Mulatup空港


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 8時半のフライトには少し早いが、渋滞とタクシーが見つからなかった場合を考慮して早めに家を出た。以外にも一番目に声をかけたタクシーに乗車に成功。運良くとても誠実な運転手に当たり、料金もパナマ人価格の3ドルでアルブロック空港に到着した。運転手のアベルさんの番号をしっかり控えてタクシーを下りた。

 今回サンブラス諸島の滞在でお世話になる、クナ族のフェリシダージ(以下フェリさん)とグレゴールさんと搭乗の列で再会した。飛行機は
30人の乗りのプロペラ機で、搭乗後いつものように離陸前には眠りについてしまい、1時間後、気づけば着陸態勢に入っていた。飛行機の座席に座ると必ずと言っていいほど睡魔に襲われる。



                船で家のある島へ移動


 到着した島の空港は、空港というより掘建て小屋に近い建物で、税金1ドル35セントを払い島へ入った。空港にはビビットカラーのクナ族の民族衣装を着た女性たちがたむろしている。
スペイン語は聞こえて来ない。フェリさんとグレゴリオさんはスペイン語が流暢に話せるので問題ないが、クナの人達のこと
少しでも多く知りたいならクナ語を話すしかない。挨拶と自己紹介、簡単な質問を聞いてノートにメモしながら、船に乗り換え彼らの家があるムラトゥプ島へ向かう。

 いつか秘境の地としてテレビで見たような、水上に建てられたカーニャ・ブランカ
(白いサトウキビ)でできたチョーサと呼ばれる家々が近づく。

 『アナ』(こんにちは)地元の子供達が船着き場の柵から乗り出すようにして、どこから来たのか分からない外国人を見つめ、こそこそ話しをしている。




         お世話になるフェリさんの実家


今日から3日間お世話になる家は、フェリさんの実家。お母さんのアデラさんとブラウン・バスティラスさんは伝統的なクナ族でスペイン語は話さない。
早速船の中で覚えたクナ語で自己紹介をし、近所の家と村長さんに挨拶回りに出かける。ムラトゥプ島は観光客が来るような島ではないので、ホテルも宿泊施設もなく、クナ族の人たちしか住んでいない。携帯の電波、インターネット、車もバイクも自転車もない。島の人達の唯一の通信手段は、島に一カ所だけ存在する電話センターのような小さい店のみである。

 この島には、ササルディー・ムラトゥプとササルディー・ヌエボと呼ばれる
2つのコミュニティーが存在し、外部から来た人間は村長ならぬ村で一番の権力者の所へ挨拶し、写真撮影の許可や、自分の身分を紹介し、怪しい者だと思われないようにしなければならない。2人の村長さんはどちらも快く歓迎してくれた。
この島に住むクナの人達は、所用などで島を離れる際は必ず彼らの許可が必要で、無断外出がバレると罰金がかせられる。グレゴリオさんはこの島唯一のドクターで、診療所で働いている。現在アメリカの援助で大きな病院も建設中である。



          チチャを振る舞ってくれた近所の人


 三軒隣りへ挨拶に行くと、チチャというチョコレートで作った飲み物を出してくれた。
ちょうど初潮を迎えた娘さんがいて、彼女がいる場所を案内してもらった。ビハオという巨大な葉っぱで隔離された小さな空間に彼女はちょこんと座っていた。ここでは初潮を迎えると、始めの一週間はビハオの葉っぱに囲まれた部屋に隔離され、1日
20回海水で体を洗われる。その間、家族であれ男性との接触は禁止される。地面と肌を直接接触させてはならないそうで、移動するときは葉っぱの上を歩いていた。
家族や親戚はお米を炊いたりチョコレートなどを用意して祝う。窮屈そうだったが、彼女は『全然平気!』とあっけらかんとしていた。



            初潮を迎えた子の隔離部屋


 お昼はアデラさんがクナ族伝統のトゥーレマースィというココナッツのスープにプラタノ(食用バナナ)が入った料理と鯛を振る舞ってくれた。フェリさんが手を使って食べるので、私も手で食べた。分かったのは魚は手で食べる方が旨い。


               トゥーレマースィーと鯛


 どこに行ってもそうだが、私は大抵新しい家族に食事のあとから『この子はなんでもよく食べる』と気に入られ始める。食べ方も家庭よって様々なので、家族の食べる様子を見ながらなんとなく習慣のようなものを把握し、同じようにする。それは食事だけではなく、生活自体もそうである。いくら寛大なラテンアメリカの家庭に滞在しているとはいえ、完全に自分のリズムでというわけにはいかない。それぞれの家庭には目に見えない生活の流れみたいなものがあり、部外者の私は悟られないようにその流れに乗るのだ。
フェリさんとグレゴリオさんはエバンヘリストなので、お祈りが始まる前には食事には手をつけない。



     レアルマドリッド戦を観戦する村の子達


 彼らの家には薄型のテレビがあり、午後は近所中の子供達がチャンピオンズリーグの観戦に来ていた。
夕方になると村の中心にある大きな家で、“
サイラ”と呼ばれる神と交信する儀式が行われた。サンスクリット語にも似たお経のような言葉をサイラスと呼ばれる二人の男性が唱え、その周りで女性はモラというクナ族伝統の刺繍を、男性は籠を編んでいる。
信仰対象である天は(神)“ババ”、大地の母はナナ(ナブワナ)と呼ばれており、天にまつわる神話を一人が読み上げ、もう一人が現代クナ語に訳す。私はなぜか昔から一見奇妙とも言える儀式や環境にとても興味がある。
ふと横を見るとフェリさんが船をこぎ始めているので家に戻ることにした。

 寝る前に本日
4回目の水浴びをし、水を一杯飲んだ。『エリコ、コップ洗った?』とフェリさんが聞くので、『洗ってない』と答えると、彼女がクスクス笑う。コップの中を見ると、蟻だらけだった。緑のコップの底を這う蟻を見て、蛾とかじゃなくて良かったと思ったのは、楽天的とは違うか・・・笑




                   お風呂場

ERIKO