Tobago Caysの海


2日目

 朝8時、コッツェ先生が作るコーヒーの匂いで目が覚めた。とびきり濃いブラックコーヒーにたっぷりの砂糖が入っている。朝ご飯はダニエルさんが目玉焼きとトースト、焼豚を作ってくれた。

 朝食が終えると、再び船を走らせる。今日は風が強い。
海の一部である波は塊となってうねりをつくり、いつしかどこかにぶつかってしぶきをあげる。分裂したようにさえ見える波たちは、自分も海の一部だと感じているのだろうか。
船体は手すりが水面に付きそうなほど傾き、ただ座っているのも大変である。

 5
時間ほど船の揺れに耐えると、急に穏やかな海域に出た。すると辺り一面透き通ったエメラルドグリーンの海が広がっている。
海面で小刻みに打つ波のエッジは太陽の光に当たり白く輝き、一層海の美しさを引き立たせた。
気がつくと私たちはグレナダの隣の国、セント・ヴィンセントへ来ていた。思わぬ形で旅の
11カ国目に突入していたのである。
ここで一度碇を下し、ゴムボートで
Tobago Cays(トベゴ・キース島)へ向かう。
宝石のような海に黒い陰ができたかと思うと、その物体はゆっくり浮上しかわいい頭を覗かせて呼吸をしている。この辺りではたくさんのウミガメに遭遇することもできるのだ。

 トベゴ・キース島の海は温かくてしょっぱい。海に入ったのは何ヶ月振りだろうか。これまでに溜った体の濁りが浄化されていくようである。
2時間ほど昼寝をし、今日碇泊するUnion Island(ユニオン・アイランド)まで移動する。




        海の真ん中にポツンとあるバー


 『これからバーへ行こう!』
こんな海の真ん中でバーなんてある訳ない。コッツェ先生がカクテルでも作ってくれるのだろうか。と、思っていたらボートを出して移動の準備を始めている。
遠くを見ると、派手な明かりがチカチカしているではないか。
Happy Island(ハッピーアイランド)と呼ばれるそのお店は、海の真ん中にポツンと浮かんでいる。バーカウンターと手作り感たっぷりのテーブルが砂の上に設置されている。
『ジョーン!』と、コッツェ先生がカウンターの奥に向かって叫ぶと、胸までの長さのドレッドを付けたマスターのジョン・
Tが出てきた。
トロピカルなスムージーを飲みながら、太陽が沈み、星の束が天の川を作り、巨大な月が昇ってくるのを眺めた。

 以前、星を読みながら航海をするミクロネシアの人達の話を聞いたことがある。我々の頭上に見えなくとも必ずある星たちは、それぞれの人間に様々な意味を与えている。星たちが彼らにとって航路を取る指針なら、私にとっては一体なんなのだろうか。

 カウンターの奥では、ジョン・
Tが気持ち良さそうに音楽に体を委ねながら歌っている。このHappy Islandは、2002年にジョンがランビーという貝殻を土台にして作った島。
店の奥にはその建設の様子の写真が貼られていた。
『よく作ったな~』素直にそう思った。
船に戻り、ダニエルさんが作ってくれたリブロースとソーセージをたらふく食べて就寝。
11時頃だったと思う。



      ランビーで作ったハッピーアイランドの土台



           船から見たハッピーアイランド


ERIKO