そう簡単には目的地に着かせてもらえない。結論から言うと、今日入国する予定だったドミニカ共和国へは入れなかった。そして私は今、アンティグア・バーブーダという小アンティル諸島にあるイギリス連邦加盟国にいる。

 昨晩は家が飛ばされてしまうかと思うほどの強風と豪雨で何度も目が覚めた。雨が降っている時に吹く風はひんやり湿って気持ちがいい。
お世話になった滞在先の方に空港まで送ってもらい、今日の目的地ドミニカ共和国へ向かう。今回は車椅子を出してもらえたので空港内の移動は随分と楽だった。




        上空から見たアンティグアバーブーダ


 1時間半ほどで乗り換え地、アンティグア・バーブーダのVCバード国際空港へ到着。始めは不安だったLIAT航空のプロペラ機も平気になった。
飛行機を降りるとイミグレの扉の前で“Wonderful World”を歌う陽気なおじさんが路上ライブのようなことをしている。私のアンティグアの印象はミルキーウェイのような海とスティービーワンダーとなった。

 飛行機は当初、ドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴまで直行の予定だった。が、出発直前に
『昨日キャンセルとなったTortola(トルトラ)島を経由しての飛行となります』
というアナウンスが流れ、30分遅れてようやく離陸した。
プエルトリコの側にある島、トルトラを経由し、やっとサント・ドミンゴへ向かい出した矢先、再び機内アナウンスが流れた。
『コクピットの窓ガラスにヒビが入り、このまま高度を上げると割れる可能性があるため、一度アンティグアへ戻ります。大変申し訳ありません』

そう言ったわけで、私は今アンティグア・バブーダという国にいるのだ。旅の13カ国目はひょんなことからここになってしまった。

 飛行機を降り、LIATのカウンターの横で私は乗客全員の手続きの様子を車椅子からずっと眺めていた。すると面白いことに気がついた。
乗客は全員で20名弱だったが、『どうしてくれるんだ!次のフライトは何時だ?』などと文句を言っているのはヨーロッパ人ばかりだった。
カリブや中南米の人達は『良かったわ、何もなくて』と口にしている。
そして彼らのほとんどはビジネスフライトであり、ヨーロッパの人達はバケーションで来ているのだった。
みんなが同じ出来事に遭遇しているのに、笑顔でいる人としかめっ面をしているがいる。

 中南米の国々人々の幸福度指数が極めて高いのは、出来事への受け止め方と些細なことでも喜んだり感謝できる心を持っていること。
そして彼らの幸せを感じるハードルが低いせいかもしれない。
便利な社会が当たり前の生活を送っていると、自然と幸せのハードルも上がる。しかし世界中の人々はみんな幸せに生き、自分の人生を良くしたいという共通の願いを持っている。
幸せのマスター達からそのヒントを得るために私はこの旅で中南米を選んだのだったともう一度思い出した。
そして幸せそうにしている人達にはさらに幸せが来るもので、その後のスタッフの対応には雲泥の差があった。働く人も人間だから、理解してくれる人達にはよくしてあげようと思うものだ。

 今晩は海辺のリゾートホテルで一晩過ごし、早朝に空港へ出かける。
私の重たい荷物はバルバドスから一緒だった、ベネズエラ人家族の息子のシモン君12才が全部運んでくれている。
明日こそ、飛行機が飛べばドミニカ共和国へ入国する。




ERIKO