れている。

 「オムツをすると自分で排泄したことに気がつかないから、小さい頃から外へ出る以外の時は、普通のパンツを履かせていたの。そうしたら今は自分からトイレと言うようになったわ。たまにお漏らししてしまうけど」

 大体何歳からオムツが取れるのか分からないが、少なくとも
2歳でオムツが外れた子供を私は見たことがない。

 旦那さんはインターネットを使って自宅で仕事をしており、近所には、ドイツ人であるクラウディアさんのお父さんと、メキシコ人であるお母さんが住んでいる。




            プエルト・エスコンディードの滞在先


 「この家大きいでしょう」

 確かにこの家の近所は大きな屋敷ばかりで高級住宅街のようになっている。

 「実はこの家、私たちのものではないの。この辺りは外国人の別荘地帯で、彼らはバケーションの時にしかここにこないのだけど、メキシコの法律で長い期間家を空けてはならないというものがあって、人を雇って住ませるのよ。だから彼らがここへ戻ってくるときには、私たちは
D.Fの近くにある彼の実家に滞在しているの」。

 そんな仕事があるだなんて夢にも思わない。

プエルト・エスコンディードのあるオアハカ州には“ミトラ”や“モンテ・アルバン”と言った、サポテコ文化の遺跡を見ることができる。同じ州にいれば気軽に行けると思ったが、今滞在している所からは8時間以上かかるので、今回は家族との時間を優先することに決めた。
ちなみに、オアハカ州の隣に位置するチアパス州はその昔、グアテマラの領土であったことから、グアテマラの先住民に似た人々の姿を見ることができ、もっともメキシコらしい場所とも言われている。

朝ごはんはカプレーゼのサラダと近所で買った焼きたてのパン。クラウディアさん一家の食事は野菜中心で、白砂糖を摂取しなかったり、自由に飼育されている鶏の卵しか食べなかったりと、食事に随分気を使っている。

 遅めの朝食を取って近所を散歩する。すれ違う人たちはほとんどがヒッピーかサーファー。

クラウディアさんとなんとなく女性の美容についての話になり、彼女が通っている、ベルカナセラピーを試してみることになった。

 このセラピーは水の中で行われるセラピーで、筋肉の緊張を和らげたり、退行催眠に近い施術を行うものである。
セラピストはロシオさんと言うので、てっきり男の人かと思いきや、女性だった。日焼けをした体や自然体な振る舞いから、何も言わなくても水や海を連想させる女性である。

 耳栓と鼻栓を装着してセッションに入る。体を水面に浮かせて目を瞑り、全ての動きを彼女に任せる。
360度体を水面に滑らせて、これまでに伸ばしたことのないような筋肉をストレッチする。浮いたり沈んだりを繰り返し、最後は15分水面に浮いた状態で呼吸だけ行った。

 「どうだった?」

 「初めてなので良く分かりませんが、力が全部抜けた気がします」。

 「あなた水が怖い?」

 「いえ、海も好きですし、水も怖くありません」。

 「おかしいわね。あなたの体、水の中に離すと妙に力が入るのよ」

 私は以前、東京に住んでいるときに、小田急線沿いにあった前世療法に通っていたことがある。好奇心とその時抱えていた悩みを解決するためだった。
2回目のセッションで出ていた前世は、アマゾン川に住む女の子だった。一人っ子の上、両親の仲が悪く、毎日怒鳴りあっていた彼らを避けるため、毎日川へ行きピンクの色をしたイルカが唯一の友達だった。そのイルカの群れの中に一匹だけ私に特に懐いていたイルカがいた。私が川へ入ると体を摺り寄せ、一緒に泳ごうと合図する。
ある日、水量が多く、水の流れが速い日に私は溺れて死んだ。
治療中に体感した圧迫感は、小さい頃から水の中に顔をつけた時に感じるものとまったく同じであった。




             セラピーを行う、ロシオさん


 「なるほどね、それならとても納得できるわ」。

 カトリックの多い中南米では、前世や霊などの話をしただけで、顔をしかめる人が多い中、彼女はスピリチュアルな経験をたくさんしているようで、すぐに私の話を理解してくれた。

 「今晩夢を見たら教えてちょうだい」。

 セッションが終わり、ロシオさんと家族のクラウディアさんが通う、アフリカンダンスのレッスンに参加した。
20人の女性と音楽を演奏する男性たちは、どこからどうみてもヒッピーである。足を怪我して以来のダンスレッスンは、思いのほかかなりハードなレッスンとなり、体がすっきりした。
東京にいるとき通っていた、週に
1回のダンスレッスンは、体と心の調子を随分整えてくれていたのを思い出す。





※ロシオさんのBerkana Terapiaはこちら

場所 Heroes Oxacunos La Punta, Puerto Escondido, Mexico

電話 9581089069




☆El plato del hoy☆ 今日のご飯


アステカ スープ アボガド、トルティージャ、チーズが入ったチリスープ

ERIKO