
ヨルワの祭壇
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先日お腹と足を診てもらったCrador(治す人)の治療法が気になっていたのでどこで詳しく知ることが出来るか家族に相談していると、たまたま家に遊びに来ていたアレンさんが、『そのことについて良く知っている人を紹介してあげる』と言ってくれた。
さっそくアポを取って家からグアグア(バス)で10分位のある女性の家へ向かった。夕方だったためかグアグアは満員だったが、私とアレンさんが乗車するとすぐに男の人たちが席を譲ってくれた。
少し遅れて到着したせいで、フアナさんは機嫌が悪かった。
『もう待ちくたびれたわ』と言いつつも、私の松葉杖を見ると機嫌を取り戻す材料を見つけたかのように笑顔で挨拶してくれた。
フアナさんはどこかで見たことのある上下白の服装で頭に黄色いバンダナを巻いている。のちにブラジルのサルバドルで見たカンドンブレと類似したものだと知ることになるのだが。
地下の教会へ案内してくれた。部屋の中は三角の白い紙が天井からぶら下がり、祭壇のような場所には無数の人形が飾られていた。その中には映画“ブエナビスタ・ソシアルクラブ”で、イブラヒム・フェレル・プラナスの自宅でインタビューを行った時に彼が紹介していた像と同じものもあった。
ロウソクに灯を付けて私の質問に答えてくれた。
『ヨルバはキューバで一番ポピュラーな宗教で、またたくさんのサント(聖人)がいるというイメージがあるのですが、具体的に何を信仰しているか教えて下さい』
『ヨルワ(ヨルバ)にはサンテリーア、エスピリティスム、パロ、ババラオ、ガンガ(カスエラ)と呼ばれる5つのラーマ(道)があり、それぞれに守ってくれるサントがいます。しかし我々にとっての神はイエス・キリスト一人です』
フアナ・デルガードさんはラーマの一つであるエスピリティスムのいわゆる霊媒師、分かりやすく例えると牧師やお坊さんのような人であり、Espiritista(エスピリティスタ)と呼ばれている。主に死者の霊を呼び起こし、その力を使って病気を治したりする人だ。
『私は昔声が出なかったの。それが治ったことからヨルワを信仰するようになったわ』
彼女は飾ってある人形の名前を次々と言ったが、聞いたことのない言葉に聞き取るのが精一杯だった。ミサは月の初めの土曜日に行われているようだか、ヨルワが決まってこの日にミサが行われているかと言えばそうでなく、これもラーマやエスピリティスタによって違うのだそうだ。
もともとナイジェリアから来たヨルワだが、今ではキューバの方がナイジェリアよりも元祖のヨルワが信仰されていると言われている。
一通り説明が終わると、フアナさんが家に招いてジュースを出してくれた。外はもうすっかり暗くなっていたのでフアナさんにお礼を言ってアレンさんとバス停へ急いだ。雨が降り出しそうな空だった。
キューバの一見何の変哲もなく見えるアパートは一室一室謎と発見に満ちている。