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 この旅で一番短い滞在期間となってしまったウルグアイであったが、フェルナンドさん一家のお陰で、とても充実した滞在となった。
昨日は彼らの友達のフロレンシアも送別会に来てくれ、夜遅くまでゲームをしたりして盛り上がった。
当初ウルグアイへ来た時は、アルゼンチンと似たような印象を受けたが、滞在してみるとたくさんの違いに気づいた。
ウルグアイは、他の南米の国のように山脈や海がなく、土着の先住民文化もほとんどない。田舎の方の風景はわずかに起状のある平地である。
南米の中では一番ヨーロッパに近い雰囲気を持っている国ではないだろうか。人々からは礼儀正しく、落ち着いた印象を受ける。
リゾート地のプンタ・デル・エステは、アルゼンチンやブラジルから毎年多くの観光客が訪れ、別荘地としても有名である。
ウルグアイの安定した政治と治安環境や気候から、移住をしてくる外国人も少なくない。
滞在させてもらった家の元サッカー選手のフェルナンドさんは、約10年前にプレー中、大きな怪我を負い、サッカーは出来なくなってしまった。
『サッカーが出来なくなった後の3年間は、TVでもなんでも“サッカー”といものに触れることができなかった』サッカー選手が足を使えなくなるのは、ピアニストが指を失ってしまうようなものである。
今はFIFAの機関でスカウトを行い、選手の発掘をしている。
この大きな壁を乗り越えたのも、パワフルな奥さんのアマリアさんの支えが大きかっただろう。
『怪我をしたとき夫にこう言ったの。“新しいことをしましょう。”お陰で足を切らなくて済んだし、人生は何が起るか本当に分からないの。後ろばかり見ていても解決しないから。そして楽しむこと。サッカーばかりして遊びにも出ない息子にもよく話すんだけど、仕事は人生の目的地ではないということ。仕事は、人生の目的地へ着くための移動手段なの。あなたがモデルという仕事を離れて、今こうしてたくさんのことを知ろうとしているのはとても良いことだと思うわ』
アマリアさんの前向きな力で、フェルナンドさんは新しい一歩を踏み出せたのだと思う。いつも笑いの絶えない、賑やかな家庭を知ることができて、また一つ心の中に帰る場所ができた。

 新しい建物の匂いがする空港で、フェルナンドさんは泣いていた。
『たった5日だったけど、色んなことを感じた時間だった、ありがとう』183cmの大男は、子供のような心を持っていた。人と人との心を結ぶのは時間の長さではない。
モンテビデオに来てから一番の晴天の中を飛行機は飛び立っていった。



スタンドに遊びに来ていた、元ウルグアイ代表ゴールキーパーのフェルナンド・アラベスさんと


ERIKO