
ダイアナさん、息子のイサックとタバタ
2/13
ダイアナさんの朝は早い。4時半には起床し朝のウォーキングに出かける。私が起きる7時頃にはとっくに掃除も終えている。
昨日は洗濯や原稿書き、ネイルサロンとマッサージを受けた。コロンビアは物価の高いイメージだが、ネイルは手と足両方で500円、マッサージは1時間強のフルコースで1700円だった。怪我をしている足もマッサージで随分と楽になった。
バス停でアレハンドロさんと合流する。彼は朝早かったからか、少し眠そうな顔をして登場した。昨晩夜遅くまで論文を書いていたらしい。
朝の賑わう町から山へ山へと向かう。サンタマルタから約30km、バスでは私の方がぐっすりと寝てしまった。
公園前に到着し、食品店でアレハンドロさんが紹介してくれるという先住民の家族に豆と米1リブラ(500g)購入した。
カラバソという出発地点から入り、しばらく歩くと登山道のようなコースに出た。タイロナ公園の広さは150平方km。ハイキング程度かと思っていたが、本格的な山登りを軽装ですることとなってしまった。
1時間ほど歩くと、コギ族の家族が住む家に到着した。
シエラ・ネバーダ山の周囲には、アルグアコス族、ウィグアス族、カンクアム族、コギ族の主に4つのグループの先住民が住んでいる。
彼らは水の神様(女)であるシエラ・ネバダ山のチャンドゥワ(万年雪)を象徴する白の衣服に身を包んでいる。
彼らにお土産を渡すと、コギヤン語で返事をされた。きっとありがとうという意味であろう。彼らに髪の毛を切る習慣はなく、女性も男性も長い髪をしている。家のお父さん、フアンさんはスペイン語が話せるので、コギヤン語で何と言うか尋ねながら、奥さんや子供達とコミュニケーションを試みた。アレハンドロさんと一緒だったこともあって、彼らは終始笑顔で接してくれた。
ミコス・ノクトゥルノスと呼ばれる夜に活動すると言われるサルの顔をした木
再び歩みを続けると登りがきつくなり息も乱れ、そのうち足場を探さなければならないほどの岩だらけになった。それに対して森は静かで湿り気があり、お気楽な鳥達の声が聞こえる。途中、山の奥へ続く階段をいくつか見つけた。その奥は瞑想をするための洞窟があるそうだが、聖なる場所なので何も知らない私が興味本位で近づくのは避けた。
瞑想は主に日常に起る良いとこ、悪いこと、夢に出て来たことなどを話し、思考として供物を捧げる。瞑想は石や綿を手に持って行われる。綿は人間の肌に一番近く、また何でも吸収(学ぶ)するという意味合いが含まれているのだそうだ。
話を聞いていると、彼らの根本的な考え方はボリビア・ペルーのパチャママ信仰にとてもよく似ている。大きく違う点は、信仰がカトリックやクリスチャンといったものと混ざっていないことである。
みんなの休憩所となるチャイラマ村で、石で円形囲まれ排水路が設備されている住居跡を見て回る。巧妙に積み重なる石からは、彼らの当時の生活が実に高度であったかが見てとれる。
途中足をひねりながらも15kmの道のりを突破し、カボ海岸へ出た。ビーチは観光客で賑わっており、あちらこちらから英語で話す声が聞こえ、時折風にのってマリファナの臭いが鼻につく。
このカボ海岸は昔、外国の各地から先住民が訪れ、先住民同士の国際交流が行われていた場所である。その影響で、ここに残っている文化が他の先住民文化と類似していることが多い。
『帰りはランチェ(船)で戻ろう、海から歩いた道のりを見るのは絶景だよ』
アレハンドロさんの勧めでサンタマルタまでランチェで戻ることになった。ランチェは高波に対して時速80kmで突っ走り、景色を楽しむどころか、水しぶきで下着も何もかもずぶ濡れになった。山に登り来たのにまさか帰りは全身海水まみれになるなんて思ってもみなかった。
私が旅をする国々で先住民の文化に触れたいのは理由がある。
彼らが自然と極端に近い距離で生活をしていること。生存のための営みを肉体と精神をフルに使って行い、それでいて“死”に対して率直に向き合う人間としての誠実さを感じるからだ。そういう彼らに私は単純に惹かれるのだ。
ERIKO