土曜日、どの家族もやるようにスーパーへ食料を買いに出かけた。
マリアの子供、双子のケイも一緒だ。
ケイは大人みたいな子供で、普段からあまり子供っぽい仕草をしない。
今日は、いつも忙しいお母さんと出かけることが出来て、表情には出さないがとても嬉しそうだった。

 “Wong”という巨大スーパーに到着して、さっそく買い物を始めた。
マリアは買わなければならない物を思い出しながら、棚に並んでいる品物を次から次へとカゴに入れていく。
ケイはお母さんの後について、体のサイズに相応しない大きなカゴを押している。
15分くらい経った頃だろうか、ケイの様子がおかしくなってきた。
どうやら買い物に一生懸命のお母さんが気に入らないようだった。
しばらくするとぐずり出し、仕舞には静かに泣き出してしまった。

 マリアは毎朝早くに仕事へ行き、家へ帰ってからも書斎で夜中まで仕事をしていることが多い。子供達の面倒は主にお手伝いのクレオさんが見ている。
私も小さい頃は両親が共働きで家にいなかったため、ケイがどうしてこのような態度を取るのか、痛いほど気持ちが分かった。
ケイはせっかくお母さんと一緒にいるのに、嬉しさを素直に表現しきれず、もがいていた。
泣いているケイに、近くにいたおばさんがティッシュを出して涙を拭いてあげていた。
ケイはマリアに『どうして泣いているの?』と聞かれても、何も答えられずに、ただマリアの服を掴みながら泣き続けた。

 ケイがトイレに行きたいと言うので私が連れて行くと、『寂しかった』と、ぼっそっと言った。
マリアは子供達のために一生懸命働いている。どんなに忙しくてもいつも子供達のことを思っていると話している。
ケイにその事を伝えると、黙ったまま私の方を見た。

 トイレから戻ると、すっかり元気になっていた。
時に私たちは、与えられているものに気づかずに、足りないものを探し続けている。
辛いと感じるときは、大概与えられているものを忘れている。
与えられているものにどれだけ気づくか。感謝の数だけ人は幸せになるのだ。
ケイとマリアの姿を見てそう思った。
 
   

ERIKO