
儀式を行うエドガーさん 薬草にアルコールを付けているところ
6/6
『今日は浄化をするのにもってこいの日』
エドガーさんとアマンダさんは、国立公園のCerro del Baul(バウルの丘)へ連れて行ってくれた。
この丘には多くの秘密があると言われている。伝説によると、この丘はある裕福な家族が所有しており、トランクの中に宝を入れて埋め隠したそうだが、未だに見つかっていないと言われている。
ケツアルテナンゴで最も聖なる丘、10ノフオシュラフノフの丘が見渡せる場所でもある。
人気のない茂みの中を進んでいくと、儀式が行われる場所に到着した。
岩は幾度も火に焚かれているようで真っ黒になっている。
エドガーさんが地面に頭を付け儀式を始める挨拶をし、7種類の草に高度のアルコールを付け、私の体を叩き始めた。最後には前回同様、エドガーさんが口に含んだアルコールを全身にかけられ終了した。
今回は吐き気を催すこともなく、むしろ驚くほどスッキリした。
午後はケツアルテナンゴの町を散策し、ゆっくりとした時間を過ごした。
ケツアルテナンゴから車で20分のスニルという村を訪ねた。
ここには天然のサウナがあるということで、エドガーさん夫婦と先日儀式で一緒になった従兄弟で出かけた。
パッチワークのような山肌と川が見える。
スニル村はキチェー語で“川のある場所”を意味する。先住民族の女性の衣装もケツアルテナンゴで見るより、明るい色が多く使われている。
彼女たちが頭に大きな荷物を乗せて川沿いを歩く姿は非現実的にさえ見える。
Las cumbresと呼ばれるサウナはオシャレなスパのようになっていて、個室で天然サウナを楽しむことができる。暑いのは苦手でサウナには普段入らない私だが、ここのサウナは嫌な暑さではなく、体の芯から温まるような気持ちよさだった。
スピリチュアルガイドのビルマさんと サウナ帰りのため私サンダルです。
彼女はマヤと日本のスピリチュアルな合同儀式が行われた際、代表で来日をしたほど現代のマヤ宗教おいて大変重要な人物である。
儀式で使われるロウソクやアルコールなどを売っているお店と隣接した家からビルマさんが出てきた。
『どうぞ中へ入って下さい』
彼女は想像したいたよりも随分若く、そして強烈なオーラを発している。距離の離れた対面イスに腰掛け話しをする。彼女の両足はきちっと揃っており、手は優しく膝においてある。
『私は以前、日本でマヤとの合同儀式を行いました。あなた達の信仰とマヤ信仰の共通点の多さにとても驚き、親近感を感じました』
彼女は20歳の時からスピリチュアルガイドをしている。
『この仕事は生まれた時に決まるもので、なりたくてなるようなものではありません』
彼女は儀式が行われる家の奥を案内してくれた。炭で真っ黒になった壁には、たくさんの石でできたシンボルが置いてある。エドガーさんは神聖なものに出会ったかのように目を丸くし、祭壇の前で膝をついた。
『こちらへもどうぞ』
ベッドが置いてある部屋には、噂に聞いていたマヤの神様、サンシモンの姿があった。
『ちょっとやめておきます』
部屋に充満している強いエネルギーに圧倒されて、私の足は入り口の前で止まった。
『大丈夫だから、入って』
ビルマさんの手招きと、エドガーさんに手を掴まれサンシモンの前に立った。
サンシモンは、サンティアゴ・アティトゥランで見た、マシモンと同類の神様である。
『マヤの信仰が強くなったのは内戦をしていた頃でした。小さな村々は悲惨な状況となり、人々は我々の祖先である、マヤ信仰に精神をすがるようになったのです。キリスト教が普及した今日、サンシモンや儀式を前に十字架を胸できる人もいます。マヤ宗教とキリスト教が混在した形をなしているのです。しかし大切なのは、心の平和を得ることです』
彼女の瞳を一度見ると、目を外すことができなくなるほどロックオンされてしまう。彼女の身体を言葉で表現するならば、頭のてっぺんからつま先まで、知恵と経験の豊かさが詰まっているとでも言おうか。とにかく隙のない生きた人間である。
彼女に私のナワール(数字)はエーの12であると伝えると、初めて笑顔を見せてこう言った。
『良い道ね』
濃い時間とはこのような時間のことを指すのだろうか。
以前からサンシモンの話しは聞いていたが、サンティアゴでマシモンを見た後から少し体調が優れなかったので、今回は探してまで見るのは辞めようと決めていた。それなのにたまたま訪問した先が、サンシモンを祀ってある家だなんて、導かれたとしか言いようがない。
場所が違えば宗教や信じるものは異なる。しかし、きっと世界中全ての人達は、私達のたった一度の人生をよりよく生きたいと願っている。
ビルマさんと同じ空間を共にした経験は、私の人生で3本の指に入るほど大きなインパクトを与えた。
スニル村で行われていた葬儀 頭に乗せているのは死者が身につけていた衣類
ERIKO