マヤの儀式で使用する道具


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 死んだ祖父の夢を見た。最近よく夢に出て来る。昨晩は疲れていたのか金縛りにあったが、解けたあとはぐっすりと眠れた。
『10時からマヤの儀式をするから水以外は口にしないでね』
儀式に使用する道具を買いに家の前のマーケットへ買い出しに出かける。

 エドガーさん夫婦は朝5時に起きて、お店を開ける準備を始める。朝からハツラツとしていて、低血圧の私は羨ましい限りである。
ロウソク100本、ローズマリー、ローレル、コパル、生タバコ、砂糖、
エストラケ、クィルコを購入し、パティオで儀式の準備をする。
日によって儀式で使われる材料は変わってくるのだそうだ。

 マヤの儀式の目的は、問題に対する答えをもらい浄化することと、宇宙への感謝を捧げることである。エドガーさんはまず砂糖とクィルコで十字架を作り、下準備をする。
彼が着ている今日の
Tシャツは太陽の絵に日本と大きく書いてあり、なんだか神聖な儀式にはふさわしくないような気もするがまあいいとしよう。
アマンダさんの従兄弟も加わり、地面に膝を付けて大地に感謝を捧げることから儀式は始まった。

 マヤの十字架は方角によって色と意味合いがある。北は白で叡智や神、南は黄色で人間や物質、東は赤で太陽やエネルギー、西は黒で死や平和、道を表している。ちなみに日本の四神は北=黒、南=赤、東=緑、西=白を表す。この十字架の起源は生命の樹であるセイバの木であると言われている。

 昨晩、私の誕生日をエドガーさんが調べてくれた。私の人生の中心になるテーマは言葉を使った“商売”であり、お金には一生困ることはないと言われた。またテーマカラーは白であり、叡智を求めて勉強し続けることに縁があるのだそうだ。






 儀式が進められるにあたって大変重要となってくるのは、20までのナワールと呼ばれる数字である。ナワールはキチェー語で叡智という意味である。
今日は13の“カン”と呼ばれる日で、大地の母に感謝する日。
ナワール(数字)を一つ一つ唱えながら、ロウソク2本とエストラケ、砂糖を1つのまとまりとして火の中へ入れ、その数字が持つ意味と燃える火の様子で回答を読み取る。面白いことに、心の中で火に話しかけると、風もないのに火はこまめに形を変えてサインを出す。

 人生でこんなに長く火を見つめたことがあっただろうか。火というのはこちらが望めば形をとり、望まなければ形を持たない不思議な存在である。インド哲学の場合、火は聖なる知恵として扱われている。

 順調に儀式が進んでいくと思ったが、ティハシ(苦しみ)と意味がある数字に差し掛かったとき、吐き気を催した。
エドガーさんは『心配しないで。大丈夫』と言って笑顔でイスに私を座らせ、アルコールを口に含み、私の体の前方と後方に勢いよく吹きかけた。
意識が朦朧とした状態でなんとか20のナワール全てが終了した。終わった頃には頭がスッキリしてまた一皮むけたような感覚だった。
どうやら途中で体調が悪くなったのは、体内の悪いエネルギーが外に出たからだったそうだ。

 昼食は鳥肉のスープを食べた。アマンダさんとエドガーさんは肉を食べると体調が悪くなってしまうそうで普段は野菜が主食である。
エドガーさんは疲れていたのか昼食を食べ終わると、『熱いお湯を浴びてくる』と言って部屋へ入ったきり、この日は姿を現さなかった。

 夕方になると商品の納品で業者の人達が次々と入って来る。みんな礼儀正しく頭を下げて挨拶してくれる。グアテマラ人はゆったりした時間を内面に持っているが、礼儀正しく、相手との距離をとる。こんなに規律のあるラテンアメリカの国は初めてである。



   ケツアルテナンゴの家族右:アマンダさん 左:エドガーさん

ERIKO