
世界遺産に登録されているサントドミンゴホテル
6/15
昨晩はアルゼンチンとグアテマラのサッカーの試合で道は大渋滞、家には近所の人達が集まりどんちゃん騒ぎとなった。
お世話になったエルサさんとヘルビンさんに、アンティグア行きのシャトルバスが出るホテルまで送ってもらい、お別れをした。二人ともまだ26才と若いが、働き者で温かい心を持った夫婦だった。
アンティグアまではバスで40分。今日からの4日間の旅は、協力会社さんのイツモトラベルさんにお世話になる。宿泊するサントドミンゴのホテルに到着すると、イツモトラベル代表の松本さんが出迎えてくれた。
1年以上前からメールでやりとりをさせてもらい、グアテマラに入国してからは毎日のように人の紹介や情報等を頂いている。彼女がいなかったら私のグアテマラ滞在は随分と違うものになっていただろうと思う。
荷物を預けて町を歩き始める。この雨期の時期に太陽の恵みはありがたい。石畳とコロニアルな家々が立ち並ぶ風景の先には、アグア火山が目の前に見える。標高は3760m、間近で見るとその三角形のシルエットの美しさに圧倒される。見渡す限り周囲には丘や山の景色が広がっており、先住民族の衣装を着た女性達や、日常の生活色と混ざった風景はどこをとっても美しい絵になる。
片桐はいりさんの弟さんが経営しているスペイン語学校の前を通過した。彼女の著書“グアテマラの弟”に出てくるまさにその話しの舞台となった場所である。
中米最古のサンホセ大聖堂を見学した。司教であり、大聖堂を設立したスペイン人のフランシスコ・マロキンは100ケツアールの人物像にもなっている。2秒で町を崩壊したと言われている、1773年7月29日に起った大地震で大部分が崩壊した教会の裏手には、教会の廃墟と崩れた建物のパーツが展示してある。東に大聖堂、西にマーケット、北に市庁舎、南に総統府跡が残る中央公園へ出た。どのの場所も商売が西に置かれやすいのは方角が関係しているのだろうか。
アンティグアは、現在のパナマからメキシコのチアパス州の中米エリアが収められた時、総統府が置かれた大変重要な土地であった。その後相次ぐ大地震による町の崩壊で現在のシウダ・デ・グアテマラに首都が遷された。壊滅状態になったアンティグアの建造物修復に大きく貢献したのは、ある一人の日本人であった。
屋須弘平は1846年12月27日、岩手県東磐井群藤沢に生まれる。蘭学を学んだ医者の息子に生まれた屋須氏は、幼い頃から蘭学の手ほどきを受けた。15歳で上京(当時の江戸へ)、漢学や医術、天文学を学び、外国に強い興味を持っていた。29歳の時、メキシコの天文観測隊の通訳をきっかけにグアテマラのアンティグアを訪れ、写真屋を開業、人々や建物の写真を数多く残し、半生をグアテマラに捧げた人物である。
今私が目にしているアンティグアの街並のあちらこちらには、彼が収めた写真をもとに命を吹き替えした教会たちや建物が数多くある。
熱心なキリスト信者であった彼は今もアンティグアの地に眠っている。日本の写真創成期の写真家である下岡蓮杖氏が写真館を開いたのは1862年。屋須氏が開業したのはその18年後であったが、無縁であった彼らは偶然にもキリスト教の洗礼を受けている。
屋須氏の写真が保管しているCIRMAを訪問させてもらった。真っ赤な口先をした2羽のカモが仲良くパティオを歩いている。
ラボの責任者であるアナイスさんが、屋須氏の写真を見せてくれた。そこには当時のアンティグアの街並や、結婚式や葬式などの人々の生活の記憶が写されていた。
彼の写真は芸術作品というより、過ぎていく時間の記憶を切り取る必要性に迫られてシャッターを押すという、写真が持つ本来の機能を素直に働かせたものであるようであり、じっくり時間をかけて描いた絵画のように、一枚一枚に時間の経過が感じられるものであった。
『今日の夜、スペインからの奨学金で写真を勉強している子達の展覧会があるので是非いらして下さい』
丁寧に展覧会にまで招待して頂き、土曜日で本来ならお休みであるところを駆けつけてくれたアナイスさんにお礼を言い、CIRMAを後にした。
サントドミンゴのホテルに戻ると、廊下は無数のロウソクでライトアップされている。入り口には、グアテマラの先住民族の写真を撮っている、西田擁平さんの作品が広いスペースに展示してあった。今日はなんだか写真に縁がある日だな。
展覧会ではグアテマラの写真家達が撮った、私の知らないグアテマラの姿があった。貧困、移民、明るい人々。
レセプションパーティーで会ったメキシコ人とアメリカ人のカップルと意気投合し、ホテルへ戻ったのは日付が変わった12時を過ぎた頃だった。夜道のアンティグアはフィレンツェの夜を思い出させる。
☆ El plato del hoy☆ 今日のご飯
Pache(パチェ) ジャガイモのタマル 木曜日に食べるスパイスの効いたタマル
販売しているお店の前には赤いランプが点灯される。